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3カ月で製品! 8080を世界最速で実用化できた理由

1970年代、日本発マイコンベンチャー「ソード」を知っているか──椎名堯慶氏インタビュー(前編)

本当に困るほど利益が出た

―― アメリカのマイコンはホビー的な性格が強かったわけですよね。一方で、椎名さんのところは最初からビジネス用途を見据えていた。ミニコンをマイコンで置き換えてビジネスの現場で使えるものを目指していた。

椎名 前提にしてたんですね。そんなことをやりながら、メモレックスのフロッピーを買ってきてFDOS(フロッピーディスクベースのOS)を開発することになったんです。1973年か1974年くらいでしたね。

―― 1974年は、キーボードやディスプレイもない箱だけのマシンじゃないですか。それに端末ぶら下げるなりなんなりしないとミニコンの代わりにはなりませんよね。紙テープリーダーなども必要でしたよね。

椎名 はい、高速の紙テープリーダーパンチャを使っていました。それに独自にデジタルカセットリーダーなども開発したんですよ。磁気テープの読み書きができるようにしたんです。その開発が完成するか否かという頃に、私たちはアメリカでフロッピーディスクに出会いました。確かナショナルコンピュータカンファレンスで見かけて、8インチのフロッピーディスクドライブを現場で買いまして。すぐに繋げろっていうんで、1、2カ月後にはフロッピーディスク付きのミニコンが完成したんですよ。

―― フロッピーディスクは元々、IBMがパンチカードの代替としていた記録メディアでしたが、それをベースにOSを構築できると。そんなふうには、当時は、あまりイメージできなかったんじゃないですか?

椎名 みんな驚きましたよ。世界で一番早く登場したフロッピーベースのOSじゃないかと思います。

―― 1973年10月のFDS-8というのは?

椎名 FDS-8というのは、フロッピーディスクをミニコンのNOVAに接続して使えるようにした装置ですね。ですから、私たちのマイコンが完成する前からフロッピーディスクのシステムは既に出来上がっていました。そのため、8080マシンの完成とほぼ同時というような感じでFDOSも開発できた。

―― なるほど、2回目だったんですね。ミニコンで経験を積んでいたからこそ、8080が登場したときにも他社に先駆けて対応できた。反響はどうだったんですか? 朝日新聞やNHKとかが、取り上げたり。

椎名 そういう大手メディアは全然来なかったですね。業界紙の電波新聞さんなどが取り上げてくれました。それよりも、展示会で大企業の方々が製品を見て、たくさん買ってくれたんですよね。

―― コンピューターって当時は高嶺の花でしたよね。その後いわれたダウンサイジングを先取りしていた。コストも全然違う水準になった。

椎名 そうなんです。ミニコンにフロッピーディスクを接続するシステムを開発して、それだけで150万円くらいで販売していたんです。当時はフロッピーディスクが付いているミニコンなんてありませんでしたから、それでも十分安い価格でした。我々はそれをマイコンに組み込んで、システム一式で150万円という価格で提供しました。ですから、みなさん驚かれて、本当によく売れたんですね。

―― 150万円でまるまるコンピューター、FDOSシステムが買える。

椎名 OSがついて、言語もついて、それで、場合によってはソフトの開発までうちが請け負うという。

―― なるほど。

椎名 企業で従業員5人に1台のコンピューターが導入される時代が来るということを私たちはうたっていたんです。1977、1978年くらいだったと思います。いや、もしかしたら1975、1976年かもしれません。従業員5人当たり1台のコンピューターの時代がすぐに来るよと。

―― 5人当たり1台っていうのは何のイメージですかね。和文タイプライターもそんなにいらないですよね。

椎名 まあ、当時はそういうことを言う理由があったと思うんですが。まあ事業が急成長していて、怒涛の如く、年に2カ所くらいのペースで工場を建設していました。300坪規模の工場を3カ所作ったりで。そういう勢いで事業が伸びていて、売上も毎年倍々で増えていましたから。

―― なるほど。

椎名 利益もね、ものすごく出ましたね。本当に困るくらい出ましたね。

―― 困るくらい。

椎名 本当に困るほどでした。利益率が高く、薄利多売ではなく非常に恵まれた状況でした。そのおかげで、自己資金で積極的な投資ができました。8080ベースのFDOSは、私たちの会社にとって大きな成長の要因だったと思います。

―― もう70年代の半ばでもそうなっていた。


紙テープ:初期のコンピューターでデータやプログラムを記録するために使われた、穴を開けて情報を記録する紙製の記録媒体。
FDOS:ソードが1970年代前半に開発した、フロッピーディスクベースのオペレーティングシステム(OS)。

まさに働き盛り、活躍中の椎名氏のようすがわかる(「ソードスペシャル'82」より)。

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