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IT、ビジネスで生成AIは常識となる――『AI白書 2025 生成AIエディション』

10年前のAIによる画像変換と2025年の画像生成を同じ元画像で比較する

「変換」から「生成」へ

 ChatGPT(GPT-4o)による画像生成で「旅の写真をジブリ風にした」とか、「セサミストリート風の自画像」とか、3月下旬以降、いろんな絵がネット上にあふれている。どれも凄いのだが、いまから10年ほど前の2015~2016年頃にも画像生成について興味深いトピックが登場していたのを思い出した。

 私が、別件のイベントでお世話になっていた石田陽太さんは、2016年4月に《ディープラーニングで色々な「だが断る」を作ってみた》というポストをご自身のプログにされていた。それを見ると、「元になる画像」に対して「スタイル画像」というものを与えてやると、元画像がスタイル画像風の絵に変換される。

 つまり、「画像生成」ではないが人間が手でやったらとても大変に見える「画像変換」をAIがやってくれるというものである。そこで、すぐさま石田さんにメールを出して「私のアイコンも変換してほしいのですが」とお願いしたのだった。私のアイコンというのは、ふだんSNSやYouTubeなどで使っているf-watabeさんに作ってもらった次の画像である。

 当時のやりとりを見ると、石田さんは、相応にハイパフォーマンスなGPU搭載をマシンを何日間にもわたってブン回してくれたらしい。その結果が、次の画像である。これは、私のオリジナルのアイコン画像と一緒に「ピカソ風」になるべくピカソの画風を研究して描かれた作品をスタイル画像として与えたのだそうだ。画像サイズは、まだ303×435と小さい。

 これめちゃめちゃカッコいい仕上がりである。石田さんも、「僕もこんな上手くいくなんて思ってなかったので、驚きました!」とのことだった。ちなみに、この処理は2015年9月にポストされそのスジでは大いに話題になった株式会社Preferred Researchの松元叡一氏による「画像を変換するアルゴリズム」が使われている。これはなかなか凄い技術だったと思う。

 それでは、いま話題のChatGPTによる画像生成ではどんなことになるのか? 同じ、私のアイコン画像をもとに試してみることにした。まずやってみたのが、ChatGPT(GPT-4o)に対して「このイラストをピカソ風にしてください」というプロンプトを与えた結果である。それが、以下の画像だ。

 「変換」ではなくて「生成」なのでやっていること自体が異なるわけだが、さすがに約10年の歳月を感じさせるものがあるではないか。実は、デザイン的に2016年のやつのほうがカッコいい気もするのだが、換骨奪胎というか、いちど解釈してそこから生成したという手ごたえがある。いやがおうにも、表現の世界は「複製技術」の時代から「生成技術」の時代になっていくと考えざるをえない。

 そこで、次に与えたプロンプトが「元画像を日本の丸ペンを使った少年マンガ風のモノクロのマンガ調の絵にしてください」というものだった。私の世代の平均的な男の子と同じく、私も、漫画家になるのが1つの夢だった。それが、いま便宜的にではあるが実現したように感じれたのが、次の生成画像である。

 しかし、昨今の画像生成の凄いところは、リアルな写真のような画像(あるいは動画)も生成してしまうことだ。そこで、「それでは与えた画像を実写風にしてください」というプロンプトを与えたて出てきたのが、次の画像である。なんとなく、『朝日新聞』に連載されていた長谷川町子さんの『サザエさん』が、テレビドラマ化したときのショックを思い出す。どちらかというと『意地悪ばあさん』の万年さんの趣ではあるが。

生成AIビジネスで必要なことが分かる『AI白書 2025 生成AIエディション』

 2016年のディープラーニングによる画像変換と、2025年の画像生成では、もちろん内容的にはかなりの違いがある。しかし、冷静にこの技術で何ができるのかというところまで立ち返ってみると、2016年(オリジナルの技術のポストは2015年)の段階で、いまの状況は予想できたのではないかと思う。当時も画像生成の試みも行われていたと思う。

 そしたことを、バランスよく読み切るには、日々、目に飛び込んでくるニュースに目を奪われ過ぎないことではなかろうか。それらの情報には、しばしば大げさに伝えられることがある。いわゆる「AIウォッシング」(AI washing=AIを使っていないAIを使っているとする)から完全自動化などパフォーマンスの誇大広告や虚偽表示だ。

 新機能の1つ1つにも重要なトピックはもちろんあるが、それよりも大局的なテクノロジーやそれをビジネスの中で実装していく場合に必要な事柄がある。

 そのような目的に適切な情報源の1つが、『AI白書 2025 生成AIエディション』(東京大学 松尾・岩澤研究室著、岩澤有祐監修)である。『AI白書』は、2017年に独立行政法人情報処理推進機構の刊行好物として角川アスキー総研が編集・発行を担当した。私も立ち上げ時の企画・編集、インタビュー記事のお手伝いなどさせていただいたのだが、その最新版である(発行:株式会社角川アスキー総合研究所、発売:株式会社KADOKAWA)。

 同白書は、第1章「生成AI社会の到来」、第2章「生成AIの技術動向」、第3章「生成AIと産業界」、第4章「生成AIの法整理」からなる。第1章は、生成AIがもたらす社会変革について包括的に解説されており、ビジネスパーソンや一般読者にとって最適な入門となるだろう。第2章では技術的な側面、第3章では産業応用、第4章では法的な課題と対策について、それぞれ専門的かつ実践的な知見が詳しく解説されている。

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遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。MITテクノロジーレビュー日本版 アドバイザー。ZEN大学 客員教授。ZEN大学 コンテンツ産業史アーカイブ研究センター研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。


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