週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

トップの全国行脚、社員発の企画支援、社内SNS すべては熱量のため

こんな銀行入ってみたい 「みずほのカルチャー」ができるまで

2024年11月27日 09時00分更新

 ウイングアーク1stのイベント「UpdataNOW24」の基調講演のゲストとして最後に登壇したのは、みずほフィナンシャルグループの企業カルチャーの改革を担当する秋田夏美氏。AIやテクノロジーを使う従業員のモチベーションにフォーカスし、「お堅い銀行のイメージ」を払拭する改革の背景やユニークな施策について説明した。

みずほフィナンシャルグループ 執行役 グループCCuO兼グループCBO 秋田夏美氏

従業員が不満を持っているのに、果たして顧客満足度は上げられようか

 基調講演でゲストを紹介したウイングアーク1stの代表取締役社長の田中潤氏は、「ここまでAIやテクノロジーの話をしてきたが、最終的に企業にとって重要なのは社員のモチベーション。このモチベーションにフォーカスしたお話しをいただきたい」とみずほ銀行フィナンシャルグループの秋田夏美氏を紹介する。

 冒頭、秋田氏は「今回はテーマがデジタル、テクノロジー、AIなのに、なんでカルチャーやねんと思われるかもしれません。でも、あらゆるデジタル、テクノロジー、AI、すべて使うの人な訳ですね。その人がモチベーション高く働けるかは、どこの業界でも求められていると思います」と第一声。そんな秋田氏は、2年半前にみずほフィナンシャルグループに入社し、CCO(Chief Culture Office)ならびにCBO(Chief Branding Officer)としてグループ全体のカルチャー改革、コミュニケーションの促進、ブランド価値の向上を担ってきた。

 秋田氏が披露したのは、2017年の5月に掲載された「熱意ある社員は6%のみ。日本132位」という日経新聞の見出し。これは米ギャロップが行なった社員エンゲージメント(仕事への熱意度)調査に基づいたもので、熱意ある社員は米国は32%なのに対して、日本では6%のみ。ランキングも139カ国中、最下位に近い132位で、「周囲に不満をまき散らす無気力な社員」は24%、「やる気のない社員」は70%に達したという。この状況は今も変わらず、今年もエジプトや香港と並んで最下位になっている。調査だけ見ると、日本はやる気と熱意のない社員の集まりなのだ。

 長らくマーケティング畑を歩んできた秋田氏は、CX(Customer Experience)の改善を大事にしてきたが、「そもそも社員が満足していないのに、顧客満足度なんて挙げられるのだろうか」という点に気づいた。「CXの前にEX(Employee Experience)。社員のみなさんが、自分がこの会社で働いていることにプライド、やる気、モチベーションを持てなかったら、これはCX以前の話」秋田氏は語る。この「EXの向上なくしてCXの向上なし。CXの向上なくして、ビジネスの成長なし」は海外の調査でも裏付けがあるという。

社員で作った「企業理念」 エンゲージメントスコアも中期経営計画に

 秋田氏が入社した2022年4月、みずほフィナンシャルグループでは社員の声を経営に活かすため、約150人の社員がワーキンググループを立ち上げていた。翌年の2023年が創業150年という節目を迎えるため、過去をベースにしながら、未来をどう作るのか、会社をどのようによくしていくのかを、半年に渡って議論し、経営とディスカッションを行なっていたのだ。

 その結果、提言として出てきたのが、恒久的に企業カルチャーの改革を行なうチームの結成とCCOの設置で、秋田氏は12月にその役職に就く。「その意味で社員から役割を渡されたと考えている」と秋田氏。2023年4月にチームができて、ワーキンググループと呼応して進めたのが、企業理念の再定義だ。

 みずほというと銀行のイメージが強いが、実際はみずほフィナンシャルグループというホールディング会社と銀行、証券、信託、リサーチ&テクノロジーズの中核5社がある。そのため、金融ビジネスだけをやっているわけでもなく、個人のお客様に対応する担当、コールセンター、事務職、コンサルタントなど役割も多彩。国内で4万人以上、海外も含めて6万人以上の従業員がいる。これだけ巨大な組織、多種多様なメンバーが同じ方向を向くためには、やはり企業理念が大事になるというわけだ。

 この企業理念の再定義には1年がかかった。経営が素案を考え、社員からの3200あまりのフィードバックを元に練り直し、また提案し、フィードバックをもらうというプロセスを経たため、これだけの時間がかかったわけだ。「誰かが作って上から降りてきた企業理念ではない。みんなでいっしょに作ったもの」と秋田氏は語る。

 みずほ銀行の存在意義を表したパーパスは「ともに挑む。ともに実る」。これは現在のみずほの源流である第一国立銀行を作った渋沢栄一が追い求めた「公益と私益の両立」にも通じるという。「その精神を紡いでいくのは、社員の共通認識になっている」と秋田氏はコメント。そして、この企業理念の公表にあわせて発表されたのが中期経営計画では、初めて非財務のエンゲージメントスコアとインクルージョンスコアが目標値を掲げられているという。

1年かかった企業理念の再定義

多種多様な打ち手 社員の意識に変化の兆し

 みずほフィナンシャルグループの企業カルチャー改革は、おもに社内を前提とした「新しい企業理念に根ざした企業風土変革に向けた活動」と、「みずほへの好意的な評価を形成するために社外的に発信」という両輪がある。変革の過程で行なわれた活動を対外的に発信することで、社外から高評価を得ることができ、それを社内に環流させることで、社員の背中を押すというループだ。

 いくつかの施策も披露された。まずはトップ・経営陣が全国で300近くある拠点に足を運ぶタウンホールミーティングや座談会。「経営が自分の熱量と魂のこもった言葉で語っていく。これを元にディスカッションし、座談会を行ない、双方向でのコミュニケーションを心がけています」とのことで、この2年で100拠点以上を行脚している。

 トップダウンでのコミュニケーションに加え、社員を起点としたカルチャー改革も進めている。「自分の勤めている会社だから、自分ごとなんだと思ってもらうために、自ら動いてもらうのは大事」とのことで、社員発の企画をチームも支援している。たとえば、150周年の記念誌として作ったみずほ版Forbes Japanの発行、20代の若手社員が役員のメンターとなるリバースメンター、企業理念のアート化、応募数2000件を超える生成AIアイデアソンなどなど。社員自らのアイデアを事業化したり、「みずほNISAカフェ」のように支店のアイデアが全国に拡がった例もある。

 コミュニケーションの活性化に関しては、社員同士がつながる社内SNS「Viva Engage」も2年前に導入。利用者数は2万6000人を超え、コミュニティも300を超える。また、本部ビルのカフェ・食堂も夜はバーとなり、2人で社員証をかざすと飲料が無料で飲めるという「ともに挑む。ともに飲む自販機」なども導入されている。企業理念やパーパスがいろいろで形で企画に根付いているわけだ。

 サッカー日本代表のスポンサーをはじめとしたスポーツ協賛も、単なる社外向けのアピールではなく、社員の一体感醸成に大いに役立っているという。「先週のなでしこの国際親善試合も1万人の社員がボランティアや選手の応援などいろいろな形で能動的に関わってくれた。社員の能動的なアクションの積み重ねが、会社の熱量を上げていく」と秋田氏は指摘する。

 こうしたさまざまな施策の結果、社員の意識に変化の兆しが現れている。社員調査の「変化の実感」については、2022年度の52%から昨年度は67%に大きく伸びた。エンゲージメントスコア、インクルージョンスコアも着実に上昇している。とはいえ、秋田氏は満足しているわけではない。「これって健康診断のようなもの。つねに右肩上がりに行くとは思えないので、さまざまな打ち手が必要。でも、熱量を高めていくには、楽しく働くのが大事です。スマートでロジカルな左脳的なアプローチだけではなく、ワクワクや遊び心など右脳的なアプローチも必要だと思っています」と秋田氏はまとめた。

右脳的なアプローチも必要

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります