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内閣官房「イチBizアワード」協力協賛企業レポート

日本の測位衛星「みちびき」で無料の高精度測位を提供、準天頂衛星システムサービス

2025年01月14日 08時00分更新

文● ASCII
提供: 準天頂衛星システムサービス株式会社

この記事は、内閣官房による地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテスト「イチBizアワード」に掲載されている記事の転載です。

数cm級の高精度測位を実現
準天頂衛星システム「みちびき」の
サービスと進化点に迫る

出典:みちびき(準天頂衛星システム)ウェブサイト(https://qzss.go.jp/)

 準天頂衛星システム「みちびき」は、アメリカのGPSなどで知られる衛星測位システム(GNSS)のひとつで、英語表記はQZSS(Quasi-Zenith Satellite System)。衛星測位システムは地理空間情報を活用したビジネス開発はもちろん、物流や災害対策、一般生活においてもスマートフォンやカーナビ、周辺検索などに利用されており、現代社会において必要不可欠なシステムとなっている。

 準天頂衛星システムサービス株式会社(QSS)は、内閣府が進める「みちびき」の整備事業に関し、PFI(※)特定目的会社として地上システムの整備・維持、衛星を含むシステム全体の運用及び利用拡大について、日本電気と三菱電機とともに手がけている企業だ。

※注:PFI(Private Finance Initiative):公共施設などの建設や維持管理、運営を、民間の資金や技術、経営能力を用いて行う手法。

 事業に関して、準天頂衛星システムサービス株式会社 代表取締役社長の石橋海氏は「測位に関する信号の設計検証、地上システムの開発整備、維持運用に加えて、多くの方に活用してもらうためのプロモーションや展示会、講演会での案内、技術支援といった利用拡大にも取り組んでいる」と説明する。

QSSは、「みちびき」の地上システムの整備・維持、衛星測位システム全体の運用及び利活用の推進を手がける

「みちびき」の特徴は、地球に対して8の字の傾斜静止軌道をとり、日本のほぼ真上に1機あたり1日8時間留まること。これにより、現在の4機体制では準天頂軌道の3機が交代で24時間常に日本上空に滞在する仕組みで、日本のエリアで高い精度の測位を実現している。また、日本だけでなく静止軌道の衛星も含め、アジア・オセアニア地域でも利用が可能である。

 衛星の打ち上げ状況にもよるが、2026年度中には7機体制を整え、「みちびき」単独で位置情報の取得が可能になる予定だ。今後について内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室 企画官の和田弘人氏は「7機体制だとそれぞれの衛星のバックアップが十分ではない。2030年代、40年代になるとは思うが11機体制の実現に向けて検討を始めている」と語る。

現在、「みちびき」は4機体制で展開しているが、2026年度には7機体制に移行する予定だ

 「みちびき」が提供するサービスは、必要とされる精度に合わせて複数用意されている。一番身近なものは、スマートフォンやカーナビで利用されているGPSなど5~10メートル級の衛星測位サービスの補完だ。

 従来のGPS信号だけでの測位では、高層ビルや山の影に入ると測位が不安定になり精度が落ちてしまう。これを「みちびき」が提供するGPSと同様の信号で補完する仕組みだ。すでに、多くのスマートフォンやカーナビが対応しており利用されている。

 より高い精度が必要な用途に対しては、測位誤差を軽減するための補強情報「CLAS(※)」、「SLAS(※)」を提供している。すでに物流や土木測量関係、ドローンの自動運転、日本近海の漁業や航行などで利用や実証実験が進んでいる。また、SLASは受信機を小型化できるので、スポーツ分野やハンディ端末にも適している。

※注:CLAS:電子基準点を利用した精度の高い補正情報を「みちびき」から提供する、センチメータ級測位補強サービス(誤差数cmクラス)
※注:SLAS:電離圏遅延等による誤差の補正情報を「みちびき」から提供する、サブメータ級測位補強サービス(誤差1m前後クラス)

「みちびき」は、用途に応じて様々なサービスを提供している

 利活用の事例として、イチBizアワード2023で最優秀賞を受賞したエゾウィン株式会社の農業DX「Reposaku(レポサク)」がある。これは農業用車両にGNSSトラッカーを取り付け、作業者の位置情報をリアルタイムに共有し、マップ上に走行軌跡を表示して現場の進捗情報を可視化できるサービスだ。これにSLASやCLASを対応させることで、高い測位精度を実現している。

農業DXサービス「レポサク」。「みちびき」のSLASやCLASによる高精度測位を利用している

 海外向けの測位サービスとして、2024年4月から「MADOCA-PPP(※)」の対応エリアを拡大。アジア・オセアニア地域の海上や、東南アジア・豪州・オセアニアの諸島国でも利用できる。

※注:MADOCA-PPP:国内外のGNSS監視局網の観測データを利用した補正データをみちびきから提供し、より高精度な測位を実現する高精度測位補強サービス。アジア・オセアニアの広い地域で利用できる。

 さらに、スプーフィング(なりすまし)と呼ぶ偽の測位信号への対策として、2024年度から「信号認証サービス(※)」の運用を開始した。これにより位置・時刻情報への信頼性を高めている。

※注:信号認証サービス:電子署名認証技術を活用し、測位信号の真正を検証できるサービス。測位信号のなりすましを防ぐ。

 和田氏は「民間では有償で2cmクラスのより高精度なRTKサービスがあるものの、そこまでの精度は必要ないが、GPSの5mや10mクラスでは精度が不足している分野に無料のCLASやSLASを提供することで、利用が広がると考えている。さらに、物流を自動化する場合には位置情報のスプーフィング対策として、信号認証は当たり前になる。これらを提供できるのが『みちびき』の強み」と語る。

信号認証サービスの提供を開始。物流や自動操縦に位置情報を用いるさいのスプーフィング(なりすまし)などの妨害を防ぐ

 このほか、災害・危機管理通報サービスとして防災気象情報(地震・津波情報など)、Jアラート(ミサイル発射情報など)、Lアラート(避難情報)の配信を開始した。これは、通信インフラが提供されていない山中や海上でも利用できる。また、フィジー国において衛星から気象庁の災害関連情報や、フィジーの防災期間の災害避難情報を配信する取り組みも進めている。

B2Bや一般に向けた
「みちびき」の利用推進活動

 QSSは、「みちびき」の利活用推進も手がけている。WebサイトやSNSを開設するほか、展示会や公募実証、技術支援といった取り組みを進めている。

 公募実証は毎年実施しており、企業や団体、高等専門学校、大学を対象として「みちびき」を活用した実証事業を募集し、選定した事業に対して費用の補助(限度額あり)や技術的なサポートを実施する。

認知拡大や理解増進のためのイベントや展示会への出展、ツール提供や技術サポートも実施している

 「みちびき」を含むGPSなど、測位衛星の位置をスマートフォンやWeb向けアプリで確認出来る「GNSS View」も提供。「一般の方にも身近に『みちびき』を感じてもらいたいというプロモーションに加えて、実証実験時など現在の衛星の状況を一目で確認できるツールとしても有用」(石橋氏)。

 これらの利活用推進もあり、現在「みちびき」は自動車の自動運転にCLASが採用されているほか、除雪車、農業、林業分野での利用が進んでいる。

 このほか、水道事業者が市街地の水道メーターを点検する際にわかりにくい場所に設置されていることから、高精度な位置情報を記録して次回以降の効率的な点検に活用するといった事例もあるという。

「イチBizアワード」で「みちびき」の
新しい活用方法を見い出したい

 石橋氏は「イチBizアワード」について、これまでの「みちびき」に関する公募実証やプロモーションとはまた異なった活用方法の創出を期待する。

 石橋氏は「イチBizアワードで、より広い視点や新しい切り口で地理空間情報を活用したアイデアやビジネスを見ている。これらのアイデアに対して『みちびき』を活用する方法を見いだすことで、『みちびき』の活用方法についてさらなる広がりを得られるのではないかと期待している。『みちびき』の可能性を広く知ってもらい、技術的な質問があれば、できる限りサポートする」と、これまでの「みちびき」に関する公募実証やプロモーションとはまた異なった、活用方法の創出を期待する。

 また、高精度測位CLASの活用に期待を寄せる。「政府としては、日本における高精度測位社会の実現が最終的なゴールだと考えている。イチBizアワードに応募された高精度測位による新たなアイデアやサービスを実現したい時に、価格やランニングコストも下がってきた『みちびき』を、まず使って試してもらえれば」(和田氏)

 内閣官房は地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテスト『イチBizアワード』を開催(募集は終了済)しており、2025年1月29日~31日に東京ビッグサイト南ホールで開催される『G空間EXPO2025』にて発表・表彰される。

(提供:準天頂衛星システムサービス株式会社)

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