2024年10月11日、JAWS-UGは、年次イベントである「JAWS FESTA 2024 in 広島」を開催。東広島市の広島大学キャンパスには350人を超える参加者が集結した。基調講演には湯﨑英彦広島県知事が登壇し、イノベーション立県としてのAIへの取り組みを披露。地元出身であるフジテックCIO 友岡賢二さんとともに「失敗してもいいAIのチャレンジ」を広島県の魅力としてアピールした。
宮島、原爆ドーム、広島焼 前日入りで広島の魅力を堪能
AWSのユーザーコミュニティであるJAWS-UGは、1年に2回全国規模のイベントを開催している。1つは冬に東京で開催される1000人規模のJAWS DAYS、そしてもう1つが日本各地持ち回りで開催されるJAWS FESTAである。つまり、JAWS FESTAはJAWS DAYSの地方版という位置づけがあり、過去は大阪、名古屋、仙台、福岡、札幌などで開催され、今年は初の広島開催となった。
さて、広島開催とあるが、実際の会場は広島市内ではなく、隣の東広島にある広島大学キャンパスとなる。これは同じく東広島の西条で開催される「酒まつり」に参加者を巻き込むための施策だ。広島から西条へはJRで30分近くかかる上、酒まつりが開催される西条駅周辺から広島大学のキャンパスへもイベント用のシャトルバスを乗り継ぐ必要がある。つまり、広島市内で宿泊するにせよ、会場に直行するにせよ、会場に着くためにはけっこうな距離を移動しなければならないのだ。
今回私は準備に取りかかったのが異常に遅く、前夜祭も懇親会も申し込みが間に合わず、ほぼ数日前に飛行機と宿泊の手配をしたため、とれた飛行機は前日の朝イチ便。逆に言えば、前日の朝早くに着けたので観光のようなロケハンをしっかり行なった結果、広島の魅力を堪能できた。秋の瀬戸内海に映える厳島神社は本当に素晴らしかったし、結果的に日本被団協がノーベル平和賞を受賞したタイミングに原爆ドームを訪れることができた。もちろん、夜はホテル近くで広島焼き。前日入りすると、やはり地元も理解でき、取材に魂が入る(断言)。
さて、当日は広島市内からたまたまホテルが同じだったCData Softwareの知り合いの車に乗せてもらい、会場の広島大学に送ってもらうことになった。広島の山々を抜けて、会場となる大学の講義棟に着くと、会場準備はすっかり終わっており、参加者同士の立ち話が始まっていた。その後も続々と参加者が到着し、開始直前には基調講演会場のホールはすっかり埋まっていた。価値のあるコンテンツが用意されていれば、多少会場の足が悪くても、参加者はきちんと来るのである。
JAWS FESTAに県知事登壇 自治体としてのAIへの取り組みを熱弁
さて、10時にイベントは開始。 実行委員長 丸本 健二郎さんが挨拶に立ち、運営メンバーや参加者に熱い感謝の気持ちを披露しつつ、広島大学で開催した理由として「酒まつり」「学生に参加してもらいたかった」という点を挙げる(関連記事:今年のJAWS FESTAは東広島の酒まつりに連れて行くのが目的だった)。その後、運営メンバーから酒まつりに関する丁寧なレクチャーを受けた後、いよいよ酒まつりもといJAWS FESTA 2024がスタートする。
最初のゲストは、なんと広島県の湯﨑 英彦知事。県知事がJAWS FESTAに登壇するとは、世の中のリーダーだちがコミュニティの価値に気づいてきたことを痛感する。一方で、わざわざ湯﨑知事がこのイベントに登壇したのも、単に広島県の自然や住みやすさをアピールするだけではなく、広島県が「AI立県」であることをエンジニアたちに強くアピールしたいから。人口減少や少子高齢化、格差の拡大など不透明な将来が漂う中、広島県が全面的にフォーカスするのがAIである。
もともと広島県は、MAZDA、ディスコ、ローツェなど世界に名だたる製造業が集積したイノベーション立県であり、AIの学習処理に欠かせないNVIDIA H200に搭載されているマイクロンのメモリも広島の工場で生産されているという。2010年からは「イノベーション立県」を旗印に、そんなイノベーションを加速させるべく、さまざまな施策を展開してきた。
たとえば、課題に対するソリューション開発を支援する「HIROSIMA SANDBOX」、ユニコーン企業を10年間で10社創出する「HIROSHIMA UNICORN 10」などのプログラムを提供してきた。「みなさん本当かと思っているかもしれないですけど、そういうことをやるという挑戦が大事」と湯﨑氏は語る。実証実験としても、勘と経験に頼っていた牡蠣の養殖の改善、ドラレコによる道路の陥没予測、ブドウ栽培における粒数の自動計測、自律航行可能な船舶の開発などを試行錯誤してきたという。
直近ではAIにフォーカスした「ひろしまAIサンドボックス」を開始。最大1億円を開発実証支援費用として用意し、AIを活用したい県内企業、AI技術を持つ全国の企業をマッチングさせている。大事なのは、挑戦を支えるために失敗を許容する土壌があること。「失敗を目指してチャレンジする人はいないが、結果的に失敗してもよいと思う。アイデアがあればOK。リアルなファールドデータと、AIの技術を自治体としてマッチングしていく」と湯﨑知事は語る。
その他、庁内でAIの利活用を進める「広島AIラボ」、高校生と企業のAIクラブである「ひろしまAI部」などを展開し、実用化に向けたさまざまなアイデアを掘り起こしている。広島県が持つイノベーションにおいて重要な失敗に対する寛容さ、AIへの意気込みやポテンシャルなどが参加者にも伝わってきた。湯﨑知事は、「広島県としてAIに関して、いろいろ集積してきたし、挑戦もしてきた。みなさんにも参画いただいて、大きく広島から変えていこう」とアピールした。
失敗できない今の世の中、県知事はなぜ「失敗してもいい」と言えるのか
基調講演の後半は湯﨑知事とフジテックCIOの友岡賢二さんとのディスカッションになる。登壇の一声、友岡氏は「湯﨑知事と私と(広島出身の)吉川晃司が同じ歳(笑)」と場を和ませる。
友岡さんは若い頃に地元広島を出て、松下電器産業(現パナソニック)に就職し、海外勤務も長い。フジテックCIOとして広島に戻ってきた友岡さんは、「地元に帰ってきて、改めて広島の美しさ、人の温かさに感動している」と語る。
広島出身の湯﨑知事も、大学時代に上京し、通産省の官僚と民間企業を経て、地元広島で県知事となった経歴を持つ。そんな湯﨑氏は、広島の魅力として「まちと自然が近い」ことを挙げる。「スキー場は市内から1時間程度で行ける。ゴルフだって、朝5時に早起きしないで7時に出て間に合う」とコメントする。友岡氏は「エーゲ海も、カリブ海も見た後に、呉線から見た瀬戸内の島々と海の美しさに、私は涙が出た」と語ると、湯﨑知事は「正直、エーゲ海よりもきれい(笑)。でも、これは外国人のみなさんが言ってるので、本当だと思う」と地元LOVEトークに花が咲く。
さて、行政らしからぬシンプルで美しいプレゼンとあわせて、友岡氏がポイントしたのは先ほどの「失敗してもいい」というメッセージ。「大企業は『失敗するなよ』と言うから、失敗する。でも、リーダーが『失敗していいよ』というと、早く、安く、賢く失敗してくれる。知事のコメントは今までのカルチャーを変えたいという想いが見えた」と語ると、湯﨑知事は「先端の領域は特に探索をしなければならない。だから行ってみて、ダメなら別の方向に行くという風に変えないと探索にならない。最新のテクノロジーやAIはやってみた結果、失敗の上に学びがあると思う」とコメントする。
そんな失敗を許容する広島県はエンジニアにとっても、当然居心地いいはず。友岡さんが「今日はエンジニアがいっぱいいあるので、少なくとも5人はもって帰りましょう(笑)。ノマドも、兼業も、ワーケーションも増えているので、広島で働いてもらいたい」と語ると、湯﨑知事も、「エンジニアは通信さえあれば働けるはず。その点、広島は海の上でも通信できる」と返す。
世界に発信できる優秀な日本のエンジニア チャレンジなら広島へ
ディスカッションの最後に友岡さんが聞いたのは、広島県が注力するAIへの期待。湯﨑知事は「うまく使えば劇的に生産性は上がる。ただ、今はインターネットの情報がベースなので、いかに自分たちのナレッジベースとくっつけて、そこから正しい情報を引き出していくのが大事。ただ、そこからどのような価値が生み出せるかがまだよくわからないし、AI単体で使うというより、ほかのシステムとどのようにくっつけていった方がよいという」と自らのデータや他システムとの連携の重要さを力説。友岡さんも、「今まで難しかった企業、行政、学術機関がAIで連携しやすくなった。より大きな価値につながるはず」と応じる。
まとめのコメントを求められた湯﨑知事は、「日本の競争力が低下していると言われていますが、海外の人から言われることは『日本のエンジニアはめちゃくちゃ優秀である』ということなんです。その優秀さを世界に発信してほしい。そして、その際にはぜひ広島でお願いしたい」とアピールし、拍手の中でセッションを終えた。
まるでスタートアップの社長のプレゼンを聞いているような湯﨑知事のシンプルで強いプレゼンは、行政らしい堅苦しさやわかりにくさと無縁で、エンジニアとプロトコルもがっちり合っていた。後半の友岡さんとのディスカッションも踏まえ、チャレンジできる土壌としての広島の魅力に心を動かされたエンジニアも多かったはずだ。
基調講演の後は、さっそく7つのトラックに分かれてセッションが開始。私はサタケや中国新聞社、オタフクなど地元企業トラックの事例に張り付いたので、レポートは別稿でお送りする。
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