ドコモは東京・品川にあるネットワークオペレーションセンターの見学会を実施。ネットワーク運用の拠点となる同施設での取り組みや、AIなど新しい技術を活用したネットワーク運用、そして能登半島地震での経験を基にした新たな災害対策などを紹介した。
ネットワーク運用の自動化とAI活用を積極推進
ドコモは全国約2000名以上の技術者が、ネットワークの監視や、故障発生時の復旧などの運用業務に携わっており、その大きな拠点となっているのがネットワークオペレーションセンターだ。ここでは携帯電話の基地局から「spモード決済」関連の機器に至るまで、およそ120万もの装置を24時間・365日体制で監視。装置のアラートや故障などを発見した際には遠隔での対処に加え、各現場の拠点となる支店と連携して、修理対応なども実施しているという。
そして、ネットワークオペレーションセンターは東京と大阪の2つに拠点が設けられており、東日本もしくは西日本で大規模災害が発生し、施設が被災した場合はもう一方の拠点で監視できる態勢が整えられているとのこと。
さらにコロナ禍を経た現在では、出社困難な状況が生じた時に備えてネットワークセンターだけでなく、自宅やサテライト拠点で遠隔できる体制も拡充を進めているとのことだ。
だが携帯電話のネットワークは、4G、そして5Gと世代を重ねるごとに複雑さを増し、人間による運用だけでは限界を迎えつつあることから、携帯電話業界ではここ最近、運用を自動化しようという動きが急速に進んでいる。
実際ドコモも「データドリブン」、ようはデータを活用したネットワークの運用を進めているそうで、故障発生の見地から故障した場所の特定、そして実際に直す措置をするまでの作業を可視化・自動化するデータ基盤を整備し、対応の迅速化をはかっている。
具体的には、基地局やコアネットワークなど、従来個別に監視していたものを、アラートの通知やネットワークのログ、トラフィックの状況やSNSの書き込みなどから分析する「可視化基盤」で一元管理。これによって多様な角度から情報を分析できるようになり、故障などが生じた個所を特定するのに要する時間を最大で90%短縮できたという。
それに加えて、特定した箇所に具体的な措置をするプロセスを自動化する基盤を導入することで、措置完了までの時間を約60%削減することを目指しているとのこと。この自動化基盤はすでに国際サービスや法人向けサービスの一部で導入がなされているそうで、今後はネットワーク全体に導入を進めたいようだ。
さらに今後は、通信障害などで多数の装置から一斉にアラートが生じ、原因を突き止めるのが難しいような状況でも、素早く原因を特定できるようネットワーク全体のデータを集約する体制を整えるとのこと。また、昨今注目されるAI技術を活用し、異常や故障の予兆などを学習させたAI基盤と、可視化基盤を連携させて自動化基盤を強化する方針も示された。
一方で、2023年にドコモが大幅に低下させ大きな問題となった通信品質の改善に関しては、別の部門が担当しており、ネットワークオペレーションセンターが直接担当しているワケではないとのこと。ただ一連の問題以降、双方の部門でSNSの情報を共有するなど、連携は積極的に進められているそうだ。
陸路の寸断に苦戦した能登半島地震
今後は空からのカバーを強化
また今回の見学会では、日本でネットワークを運用するうえで非常に重要な災害対策と、2024年1月に発生した能登半島地震での対応についても説明がなされている。ドコモでは2011年の東日本大震災を受けて災害対策を大幅に強化しており、大規模災害時に半径7kmの広域をカバーする「大ゾーン基地局」を全国に105ヵ所設置している。
それに加えて同社では、通常の基地局の基盤を強化して自然災害に備えられる「中ゾーン基地局」を2000局設置したほか、衛星通信を用いた可搬型基地局や移動基地局車の増設なども進めてきたという。
だが能登半島地震では、陸路でのアクセスが限られる半島での災害ということもあって、これまでの大規模災害とは異なる問題が多く生じていたとのこと。地震や津波による道路の寸断が多く生じた上、余震や雪で日によって道路環境が変化してしまうこともあって、障害が起きた基地局へのアクセス自体が困難な状況に陥っていたようだ。
実際、能登半島地震で中断した基地局は最大で260程度と、これまでの災害と比べ多いワケではないというが、それにもかかわらずエリアを完全に復旧させるにはおよそ3ヵ月の時間を要した。陸路での復旧が困難なことから、同社として初となる船上基地局をKDDIと共同で展開したほか、陸路が立たれた地域では自衛隊の協力を得て、ホバークラフトで機材を運ぶなど、あらゆる手を尽くして復旧に当たっていたようだ。
そうした能登半島地震での経験を踏まえ、同社では新たな災害対策をいくつかの取り組みを進めている。具体的にはスペースXの低軌道衛星を活用した通信サービス「Starlink」を2024年5月より全国で運用を開始、すでにおよそ130台を導入したほか、道路環境の急激な変化に備え、発電機もより長時間動作するものを採用したとのこと。
実際これらの機器は、2024年9月に発生した奥能登豪雨での復旧作業にも活用されている。
それに加えて、孤立しやすい半島で中継伝送路が断線してしまい、通信ができなくなることを避けるため、伝送路を従来の2ルートから3ルートに増やす取り組みも進めているとのこと。
さらに将来的には、ドコモが実用化に向け取り組みを進めている、“空飛ぶ基地局”ことHAPSによる被災エリアの救済や、NTTグループと提携したアマゾンの「Project Kuiper」など、Starlinkだけではない低軌道衛星の活用も検討しているようだ。
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