「破れるまで同じ服を着る」お客様をどう接客するのか?日本一のカリスマ店員に輝いた丸の内びとに極意を聞く―― 仁藤はるかさん
2026年02月06日 12時00分更新
丸の内LOVEWalker総編集長の玉置泰紀が、丸の内エリアのキーパーソンに会いに行き、現在のプロジェクトや取り組みなどのエピソードを聞く本連載。第30回は、「トゥモローランド 丸の内店」の仁藤はるかさんにお話を伺った。
「店に来ること」自体が目的になる店を目指して
大人のファッションと街の文化が交差する東京・丸の内。丸の内仲通りに面する「トゥモローランド 丸の内店」には、令和のカリスマ店員を競うコンテスト「STAFF OF THE YEAR 2025」でグランプリに輝いたスタッフ、仁藤はるかさんが働いている。スタイリングだけでなく、会話を通じてお客様の心をひらき、“予想外の似合う”を一緒に見つけていく彼女の接客スタイルは、なぜ支持を集めたのか。丸の内という街だからこそ生まれた、新しいショッピング体験とは――。全国約7万人の接客のプロの中で頂点に立った仁藤さんに話を聞いた。
――まず最初に、トゥモローランドのカンパニーとしての歴史とブランドの特徴について教えてください。
仁藤「1978年にニットメーカーとしてスタートし、今年で創業48年を迎えました。ファッションを通じてお客様に喜びを与え、心の豊かさを提供することをヴィジョンに掲げ、『衣・食・住・遊・知』のすべてを提案しています。現在10以上のハウスブランドがあり、その中で軸を担うのが『トゥモローランド』です。トラディショナルなマインドを大切にしながら、クラシックとモダンが交差する洗練されたスタイルを提案しています。現在はハウスブランド以外にもカジュアルからドレスまで、国内外の多彩なブランドをセレクトしていて、自由な表現とオリジナリティあふれる空間づくりを通して、トゥモローランドならではの世界観やスタイルを発信しています」
トゥモローランド 丸の内店は規模が非常に大きく、200坪以上ある。ビジネスウェア、デニムやTシャツなどラフな感じのデイリーカジュアル、ちょっとしたお食事やパーティに行けるインポートのドレスラインまで、ひとつのお店で幅広く提案できるところが特徴だ。
仁藤「百貨店の一角とは違い、“店に来ること自体が目的になる店”を目指しているのが丸の内店の特徴だと思います。東京に来た地方のお客様が“まず丸の内店に寄ろう”と考えてくださることも多いんです。私は勝手ながら“東京にあるトゥモローランドの玄関口”だと思っています。東京駅から出て仲通りに入り、一番初めに出会う店。丸の内の象徴のような立地でお客様をお迎えできることは、とても大きな意味があると感じています」
――仁藤さんが丸の内のお店に来られたのはいつ頃なんでしょうか?
仁藤「私は中途入社で、大学を出てすぐここに来たわけではないんです。2017年に入社後丸の内店に配属されて、その後新たにオープンする日本橋店に異動した後、2021年の3月頃に丸の内店に戻ってきました」
全国規模のコンテストでグランプリを獲得した背景には、ブランドとしての歴史や接客文化、そして丸の内という街で積み重ねてきた日々の実践がある。
今回仁藤さんが栄冠に輝いた「STAFF OF THE YEAR 2025」は、株式会社バニッシュ・スタンダードの STAFF START(スタッフスタート)という“スタッフDX”サービス内の、接客業のトッププロを決めるコンテストだ。どんなプロセスを経て頂点に立つことになったのだろうか。
――全国の接客に携わる人々の中のグランプリに選ばれるなんて、すごいことですね!
仁藤「そうですね。このエリアには BEAMS さん、UNITED ARROWSさんなど、いろいろなブランドがありますが、多くのブランドがおそらくバニッシュ・スタンダードさんの“スタッフDX”サービスを利用しているのではないかと思います。
大会には約3,000ブランドがエントリーしていて、ブランドによっては複数人が出場するので正確な大会参加人数は分からないのですが…」
――選考はどんな感じで進んでいくんでしょうか。
仁藤「まずはスタッフのスタイリング投稿による売上高が基準になります。企業内で売上の上位10%以内に入るなど、いくつかある内の何らかの指標を満たせなければ、次のステージへは進めません。北海道から九州まで、全スタッフの中で競い合う形です。
セカンド・サードステージでは、売上に加えて“応援ポイント”が加算されます。WEB上でお客様が“推しスタッフ”に毎日投票できる仕組みがあり、これが評価に含まれます。お店のスタッフやファンの方にも毎日投票してもらえるんです」
――なるほど! 本当にお客様の声が反映されるんですね。最後にリアルな対面審査もあるんですか?
仁藤「あります。ファイナルステージ直前の審査では、動画制作やミステリーショッパーによる審査も行われました。ミステリーショッパーは、お客様のふりをしてスタッフの接客をチェックされる調査のことです。長年販売をしていると“あ、この人ミステリーショッパーの方かな?”って気づくこともあります(笑)」
――そうなんですね(笑)。最後の審査はどこで行われたんですか?
仁藤「渋谷ヒカリエのホールです。全国から14名(アパレル部門12名、物販部門2名)のファイナリストが選ばれ、そこからトーナメント形式で勝ち上がります。お客様のふりをした演者さんがお買い物に来るロールプレイング接客対決、販売員としての想いや理念を語るスピーチ審査、最後は上位1位と2位による8分間のスタイリングバトルがあり、この3つの総合点で優勝者が決まります」
接客の極意は「お客様の人となりを知り、会話の中から提案する」こと
――「スタイリングバトル」はどんな内容だったのでしょう?
仁藤「演者さんではなく一般の方をスタイリングするので、普段着ている服や悩みもすべてリアル。私が担当したのは23歳の女性で、お洋服はすべてお母様が買って、破れるまで同じ服を着るほどファッションに無頓着なタイプの方でした。服を“選ぶ”という経験がほとんどなく、今回の大会をきっかけに自分を変えたいということで参加されたそうです。対戦相手の方は、ゴスロリしか着ない女性をスタイリングしていました」
――両者ともにキャラが立っていますね! でも、8分間でスタイリングって相当難しいですよね?
仁藤「とにかく最優先は、その短時間で“相手の心を開くこと”でした。好みを知らない状態で服をおすすめするわけにもいかないので、会話しながら人となりを読み取ることが重要です。3パターンの全身コーデを用意していましたが、当日の印象に合わせて組み替えることもしました。事前に簡単な資料があるとはいえ、実際に会うまで体型は分からないので、“肩が意外としっかりしているな”とか“ウエストがすごく細いな”などと微調整しました」
――スタイリングの中で、彼女の“推し”も反映したとか?
仁藤「はい、彼女の推しの男性アイドルの方がよくイヤーカフをつけていると聞いたんです。彼女自身はアクセサリーをつけたことがほとんどなくて、憧れていたアイテムだったそうなので、スタイリングに取り入れました。終わったあとに“気持ちが晴れやかになって、お仕事も頑張ってみようと思った”と言ってくれて、それがすごく嬉しかったですね」
――ちなみに、仁藤さんがファイナルに進むのは初めてだったんですか?
仁藤「そうですね。大会は今回が2回目ですが、昨年はファイナルステージの一歩手前で落ちてしまい、セミファイナリスト止まりでした。舞台に立てたのは今年が初めてです。私の相手は大会の優勝経験者で、アパレル歴も私より10年長いとても有名な方でした。まさに強豪でしたね」
――それは手ごわい対戦相手でしたね。最終的に優勝されましたが、どんなポイントが評価されたと思いますか?
仁藤「スタイリングだけでなく、“接客の姿勢”や“心の動かし方”が総合的に評価されたのだと思います。審査項目はすべて公表されませんが、“言葉にできない部分”を見ていただけたのだと感じています。
大会の戦い方もありますが、私はあえて戦略を立てず、普段の接客をそのまま舞台に持っていくという気持ちで挑んでいました。販売員として思っていることや、洋服の楽しみ方だとか、普段やっていることをそのまま表現できたらいいなと思っていて。それが、お客様や同業の方にも伝わって、“お洋服の世界っていいな”と思ってもらえたら……という気持ちがすごく強かったんです。なので、その姿勢を評価していただけたのが嬉しかったです」
――優勝が決まった瞬間、どう感じました?
仁藤「正直、“私が?”という驚きが大きかったです。相手の方はこのコンテストのファイナルステージを何度も経験されている方だったので。時間が経つにつれ、点数では測れない部分を評価してもらえたんだなと感じられて、アパレル業界にとっても何か新しい価値を伝えられたのではと思います」
――仁藤さんにとって、接客の考え方や大切にしていることは何ですか?
仁藤「接客業って“いらっしゃいませ”と言って商品を勧めるだけ、みたいなイメージを持たれることも多いと思います。でも実際はすごく奥が深いんです。私の中では、お客様との出会いがゼロからのスタート。そこから会話を通してその人を理解し、正解がないからこそクリエイティブな仕事だと思っています。
たとえば“OLだからこういうスーツですよね”ではなく、話していくうちにまったく違う提案がフィットすることもある。会話の中で新しいスタイルが生まれることがあるんです。それがこの仕事の魅力で、私はすごく大事にしています」
――オンラインショッピングが普及する中で、リアルな接客の価値はどこにあると思いますか?
仁藤「もちろんオンラインはすごく便利なんですけど、リアルな接客には、その場で“あ、こういうのも似合うかも”という気づきとか、会話の中から広がる“想像の余白”みたいなものがあると思うんです。本屋さんやレコード屋さんで思いがけず好きなものに出会える感じに近いというか。
ファッションも、お客様と実際にお話しする中で“予想外の発見”が生まれるんですよね。あとは、温かみというか……人とやり取りすることで生まれる感情って、オンラインでは完全には再現できないと思っています」
丸の内は「働く街」から「楽しむ街」へ
日々の接客で大切にしていることを語ってくれた仁藤さんが、実際に向き合っている丸の内のお客様とはどんな人たちなのだろうか。
――丸の内のお客様にはどんな方が多いですか?
仁藤「丸の内の街自体が大きく進化していて、層が変わってきましたね。私が入社した頃は30〜50代の自立した働く女性が中心でした。でもコロナ禍を経て、若い方、観光で来る方、ファミリー層が一気に増えました。街がイベントを季節ごとに開催するようになり、“働く街”から“楽しむ街”へどんどん変化してきた印象です」
――お店として文化的な取り組みもされていると伺いました。
仁藤「丸の内店は“新しい取り組みの場”になることが多いんです。たとえば来季の商品を一般のお客様に先行公開する展示会だったり、ライフスタイルとコラボしたイベントだったり。
あとは Marunouchi Happ. Stand & Gallery さんと一緒にコーヒーと空間のコラボをしたり、“売るだけではない”文化的な発信をすごく大事にしています。丸の内の街が続けてきた“文化を生む街づくり”とリンクしている感じがあって、そこがまた丸の内店らしいなと思います」
――Happ.さんとのイベントではどんなことをされたんですか?
仁藤「2年くらい前になりますが、弊社がお付き合いのあるチャイのカフェのオリジナルドリンクを、Happさんの空間をお借りして提供したんです。Happさんの外観や外のベンチも、トゥモローランドのカラーに合わせてアレンジして、“ミニ・トゥモローランドマルシェ”みたいな雰囲気です。
ほかにもお花屋さんを呼んだり、外と店内のどちらでも楽しめる構成にしたり、イベントをきっかけにお客様を双方の店内へご案内できる流れも作っていました。丸の内ならではというか、街全体を巻き込んだコラボレーションになったなと思います」
――では最後になりますが、仁藤さんにとって丸の内という街はどんな場所ですか?
仁藤「学生の頃は正直、ほとんど来ることがない場所だったんです。でも働き始めてからは、だんだんと“トゥモローランドとすごく似ている街だな”と感じるようになりました。
まず街全体がすごく洗練されていますよね。道にごみが落ちていないし、緑や空間にも余裕があって、ゆったりしている。大人っぽくて成熟した雰囲気がある街だと思います。
渋谷のように情報量が多くて雑多な感じではなくて、どこか“余白”があるというか、心地よさがあります。ここで働いている方も自立した方が多くて、文化の香りがする街。働いていて本当に気持ちがいい場所ですね」
――仁藤さんが個人的に丸の内で好きな場所はありますか?
仁藤「やっぱり仲通りですね。イルミネーションの季節も大好きですし、クリスマスマーケットも毎年楽しみで。丸の内で働いていると、街の魅力を常に感じられるんですよね。ここ数年は特に人が増えていて、毎年“今がいちばん盛り上がっているんじゃないかな?”って思うくらいなんです。ディズニーとのコラボが行われたりと、年々、街全体のにぎわいがどんどん増しています。
それにラジオ体操、綱引き、駅伝……地域の大人が本気で楽しむイベントも魅力のひとつですね。お店から眺めていてもすごく温かみがあって、“この街には文化が根付いているなぁ”と感じるんです。
三菱一号館美術館で興味のある展示があるとよく見に行きますし、朝早い時間にHapp.さんのコーヒーを買ってベンチでちょっと過ごす時間が本当に最高で。その日の気分が整うというか……すごく気持ちがいいんです!」
仁藤はるか(にとう・はるか)
●紳士服を中心とする老舗外資系ブランドのレディースやラグジュアリーブランドの販売員を経て、2017年6月、株式会社トゥモローランドに入社。丸の内店へ配属後、2018年9月に日本橋高島屋S.C店のオープンに伴い異動し、約2年半の勤務を経て2021年3月に丸の内店へ戻る。現在は販売業務に加え、バイヤーと連携したインポートブランドのセレクト業務やオンラインでの販促活動、店舗運営なども担当。
聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)
●1961年生まれ、大阪府出身。株式会社角川アスキー総合研究所・丸の内LOVEWalker総編集長。国際大学GLOCOM客員研究員。一般社団法人メタ観光推進機構理事。京都市埋蔵文化財研究所理事。産経新聞~福武書店~角川4誌編集長。
トゥモローランド 丸の内店イベント「TOMORROWLAND 2026 Spring & Summer Preview」
トゥモローランド 丸の内店では、2月13日(木)〜2月23日(月)まで『TOMORROWLAND 2026 Spring & Summer Preview』を開催。2026年春夏シーズンのインポートアイテムを中心とした最新コレクションサンプルを豊富に取り揃え、予約を受け付ける。初買付けのブランドや別注・限定モデルを含む新作を、通常展開に先駆けてチェックできる特別な機会をお見逃しなく。
■関連サイト
トゥモローランド
https://store.tomorrowland.co.jp/
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