第4回AI Challenge DayはECサイトをAIエージェントで未来にシフト
便利なのに楽しくないネット通販 エンジニアたちが次の買い物体験を真剣に考えてみた
2025年07月18日 13時30分更新
「縛りプレイ」導入で、もはや勝手に楽しんでるゼンアーキテクツ
いよいよ最後12社目は、軽妙なトークで前回の大会も沸かせたゼンアーキテクツの三宅和之氏。「みなさん、おつかれだと思いますので、なるべくみなさんを楽しませるようなお話にしたい」と意気込みを語る。今回も社内で5人のギークを揃えたが、「みんな忙しいんですよね。月曜日からやりましたから。最初は人がいなかったので、週末はこうなったらコーディングエージェントを集めて、やろうかと思っていましたが、集まってくれて良かったなと」と語る。
そんな同社のエージェントスコアは164.1点。「数字じゃないですよね。このチャレンジは」という三宅節でさっそく会場を笑いに包みつつ、「ただ、今回は自分たちで制約を設けた。縛りプレイの中でのスコアという点は考慮していただきたいなと」とコメントする。同社は「Azure Light-Up」というハッカソン形式のワークショップを提供しているが、今回は半日~1日をかけた議論とGitHubのIssue登録といういつものスタイルを自ら実践したという。
今回のしばりの1つ目はすべてMCPサーバー経由でデータソースにアクセス。しかもすべてサーバーレスで実装し、「1万円を超えないようにやっています」(三宅氏)とのこと。しかも、PostgreSQL以外は拡張でき、構成変更なしでセキュリティも対応可能だという。
前回はマルチエージェント構成だったが、今回はなんとエージェントは1つ。「MCPを使ったときに、本当にマルチエージェントは必要なのかという葛藤が生まれた。だから、今回はあえて1つのエージェントでどこまでいけるかやってみたかった。それが164.1点ですね。そこはご考慮いただきたいかなと」のコメントにまた会場から笑いがこぼれる。「僕じゃなくてMCPがすごい。ECエージェントは、ほとんどコード書いてない。LLMが偉いんです。そんな中、自分たちはなにをすべきかを考えるためのアーキテクチャを持ってきた」と三宅氏は語る。
ベクター検索は愛用のCosmos DBを採用。「RAGに関してはけっこう温めてきたので、RAGの評価は満点でした」と三宅氏はコメント。MCP周りに関しては、Azure FunctionsのMCP Tool triggerを使うことで、認証もかけられ、ロジック変更なくMCPが利用できるという。「『Streamable HTTPに早く対応して」とAzureFunctionsチームに話しているので、お待ちしましょう」と三宅氏は語る。
2つ目に注力したのは、エージェントを継続的に成長させるためのLLMOpsだ。こちらは評価スクリプトの生成はすべて自動化して、GitHubから出力したモノだけを利用。また、ローカルでの実行は禁止し、Azureにデプロイした状態でのみ評価を実行した。「運営側はヒヤヒヤしたと思うのですが、まともにアップロードできたのは、昨日が初めてなんです(笑)」とのこと。ただ、「Azure AI Foundry(Evaluation)にほぼ同じ仕組みがあるので、次回の評価はこれ使えませんかね」と提案した。
UIはReactで実装。RAGに関してはチャットベース、顧客とECのエージェント同士のやりとりに関しては、UI不要と判断し、ロギングできる仕組みを専用エージェントで実行。最後は「一番時間をかけたいスライド」という7月18日に大手町で開催される「Azure OpenAI Service DevDay」の告知を行なって、セッションを終えた。
日本マイクロソフトの花ヶ崎氏は、「ゼンアーキテクツさんは、もはやAI Challenge Dayが好きすぎて、独自に縛りプレイを入れて、楽しんじゃってるんですよね(笑)。今回もMCP縛りということで、これでもかくらいMCPでつないでいて笑っちゃったんですけど、ただ、遊んでいるだけじゃない。きちんとセキュアなエンタープライズ基盤で動くファンクションベースのシステムを作ると、こうなるんだよという実例を示してくれて、とてもインサイトがある。LLMOpsに力を入れてもらい、構築だけじゃなく、運用例も示してくれた。完全自動化達成というのは、非常に実現場での運用を踏まえた参考になる内容。また、変な縛りプレイを待っています」と笑顔でコメントした。
コンペプラットフォームを提供したスキルアップNeXtから見た舞台裏
12社のプレゼンを終え、審査の幕間にセッションを行なった小縣氏は、今回AI Challenge Dayを支援したスキルアップNeXtや運営側から見た今回のイベントの裏話を披露した。
2018年に創業されたスキルアップNeXtは、AI/DXの人材育成を支援しており、最近では脱炭素・GX人材、人材紹介などを展開。「学ぶ」「実践する」「広める」を軸に顧客企業の組織変革や人材育成を支援しており、すでに950社の導入実績を持っている。
今回のAI Challenge Dayで用いられたコンペプラットフォームは、「実践する」というフェーズで利用されてきたもの。通常は人材育成の戦略を立案し、それに基づいた研修を受けた後に、実践で力を付けてもらうという。また、AIエージェントの開発も進めており、CopilotやPowerPlatformなどを用いた研修や伴走支援も手がけている。実際、キリンホールディングスでは、Copilotの定着化支援を行ない、研修後の実務でCopilotを活用し、34名で合計約123時間の業務時間の削減に成功したという。
後半はAI Challenge Dayの振り返り。1週間の投稿グラフを見ると、初日はサンプルを投稿する程度だったが、週末を挟んで投稿数が一気に伸びる。最終日の水曜日は、1日で150件の投稿があったという。また、スコアは初日は25~65点だったが、2日目には130点台に届くチームが現れる。小縣氏は、「満点いってしまうのではないかとヒヤヒヤしたが、その後はゆっくり上がっていった。我ながらちょうどよい課題の難易度だったのではないか」と振り返る。最後は165~170点程度に落ち着いている。
その他、小縣氏は、7体の顧客エージェントの設定やスコアの傾向などを披露。各チームの伸び悩んだ評価ポイントや投稿数からはじき出される傾向など、興味深い洞察が行なわれた。また、小縣氏は、ECエージェントに求められる機能として、オーケストレーターやRAG、API、関数に加えて、人に相対するための「擬人化」が肝になると持論を披露。そのため、よいエージェントを作るには、それに対応する人のふるまいを見ればよいという。
今回のECエージェントでは「売る人」になるが、当然商材によって難易度は異なり、今回は情報提供や複数商品の比較、アップセル・クロスセルに加えて、個人情報を踏まえた商品提供までが課題の範囲に入るという。ただ、今後はより難易度の高いタスクを行なうAIエージェントが求められる。具体的には、商用の使用感を語ったり、顧客との信頼関係を構築したり、個人情報に基づいたライフサイクルを考慮したり、中古自動車や不動産の営業のように価格交渉や粘り強い長期の交渉などより高いレベルのエージェントが求められるようになるという。今後のECエージェントの開発に参考になる話だった。
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