原稿料上げて! 神経戦になるギャラ交渉の戦略立案とメール作成と、下請法を含めて考える返事の仕方
2025年10月31日 12時00分更新
本連載は生成AIをこれから活用しようとしている方たちのために、生成AIの基本やコピペしてそのまま使えるプロンプトなどを紹介。兎にも角にも生成AIに触り始めることで、AIに対する理解を深め、AIスキルを身に着けて欲しい。第33回は神経を使う交渉の戦略立案とメール作成、その返事の仕方を生成AIを使って作成するについて解説する。
取引先とのセンシティブな交渉にChatGPT
ビジネスにおいて、こちら側の利益を増やすために、取引先との交渉が不可欠となる場面がある。しかし、交渉は一筋縄ではいかない。こちらの利益が上がれば、相手方の利益が下がるという関係になることが多く、利害が真っ向から対立するからだ。
下手に進めて感情的な対立を招けば、取引そのものが停止し、交渉前よりも大きな損害を被るリスクさえある。とはいえ、現状維持が自分にとって不利であるならば、困難を承知で交渉に臨まなければならない。
問題は、こうした交渉事に慣れていない場合、精神的負担が極めて大きいこと。戦略立案や駆け引きのシミュレーションにリソースを割かれ、他の重要な業務に支障が出ては本末転倒だ。このような厄介な交渉の準備と精神的負担の軽減に、ChatGPTは有効な助けとなり得る。そこで、今回は、ChatGPTで交渉の戦略立案と、送信する文章を作成する方法を紹介する。
まずは、ギャランティの値上メールを書いて、と直球で入力してみた。すると、そつなく値上げ交渉の文章を生成してくれる。値上げの理由として、「取材・執筆にかかる工数および物価・交通費等の上昇を踏まえ、今後の継続的な品質維持のため」と述べており、いい感じだ。
ただし、「これまで通り、信頼性の高い原稿をお届けする」と自分で納品物のクオリティに言及するのはリスクが大きい。このまま送ったら、通る可能性は低い。
■プロンプト
編集部にギャランティの値上げをお願いするメールを書いて
そこで、次は、前提条件を提示し、気分を害さないような文章にするように指示してみる。相手はそもそも原稿料を下げたいと思っているという情報も追加してみた。さらには、情報が足りないなら、質問するようにも指示しておく。この逆質問テクニックは効果的なので、クオリティの高い出力が欲しい時に活用して欲しい。
すると、7個の質問が返ってきた。
・現在の原稿料(1本あたり、または1文字単価)
・希望する新しい金額(または上げ幅の目安)
・取引の継続期間(例:5年以上継続、単発案件中心など)
・交渉する相手の立場・性格(例:編集部長、若手担当、柔軟/保守的)
・あなたの寄稿内容の特徴(例:看板連載、専門記事、他では書けないテーマなど)
・これまでの実績や貢献要素(PV、連載継続、著名インタビュー実績など)
・交渉のタイミング(例:新年度前、次号企画前、掲載後など)
それぞれに回答すると、戦略と本文を書いてくれた。相手は、できれば原稿料を下げたいと考えているという情報を渡したため、正面からの値上げ要請ではなく、「相手のメリットを保ったまま自然に単価改定を受け入れさせる」戦略を提案してきた。そして、交渉ロジックは以下の4ステップを提示した。
1:感謝と信頼関係の強調
2:業務内容の変化による作業量・専門性の増加を客観的に説明
3:継続したい意思を明確にする
4:「ご相談」という表現で提案する
生成された本文では、編集部に感謝しつつ、さらっと実績(納品本数)を入れ込み存在感をアピール。値上げの理由は「取材・調査の工数や情報精度の要求が高まり、制作時間やリサーチ範囲も以前より広がった」としている。十分に納得してもらえそうな切り口だ。
品質に関しても自画自賛は避け、「もちろん、引き続き御誌の方針やテーマに合わせ、精度とスピードの両立を第一に進めてまいります」と頑張りますアピールをしている。
十分な文面ではないだろうか。何度も読み返したが、筆者がこのまま編集部に送ってもいいレベルだ。
■プロンプト
ライターが出版社の担当編集者に、原稿料の値上げをしてほしいと連絡する際の交渉の進め方とメールの文面を考えてください。先方は、なんなら値下げしたいと考えているし、気分を害すると発注がなくなる可能性があるのでそれは避けたい。しかし、値上げはしてほしい。必要な情報があれば聞いてください。
■出力
~略
いつも大変お世話になっております。ライターの柳谷です。
これまで5年間にわたり、IT関連の記事制作をご一緒させていただき、計500本近い原稿をご納品させていただきました。継続してお声がけいただき、心より感謝しております。
この数年、AIやセキュリティ分野を中心に取材・調査の工数や情報精度の要求が高まり、制作時間やリサーチ範囲も以前より広がってまいりました。
そのため、大変恐縮ではありますが、来年度以降の原稿料を1本あたり6万円に改定させていただけないか、ご相談申し上げます。
もちろん、引き続き御誌の方針やテーマに合わせ、精度とスピードの両立を第一に進めてまいります。
ご負担をおかけする形になり恐縮ですが、長く良い形でご一緒できればと思っております。ご検討のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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下請法にも抵触する可能性のある外注先への返信を考える
さて、ではこのメールを受け取った担当者が返信する内容をChatGPTに考えてもらおう。まずは、お断りのメールを丁寧に書いて、というプロンプトを入れてみる。
「現状、全体的なコスト見直しと削減が進められており、誠に恐縮ながら現段階での単価改定は難しい状況」とお断りしているが、前後で、ライターの原稿に対する感謝も述べていて、一見良さそうに見える。
しかし、値上げ要請のメールに対して、いきなりこの返信を送るのは、下請法において買いたたきに該当する可能性があるので避けたほうがよいかもしれない。例えば、値上げの具体的な根拠などを聞き、検討・交渉する必要があるのだ。
■プロンプト
お仕事をお願いしているライターさんから以下のようなメールが来ました。上からコストカットを指示されているので、値上げは難しいという内容の丁寧な返信を書いてください。
###メール
~略
そこで、ChatGPTにまずは下請法について調べさせ、その後、適切な返信を書くように指示してみる。最初、ライターに対して下請法の説明を始めてしまったので、「先方に下請法のことを説明する必要はありません」と一文追加した。
ChatGPTは4つのサイトを調査したうえでしっかりとした返信を出力してきた。すぐの値上げは無理、としつつも様々な代替案を提示してきている。一般的なライターの業務について深く理解し、どうすれば工数を削減できるのかを書いているのが凄い。その上で、どうしても作業負荷が高い場合は追加で支払うと言っているので、不満も出にくいだろう。
■プロンプト
お仕事をお願いしているライターさんから以下のようなメールが来ました。下請法における価格交渉や買いたたきについて調査した後、編集部として適切な返信を作成してください。あまり、固くならないように、丁寧かつシンプルな文章にしてください。先方に下請法のことを説明する必要はありません。予算的には値上げ対応は難しいです。
###メール
~略
■出力
柳谷様
いつも丁寧なお仕事をありがとうございます。5年間でほぼ500本、安定した品質とスピードでご対応いただき、編集部一同とても心強く感じております。AIやセキュリティ領域の難度が上がり、取材・検証のご負担が増えていることも十分承知しております。
原稿料の改定についてご相談をいただきましたが、誠に申し訳ありません。現行の来期予算の見通し上、直ちに1本6万円へ引き上げることが難しい状況です。その分、実務面と設計面でできる限りの工夫をさせてください。具体的には、通常記事は現行条件のまま進行しつつ、調査負荷が高い回や長尺の特集については事前に内容をすり合わせ、追加の取材費・監修費・原稿料を個別にお見積りする形を提案させていただきます。また、字数や取材範囲・検証粒度の定義を編集部で明確化し、無理のないスコープでご依頼できるよう調整します。取材先のアポ取りや資料提供、レビュー体制の強化など、編集部側の支援も増やします。
あわせて、運用面の改善(支払手続きの迅速化、経費精算の柔軟化など)にも取り組みます。単価自体の見直しは次回の予算編成タイミングであらためて検討させてください。長く良い形でご一緒したい思いは変わりません。まずは次回案件から上記の運用で試し、1~2か月後に手触りを共有できればと思います。ご都合の良い日時で短い打合せをいただけますと幸いです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
○○編集部 △△
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以上が、交渉にChatGPTを活用する方法となる。プロンプト作成のコツは、前提条件をある程度入れること。加えて、相手の立場や気持ちも入れることで、効果的な戦略や文章を考えてくれるようになる。心理的に負荷の大きいタスクはAIに支援してもらい、より効率的に時間を使った方がお得なのでおすすめだ。
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