第4回AI Challenge DayはECサイトをAIエージェントで未来にシフト
便利なのに楽しくないネット通販 エンジニアたちが次の買い物体験を真剣に考えてみた
2025年07月18日 13時30分更新
Agent Factoryを実現するためのAI Foundryの大幅機能拡張
幕間セッションの後半は、パートナーソリューションアーキテクト/エバンジェリストの大川高志氏による「Build 2025」のアップデート解説だ。
今回のBuild 2025で、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏がキーテーマとして掲げたのは「Building the open agentic web」だ。「エージェントが個人、組織、チームおよびエンドツーエンドのビジネスコンテキストで活動できる世界」を目指しており、AIを搭載した「Open Agentic Web」の実現に向けて、開発者用のスタックも変革していくというのが、メッセージだった。
もう1つのテーマは、「『Software Factory』から『Agentic Factory』」へという流れだ。50年前、マイクロソフトを創業したビル・ゲイツとポール・アレンが掲げたビジョンは「Software Factory」を作ることだった。あれから50年が経った2025年、このビジョンはAI時代に適応させた「Agent Factory」となり、誰でもエージェントを作れる世界を目指していくという。
こうしたビジョンに呼応し、Build 2025ではさまざまなAzure AIのアップデートやアナウンスが行なわれた。まずアプリケーションを作るという観点では、IDE上で動く「GitHub Copilot Agent Mode」やIssueを割り当てるだけで自動作業する「GitHub Coding Agent」などが挙げられる。また、運用に関しても、Azureリソースの常時監視や復旧を手がける「SRE(Site Reliability Engineering)Agent」が追加。これらの中から、テトリスゲームを GitHub Coding Agentで作るデモもスクリーンショットで披露された。
エージェントに関しては、PaaSやSaaS型でさまざまなAIエージェントを作成できるようになった。データとインフラに関しても、AI FoundryにCosmos DBやDatabricksをつなげるようになったほか、データを効率的に処理するためのデータセンターへの投資、GPUの100倍のエネルギー効率を見込める光計算も紹介された。さらにエージェント間のやりとりに関しては、MCPへの対応に加え、Agentic Webに向けた共通言語(NLWeb)の構想も披露された。NLWebをしゃべるWebサイトが増えれば、「知りたいことを聞くだけで答えが得られる」というWeb体験が拡がるという。
AI Foundryのアップデートとしては、一番重要なのはGAとなった「Azure AI Foundry Agent Service」だ。今まではシングルエージェントのみだったが、1つのエージェントに複数を接続できる「Connected Agents」や、複数のエージェントを連携させつつ、Human-in-the-loopも実現する「Multi-Agent Workflows」など、マルチエージェントのオーケストレーションも可能になった。さらにWebポータルからGUIでマルチエージェントを構築できる「Connected Agents」もプレビュー版が公開され、スクリーンショットも披露された。ノーコードのLogic Appsからのアクションにも対応するので、エージェントの再利用もしやすくなったという。
ただ、エージェントを簡単に作れるようになると、当然ながらエージェントの乱立や情報漏えいなどが課題になる。そこで提供されるのがエージェントを安全に管理するための「Entra Agent ID」になる。これは人間と同じくエージェントもIDで管理しようというコンセプトで、IDをベースにした認証や認可、ID保護、アクセス管理、可視化などが提供される。
「『簡単に作れます』、『使えます』だけじゃなく、『安全にビジネスで使えます』までやっているのが、みなさまのビジネスを支えてきたマイクロソフトならでは。これからもサポートし続けますという意思表示」と大川氏はアピール。相互接続に関しても、MCPのみならずA2A含めた、さまざまなAPIやプロトコルに対応する予定だという。
がんばって作ったあの処理を楽にするAI SearchやAI Content Understanding
今回のAI Challenge Dayでも利用されたAI Searchに関する重要なアップデートとしては、検索にLLMの力を取り込んだ「Agentic Retrieval」が挙げられる。たとえば、過去の対話履歴から会話全体のコンテキストを理解した上で、関連した検索クエリを複数生成し、統合して回答してくれる。その他、スペルミスを修正したり、必要に応じて検索クエリを分解・書き換えることも可能。モデルとしてはサブクエリの展開力が高いgpt-4o/4o-mini/4.1/4.1-mini/4.1-nanoなどがサポートされている
AI Searchはマルチモーダル検索も強化され、生成AIを利用して画像を言語化できる「GenAI Prompt Skill」やアプリUIで利用するための画像を抽出する「ナレッジストア」のほか、レイアウト情報や画像を抽出するAzure AI Document Intelligenceスキルのアップデート、長いテキストをチャンク化するためのText Split Skillの改善なども行なわれている。「現在のビジネスの世界で用いられているドキュメントをうまく活用できるアップデートが施されている」と大川氏は語る。
ノーコードのAzure Logic AppsとAI Searchによるデータ取り込みもより柔軟になり、OneDriveやSharePoint、Dropboxなどを幅広いデータソースをサポート。Azure Logic Appsも機能強化され、ワークフローの実現や認証処理も含むさまざまなコネクターも提供される。
また、Microsoft Entraをベースにしたドキュメントレベルのアクセス制御や、機密ラベルの付与による企業データの保護といったセキュリティも強化されている。Azure AI SearchはAzure用のMCPサーバー「Azure MCP」をサポート。GitHubのMCPクライアントからは自然言語でMCPサーバーから必要な情報を入手できるという。
ドキュメント、音声、画像、ビデオ、テキストなどの入力に対して、今まで個別に行なっていたOCRや画像認識などの処理をワンストップで実現する「Azure AI Content Understanding」もアップデート。コンテンツ抽出(前処理、エンリッチメント)とフィールド抽出(生成AI、後処理)に新たに推論機能と複数ファイルの入力に対応したプロモードが追加された。「契約書のシナリオだと、ルールをまとめて登録して、ポリシーに従っているかをレビューできる」と大川氏は語る。
その他、説明は割愛されたもののスタンダードモードのアップデートとして、ドキュメントの分類や分割を行なうClassifier APIや複数ページに渡るテーブルの認識精度の向上、Excelファイル内のテーブルのサポート、ビデオ全体のデータ抽出や自動的なチャプター分割、ビデオ内の顔検出や顔認識が可能なFace API(Preview)なども紹介。
最後、大川氏は、既存のREST APIをMCPサーバー化するAPI Managementの新機能を、「既存のREST APIを、極力手間をかけずにLLMから活用できる可能性がある」とイチ推し。発表内容をまとめつつ、「日本におけるAIエージェントの時代を作っていくために、これからもいっしょに活動できたら」とコメントし、20分にぎゅっと詰め込んだBuild 2025アップデートの解説を終了した。
AI駆動開発の時代に手を動かすイベントの尊さを改めて実感
幕間セッション終了後は、いよいよ各賞が発表された。既報の通り、受賞者したチームは以下の通り(関連記事:“買いたくなる体験”をAIでどう作る? ─ RAG×エージェントで火花を散らす12社の挑戦)。
「ASCII賞」 アドインテ
「UX賞」 ソフトクリエイト/ecbeing/ATLED
「セキュリティ&トラスト賞」 野村総合研究所
「ブレイクスルー賞」 ゼンアーキテクツ
「インテリジェントエージェント賞」 Sun Asterisk
「準グランプリ」 ヘッドウォータース
「グランプリ」 野村総合研究所
今回のトピックとしては、やはり野村総合研究所のダブル受賞が挙げられるだろうが、3時間12社のセッションはどれも聞き応えがあり、試行錯誤の成果が伺えた。ネットワーキングの会場でも、多くの参加者から「楽しかった!」「またやりたい」という声をいただき、本当にこのイベントに携わってよかったと思える。AIの進化を感じつつ、AI駆動開発時代にあえて手を動かすというこのイベントの尊さをつくづく実感する。
ちなみに、今回も若手の参加が多かったが、次回開催があるときは、ぜひ私のような年配にも参加してもらいたい。若手だけのイベントにしておくのはもったいないですよ。
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