IoTで物流に付加価値 安全性を確保
松下:次は「物流+α」の付加価値物流の事例です。ここで紹介するチュウケイではSORACOMを使って複数の医療品の保冷庫の温度や停電を24時間監視しています。LINE連携でアラートの共有も短期間で実現しました。
同社はもともと警備会社。でも、警備会社って物流に近いことやります。一番わかりやすいのがATMへのお金の入金や回収ですが、ここでは物流における医療品の品質管理を行なっています。
桶谷:こちらの事例は医療品の温度を確保して運ぶのが要件です。温度が変化してしまうと品質的に使えなくなってしまうので、IoTで温度を測って、証跡として残しています。
松下:次の野井農園では、運搬中の九条ネギの温度が一定に保たれていることを確保しています。「お客さまに新鮮さとおいしさをお届けします」みたいな事例。生産者の顔が見えるのと同じように、品質が保たれていることをデジタルで証明するわけです。
こちらは京都府山城北農業改良普及センターというところがデジタル化の提案を農家に働きかけた結果、当社のGPSマルチユニットSORACOM EditionというIoTデバイスで実現したソリューションです。こうしたトレーサビリティ系の事例では、温度、湿度、位置情報で品質を管理しています。単に位置だけではなく、状態を知るというケースでIoTが活きてきます。
大谷:なるほど。農業改良普及センターが農家にDXを持ちかけているんですね。
松下:同じ温度管理でも、チュウケイでは温度を管理しないと使い物にならないので、マイナスをゼロにする事例、野井農園では品質を保証することで、付加価値を提供する事例と言えるかもしれません。
日本ではまだ厳密なトレーサビリティのルールはないですが、欧州は温度が変わると商品の価値が変わってしまうワインやチーズに関してトレーサビリティの要件があります。コーヒーやアイスクリームなどを保存する冷蔵庫に関しても、温度管理のIoTが進んでいるエリアらしいですね。
大谷:大手の運送会社は走る冷蔵庫みたいなトラックで温度を保ちますが、ソラコムを使うとそれに近いことが、より小規模でもできるという事例ですね。
在庫管理でのIoT活用 補充の効率化で事業者もお客さまもうれしい
松下:最後は在庫や納品の管理ですね。たとえば、帝人フロンティアでは、医薬品や包袋、ガーゼのような消耗品の納品管理をIoTで効率化しています。
医薬品商社の営業担当者は、足りない商品を病院に納品し、院内では職員の人がそれを現場に運びます。この人力作業が医療現場ではほぼ毎日続いていたそうです。
この課題に対して、帝人フロンティアがもともと持っていたRFIDの技術がマッチしたとのこと。現場で利用する商品をスキャナーに通すと、倉庫側に連絡が行き、納品のタイミングを通知してくれるんです。
大谷:これって薬局とかも同じですよね。だって薬局に行くと、営業さんが来て富山の薬売りみたいに、足りない薬を補充しに来ていますが、IoTで在庫管理すれば、足りないタイミングで商品の補充できますよね。
桶谷:富山の薬売りのような置き薬方式って、とりあえず全部持っていって、足りないものを補充しますが、IoTを使えばなにが足りないかまで事前にわかる。だから、必要な商品だけ持っていけばいい。
同じような事例だとニチガスが行っているガスの残量検知が似たような事例ですね。今まではガスボンベを世帯あたり2本持っていって、必要な分を交換していたとのことです。残量検知で事前に足りない本数がわかるようになり、必要な分だけ持って行けばいい、また一回でまわる世帯数も増えてガスボンベの交換が効率的になりました。
大谷:以前取材した美容外科では、ヒアルロン酸の在庫をスマートマットで管理していましたが、まさに同じような事例かもしれません。
物流の課題にどのようなテクノロジーを活用できるのか?
大谷:こうした事例にどのようなテクノロジーが用いられているかも教えてもらえますか?
松下:物流は千差万別ですが、倉庫、運輸、在庫に加えて、設備や人等の運用といった4つくらいに分類されます。その中でもIoTが効きやすいところでいうと、移動しているモノを管理するという部分。位置情報、見える化、品質管理、在庫管理など目的によって、技術は変わってきます。
桶谷:たとえば、屋外であればGPSが便利ですが、屋内はGPSが使いにくくなるので、工場内物流のような事例ではビーコンで位置を特定します。
GPSは位置情報の精度が重要です。ですので、地図サービスでは道路を動くようにけっこう補正をかけています。一方で屋内はそもそも地図がないので、マッピングするものがないから、補正も難しい。だから、廊下の交差点みたいなところにビーコンを置いて、通過したかどうかを検知したり、別の技術を組み合わせて精度を上げる仕組みが必要になります。
大谷:用途にあわせて技術の組み合わせが違うんですね。あと、コストの観点も重要ですね。やはり小さい物流となると、なかなかコストもかけられないですし。
松下:たとえば、RFIDもまだ単価で10円以上はするので、あんまり安価な商品には付けられません。だから、カメラで撮影して、AIで解析して、在庫を管理するみたいな仕組みになります。
ソリューションが千差万別になるのが、物流業界の難しいところ
大谷:物流でのニーズが決まっているなら、ある程度「松・竹・梅」みたいにソリューション化するという方法もあると思うのですが。
松下:ニーズに合わせて、ソリューションも多種多様なので、ベストプラクティスが編み出しにくい。パターン化しにくいのが物流なんだと思います。
桶谷:ソリューションアーキテクトの立場からすると、なんとなくソリューションはあるんです。お客さまの課題を聞いたら、「これとこれですね」くらいは言えるんですが、まだ具体化できてない。数パターンではなく、より細かく数十くらいにはなってしまう。たとえば、超音波センサーでも位置は特定できるし、QRコードを使う場合もあります。パターンが多すぎる問題はありますね。
大谷:モノの位置を特定するくらいは汎用ニーズだと思うので、パッケージやら、スターターキットにできそうな気もしますけど。
松下:小さい物流って組織ごとの「オレ流物流」になりがちなんですよ(笑)。小さい物流だとコンサル不在の場合もあるので、各々が独自に物流をカスタマイズしてしまう。加えて物流って「生き物」なので、配送する拠点が増減したり、配送先が決まらないみたいなことが起こり、結果的にオレ流物流になってしまうんです。
桶谷:最悪、自分で運べばいいやみたいな感じになりますよね。
松下:そうそう。だからそれに合わせてソリューションを作ると、オレ流物流向けIoTがいっぱいできてしまう。本来は物流のパターンが決まっていて、それにIoTソリューションを当てはめていく方が正しいとは思います。
大谷:なるほど。次回は実際の物流の事例を見て、より課題とソリューションのマッチングを理解していきたいですね。
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