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いすゞが10億円寄付、AIや自動運転の社会応用の研究に

資産運用が大学を救う、寄付金の運用で長期の研究につながる、東大初の試みとは?

2025年01月14日 13時00分更新

右からいすゞ自動車の藤森 俊氏、片山 正則氏、東京大学の藤井 輝夫氏、加藤  泰浩氏、高橋 浩之氏

 東京大学は1月8日、「トランスポートイノベーション研究センター」を2月1日に開設すると発表した。このセンターは、いすゞ自動車からの寄付金を基にした大学独自の基金「エンダウメント型」の研究組織であり、東京大学としては上場企業からの寄付で設立する初の試みである。

 物流・交通分野を中心に、自動運転やAI、センシング技術などを活用し、持続可能な社会の実現を目指す。

 また、いすゞの寄付金10億円を運用し、その利益を研究資金とするため、これまで短期的だった寄付講座とは異なり、寄付金を運用しながら長期的で柔軟な研究をしていけるのだという。

 センターは東京大学本郷キャンパス内に設置し、研究分野は社会基盤学、都市工学、機械工学など幅広くカバー、物流や交通に関連する課題解決と新たな価値創造を目指す。さらに、人工物工学研究センターやサーキュラーエコノミーなどの関連分野と連携する計画だ。

 人員構成は、研究室ごとに教授1名、学生10名程度を配置。いすゞも毎年技術者3名を派遣する予定だ。いすゞの片山会長は、効率的で持続可能な物流システムの実現、未来の物流の形を描く研究、人材育成の3点に期待を寄せている。

 東京大学の藤井総長は「社会のニーズに応え、研究・教育・社会実装に貢献したい」と述べ、センターの活動が社会とアカデミア双方に大きな影響をもたらすことを期待していると語っていた。

長期的な研究ができるセンターとして設立

  昨今、自動運転や生成AIの台頭、2024年問題など、物流・交通を取り巻く環境は大きく変化しつつあり、物流・交通に関連する社会課題は広範な分野に展開されている。これらの解決のため、東京大学といすゞでは、大学の教育研究機能をフル活用し、イノベーションの創出を加速できないかと議論を重ねていたのだという。

 藤井総長は会見の中で「大学の経営力が問われている時代だが、本学では2027年に創立150周年を迎えるにあたり、財務体制を見直しているところで、いかなるときでも社会からの要請にこたえられるよう、エンダウメントを設けている」と話していた。

 これまで産学連携の一環で行われた寄付講座では3~5年という短いスパンでの研究結果が求められてきたが、今回は東京大学が寄付金を市場にて運用し、それをもとにセンターの資金に回すことで、長期的でフレキシブルな研究が可能だという。

交通・物流の課題解決、未開拓の領域での新たな価値創造を目指す

 物流・交通はグローバル社会を支える重要な基盤であるが、運用においては巨大なエネルギーや人員を要するため、持続可能な社会を実現する上で、物流・交通インフラシステム全体に対する技術革新が期待されているのだという。

 同センターでは社会基盤学・都市工学・機械工学・システム創成学などの学問領域を軸に、近年急速に進化しているAI・自動化技術・センシング技術など広範囲をカバーする。

 具体的には、多分野を横断する公民学の領域と連携し、新たな交通システムの社会実験を進め、自動運転・金融・投資などのさまざまな研究分野を接続するネットワーク型交通社会実験を実施・解析を行い、実践展開を図る。

 さらに物流とそれに関わる新たな潮流を生み出す活動として、物流サービスプラットフォーム、共創物流、物流センシング、物流に関する環境を含む幅広い領域の課題に取り組み、社会経済活動を円滑化することを目指した研究活動を展開し、スタートアップの設立につなげることを目指すとしている。

 上図のように物流、交通を階層に分けて表示すると、情報や金融・投資、また法制度などと関連して、各層において研究課題があるのだそう。同センターにおいては、これらを俯瞰した研究をすることで物流・交通分野の課題解決、未開拓の領域での新たな価値創造に向けた進展を図るとしている。

 また同センターでは持続可能な社会を実現する上で、大学院工学系研究科の附属施設である人工物工学研究センターと、サーキュラーエコノミー・価値創成・サービス設計・実践知能等の分野において緊密に連携していくという。

センターの活動が社会へのインパクトを与えることを期待している

 東京大学の藤井総長は、会見内で「本学では目指す理念と基本方針を『UTokyo Compass』として示しておりますが、そこでは本学が活動していく際の3つの視線の1つに『場をつくる』を掲げています。創造的な対話によって、本学自らが起点となり、多様な人々や組織との間に信頼の架け橋を創り、キャンパスの中だけにとどまらず、アカデミアとして活動の場を広げていく、そうしたさまざまな場の創出を通じて、大学の存在意義やアカデミアとしての役割に対する信頼と支持・支援の好循環を形成することを目指しております」とコメント。

 続けて「今回、いすゞ自動車株式会社様とともに新たにつくる『トランスポートイノベーション研究センター』という場においても、これからの社会からのニーズに応えるべく、本学の有する知を存分に投入し、研究・教育・社会実装に貢献できればと考えております(中略)このセンターの活動が社会へのインパクト、そして新たな知への創造へつながることを大いに期待しております。」と述べた。

 また、いすゞの片山会長は、同センターの運用について3つの点について期待しているとし次のように述べた「当社がこの研究センターにかける期待は3つあります。1つ目は持続可能な形で物流の効率化や人手不足などをアカデミアの観点から解決する糸口を見つける研究が行われることです。物流・交通分野における社会課題を解決し、夢のある社会を実現していくためには、持続可能な形で、運営されなければなりません。そのために今回、当社からの寄付金の運用益で運営するという形態に賛同いたしました。」

 「2つ目は、未来の『運ぶ』をカタチづくる研究が行われることです。研究センターの構想では、人流物流、物流金融システムから法制度まで幅広い研究が計画されています。まだ見ぬ将来の物流・交通の姿をより見える形にしていただきたい(中略)。3つ目は『人材育成』です。研究活動には、いすゞの技術者も参加します。当社は2030年に目指す姿を『商用モビリティソリューションカンパニー』と定めていますが、世界を進化させるイノベーションリーダーの育成が急務です。さまざまな研究室に民間からの研究者を受け入れ、新たな知の地平が開拓され続けている東京大学様との研究によって、大きな化学反応が起きることを期待しています。」

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