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プロフェッショナル同士がワンチームで仕事できる環境はどのように作られたのか?

競争激化のガス業界に一石を投じる「SAIBU LAND」 プロジェクト8ヶ月を振り返る

2024年12月23日 13時00分更新

ワンチームで自律的にプロジェクトが回る「雰囲気」はどのように醸成されたのか?

 外も中もワンチームというのは1つのこだわりだ。「1つのチームなので、隠し事はしない」と松元氏。その点、Backlogは情報をオープンにすることを前提としており、西部ガスのプロジェクトにもなじんでいる。実際、請求周り以外は、外部パートナーも含め、すべてのメンバーがプロジェクトのすべての課題に対して閲覧や投稿もできる。「システム開発の会社は普通に専門用語を使うのですが、これらもBacklogのやりとりから学べます。プロジェクトでもいつの間にか共通言語になることもあります」(友池氏)。

 具体的にBacklogでどのようなやりとりが行なわれているのか? 友池氏は「たとえば、お客さまからページの不具合に指摘が来たら、それを課題として起票してもらい、問題のあたりを付けたら、メンションを付けて開発会社に対応してもらうといった具合です。このやりとりを関係者すべてが見られます。横から、『これはうちかもしれません』と入ってもらうことも可能です」と説明してくれた。

 ここまでワンチームになると、もはや西部ガスを経由せず、外部パートナー同士が直接やりとりすることも可能になるという。「システム会社がフロントの開発会社に依頼するという場合でも、Backlogに入っていれば、やりとりがすべて見られるので安心です。まずい場合は口を出すし、パートナー同士で連携してくれればスピードも上がります」と松元氏は語る。

 異なる組織のメンバーが参加するプロジェクトだが、アサインした専門家の意見を尊重してきたのも円滑な運営のコツだ。「私の意見に対して、デザイナーさんが『お客さまにとっては現状の方がよい』という意見をあえて返してきたら、基本的にプロの意見を尊重します。だから、発注者側、受注者側の違いや、メンバーの上下関係はありません。単にプロジェクトの中のデザインにくわしい人、システムに強い人という位置づけです」と友池氏は語る。

 こうしたワンチームの醸成には、組織の垣根を越えたカジュアルなやりとりが寄与している。友池氏は、「絵文字も使うし、スターもバンバン付きます。私がWikiに書くルールも、『誰でも課題作っていいです』『自分がタスクを終えたら、担当者を相手に戻してください』くらいの、ゆるい内容。みなさんフランクにやっていいですよというWikiを書いているんです」と語る。

 タスク管理に厳しいプロジェクトもあるが、可能であれば、ゆるくても自律的に回るプロジェクトの方がよい。その点、西部ガスのBacklogは後者のレベルにまで達しているような気がする。松元氏も「ゆるすぎて困ったということはないですね。みんなで同じ方向に向かうという意識付けが自然と生まれてきます。いったん『これをやろう』とチーム内で決めたら、あとは早い」と語る。

 ここらへんのBacklog内での雰囲気作りは、5年近く使っている実績や経験が活きている。ここまでのレベルになったのは、先輩とも言えるパートナーから使い方を学んだからだという。「最初は『バグをとる』という大きな課題を立ててしまい、箇条書きされたリストで、いつまで経っても終わらなかった(笑)。パートナーさんから、バグごとに課題を立てることを教えてもらい、今は後輩にもそう教えています」(友池氏)。

自らのタスクだけでなく、プロジェクトを俯瞰してくれる担当者も出てきた

 SAIBU LANDは12月2日にめでたくオープンし、すでに会員数も順調に拡大している。「『構築まで2年かかる』と言われたサイトを8ヶ月で開設でき、イニシャルコストも1/50で済ませることができた」と松元氏。なにしろ、他のプロジェクトを同時進行で抱えつつ、サイトのオープンまでスピーディに構築できたのは驚異的だ。

 Backlogの導入効果としては、前述した「電話とメールがなくなった」「複数のプロジェクトを同時に回せるようになった」のほか、友池氏は「過去のやりとりが検索できること」を挙げる。「メールだと埋もれてしまうし、それをさかのぼると時間がかかる。Backlogであればやりとりを検索でき、引用して、別の課題に発展させることも可能です」(友池氏)。これぞ使い続けたからこその効果だ。

 実務よりもマネジメントや部署間調整に回っている松元氏からすると、Backlogでプロジェクトが一望できるのは大きなメリット。「いろいろなプロジェクトが走っていても、Backlogで進捗が追えるので、安心して見てられます」と松元氏は評価する。チームワークマネジメントの観点でも、「Backlogで役割をアサインされた段階で担当者としての意識が明確になり、担当がそれぞれタスクを完遂まで渡し合うことができる。これを実現できるBacklogは、かなり強力なツールです」と松元氏は語る。

 担当者の自主性を促しているのも、Backlogの効果だ。友池氏は、「Backlogは自分が担当者として割り当てられている役割を認識できるというメリットがあるのですが、プロジェクト全体を見たときに、ほかの人がどんな課題を抱えているのかもわかります。最近、私以外のメンバーもダッシュボードやホーム画面をチェックしてくれて、休みや出張のときによしなに差配してくれるんです」と語る。自分のタスクではなく、プロジェクト全体を俯瞰で見られるメンバーが現れたのは、最近感じた大きな成果だという。

 SAIBU LANDはすでに構築から運用のフェーズに入っているが、Backlogはそのまま利用している。プロジェクト管理ツールというと、「時限のプロジェクト向け」や「一時的なキャンペーン用」といったイメージがあるが、ルーティンワーク・定常業務でも利用できる点がBacklogも面白いところでもある。「プロジェクトの企画がうまくいき、定常業務として現場部門に戻す場合も、Backlogごと引き継いでいます。運用の過程で外部パートナーも慣れているので、担い手が変わってもうまくいっています」と松元氏は語る。今後どんなプロジェクトがあっても、Backlogとチームワークで乗り切っていけそうだ。
 

チームワークマネジメントの視点

 グループ全体で3800人が勤務する大手都市ガス会社の事例ということで、けっこう身構えて取材に臨んだが、いい意味で裏切られた。トレーナー姿で現れた松元氏と笑顔を絶やさない友池氏は、まるで我が家に招いてくれたかのようなカジュアルさで、プロジェクトについて、わかりやすく丁寧に説明してくれた。取材を通して「なるほど、このアットホーム感がSAIBU LANDのチームワークマネジメントの中にはあるのだな」と、とても納得した。「心理的安全性」が確保された環境だからこそ、社内外のプロフェッショナルたちが自らの能力を発揮し、本来2年かかるプロジェクトを8ヶ月で実現できたのだろう。

 チームワークマネジメントは、「組織や所属、専門分野が異なるメンバーと協働し、効率的かつ効果的に目標を達成するためのプロセスや手法」と定義づけられている。SAIBU LANDのプロジェクトの場合、社内外含めて50人近くが関わっているが、西部ガス側がルールと役割、そしてゴールを定め、それをBacklogに落とし込むことで、この「組織や所属、専門分野が異なるメンバーと協働」が実現されたわけだ。

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