第204回
ソフトウェア開発・言語の1年にわたるベストセラーの著者はいまなにを考えているか?
Geminiにタイ移住を命じられた――100日チャレンジからAI駆動生活へ、大塚あみさんインタビュー
2026年02月03日 09時00分更新
批判を黙らせたくてアプリを作ったら賞金75万円をもらった
―― 昨年6月に一緒にInteropの併催イベントApps Japanに登壇させてもらいました。トークが終わってバックステージに戻ってきたら村井純さんが待っていました。私は、ビックリしたけど大塚さんは村井さん知らないって言ってましたかね。
「そうですね」
―― 村井さんが「なんかアイドルみたいじゃん」というようなことを言われて。それで、聞いたら「米国でプログラミング教育の研究をされている(?)娘さんが、あなたの本を絶賛して勧めた」と言われました。あれ、象徴的な出来事だったような気もするんだけど、そういう評価もありましたね。
「私が、“こんなことやったんだよ”と、“こういうことできるんだよ”と具体的に示すとですね、まあ自然とやる気になってくれる人がいるみたいなところがあるんですよ」
―― おお、そういうことなんだ。
「企業などの講演に呼ばれることが最近多いのですが、同じ世代の私が言ったほうが、企業の若い人たちに対して説得力があるということかもしれません」
―― そういう企業というかエンジニアでいちばん評価されたのは、さっきの“100日間がんばった”みたいなことですか?
「うーん、いや。それは確かにそういう部分はありますけど、まあそこからもいろいろありましてですね」
―― どういうふうに?
「ここまでは6月までのお話でして、その後、7月から2カ月かけてiOS向けのアプリを作ったんですよ。ハッカソンに出るためにiPhone向けのアプリを作りました」
―― 何のハッカソンなんですか?
「《RevenueCat》っていうアプリ内課金管理サービスを提供する会社が主催するアメリカのハッカソンです。参加者が世界で5万5000人もいたんですが、アプリを作って、Apple Storeにリリースして、それで応募したんです」
―― おお。
「このハッカソンに参加した理由は、あるネットニュースで取材してもらったんですけど、そこで、“23歳月収100万円”みたいなタイトルが出たんですよ」
―― うん。
「で、そこにものすごい数のアンチが集まって。なんか数百件の批判コメントがついたんです。“この人は何者なの?”とか、“この人、本当に開発能力あるの?”とか、“この人本当にエンジニア?”みたいなことが書かれていて、まあ腹が立ったわけですよ」
―― 腹が立った、いいですね。
「まあ許せなかったんですよ。だって独立して受託をやってんのに“本当に開発能力あるの?”とかね。何が何でも絶対黙らせてやりたいと思って」
―― 絶対黙らせてやりたい。
「で、まあハッカソン行くことに決めて、2カ月で800時間ぐらいかけてアプリを作りました。そうしたらですね。賞をもらったんですよ」
―― ワールドワイドで5.5万人も参加しているのに。
「賞金75万もらいました」
―― アンチじゃない人たちが支えてくれたみたいなのは見ていましたよ。75万円いいじゃないですか。そんなこともあった。
「でも、受託開発を全部蹴ったのでそのあとの影響も考えると、結局あれは、500万ぐらい失った話かしれないです」
―― そっか。でも、黙らすことはできた。
「そうですね、もうあそこから誰にも開発能力について批判されなくなりました」
ソフトウェア開発は、たった1年で《建築》から《魔法》になった
―― 1年前にインタビューしたときにすごく印象的だったのは、「コードはもう価値がない」と言い切ってましたよね。この1年で、本当にそうなりましたよね。
「そうですね」
―― 「バイブコーディング」(人間の言葉による指示だけでAIにプログラムの設計・実装・修正をほぼ自動で行わせる開発手法)という言葉も流行りました。大塚さんの場合は、1年前のインタビューでお聞きしたやり方って、AIがいちどコードを吐いてきても「改善点をあげて」と対話していく。より“良い”コードを求めていくことで、学びながら品質も上げていく、そこがすごくいいと思ったんだけど、でも、状況は変わりましたよね。
「コードを書く時代はですね、もうとっくに終わりまして、《選ぶ時代》になりました」
―― 下手をすると設計もいらなくなった。
「設計も大体はできます。なので、もはやソフトウェアは、もともと《建築》だったと思うんですけど、それが《魔法》のようになりました」
―― 《建築》から《魔法》って劇的な変化ですね。
「はい。まずはAIに世界観を伝える。それで出てきたものを《鑑定》する」
―― でも動かしてみますよね。その意味では、“映画監督”とか。映画監督がやるような役者を動かしたりはしないから、プロデューサーですかね?
「そうですね、プロデューサーっぽいのかもしれません。実際、最近はですね、私、自分でコードを書くっていうのは、だんだんやらなくなっていて」
―― 命令すらしなくなった。
「はい。私の会社のCTOに任せるようになりました。世界観を伝えて、どのように実装するか伝えるんですよ」
―― 世界観ってどういうことですか。
「ハッカソンに出したメモアプリのようなものであれば、メモ帳じゃなくてメッセージ形式にしましたよね。同世代の女子がメモを書くのをLINEに送っていたのがヒントだったわけですが。いちばん日常的に使っているメッセージアプリの感覚で使えるというのが1つの世界観ですね」
―― なるほど。
「何か単語を1つ入力すると簡単に見つけることができる。入力したメモは、カレンダーとか検索とかで見つけることができる。そういう使いかたを言う感じで、世界観を伝えて。で、そうすると、設計し直してくれて、AIと話しながら作ってもらうという」
―― ちょっと待った。世界観を「こんなんでこんなんで」って、それをそのままAIにボンと渡すわけじゃないんだ。
「そうするとですね、それではうまくできないのですよ」
―― プロンプトに落とす作業が必要になるわけですね。
「そうですね。つまり私の世界観を表現しようとするとですね、私の言葉っていうのは1つの言葉に多くの解釈ができるので、思ったように伝わらないんですよ」
―― なるほど。
「これを、別の表現というか正確に書こうとすると結構長くなります。それを自分で作るのがたいへんなんです。なので、編集者兼エンジニアのCTOを見つけたので、その人にやってもらってます。文章はすごく上手なんですよ。私が世界観を伝えると、プロンプトを作ってもらえるので、そういう感じでやってもらっています」
―― そういうことか。
「たとえば、売れるアプリを作ろうとすると、どういうものを作るかっていう《作家的な能力》と、それをどのように伝えるかっていう《編集者的な能力》、その2つが必要になるんですよ」
―― それを手分けしてやってもらうようにした。
「ええ、そうやってできたものが、そのまま、要件定義だとか設計書の意味をなすんです。いまや設計書からプログラムに直すというのは非常に簡単で、もはや人の手を入れる必要すらないんですよ。AIが全部やってくれるんで」
―― その前の状態でAIに書いてもらおうというのは甘いんだ。そこはまだ人間なんだ。
「そこのAI化は、なかなか難しいですね」
―― じゃあよくネットで「こんなエージェント使ってこんなふうにプログラムやサービスが一発でできます」みたいな話をしているけど、なかなかそこまではいっていないんだ。
「個人的に使うものであれば、ある程度いくと思います。しかし、実際の開発となると元のイメージを作って、AIに渡すためのプロンプトを作って、その上でAIに投げないといけないっていう状態はいまのところまだまだ続いてますね」
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