サイボウズのkintone事例イベントであうkintone hive 2024 osaka の5番手は、パトライトの若手社員である三井誠也氏が登壇。仕事にやりがいを見いだせず、コミュニケーションも苦手だった三井氏は、kintoneと関わることで、どのように自信を付け、やりがいと楽しさを得たのか? これは1人の若手社員のkintone成長物語である。
「今どきの若者」だった3年前の三井氏 kintoneが渡される
緊張しながら登壇するパトライトの三井誠也氏。直前のワイドループ川咲氏のセッションのインパクトが強すぎたため「正直めっちゃやりにくいです(笑)」と語る三井氏だが、「元気だけはあるので、みんなに気持ちを届けたいです!」と宣言し、まずは会社の紹介からスタートした。
今年で創業77年目を迎えるパトライトは、光や音、文字を用いた報知機器のメーカー。社名=製品ジャンルと呼ばれるくらいで、工場、オフィス、店舗、緊急車両など幅広い場所で用いられている。三井氏は、そんなパトライトに入社して6年目で、今はkintoneの運用を手がけている。
そんなkintoneを導入した3年前は、基本的に振られた仕事しかやっておらず、仕事も楽しいとは思えなかった。「年齢が離れていたので、上司から気を遣って話しかけられたくないし、正直話したくもないと思っていました」(三井氏)。
「受け身な姿勢」「話しかけづらい」「飲み会行きたくない」。これが数年前の三井氏だった。「正直、最近の若者ってだいたいこんなイメージありませんか?」と会場に語りかける。キャリアビジョンややりがいも見えなかった当時の三井氏は、実際に転職まで考えていたという。
そんな三井氏の当時の仕事の1つが、申請書の管理。「紙も、Excelもあり、運用も統一されていない状態だった。受付や管理も非効率でした」(三井氏)。業務の課題としては、印刷する紙が多過ぎ、関数やマクロが多すぎ、マクロ開発者しかコードを読めず、さらにマクロ開発者の定年退職も近づいてきた。
こうした状態から脱却すべく、導入されたのがkintoneだ。担当者の定年退職も迫っているので、期限も決まっている。「ITツールで」「ノーコードで」「スピード作成できる」となると、確かにkintoneになる。「課題だらけの申請書を統一するのが、私に与えられたタスクでした。この頃は定型業務しか与えられていなかったのですが、依頼されたし、やってみるかくらいのそんな軽い気持ちで挑戦してみました」と三井氏は語る。
課題だらけの申請書はあっという間にkintoneに でも利用者は?
実際にアプリを作ってみた三井氏だが、「あんなにやる気なかった僕でも簡単にできちゃったんです」と振り返る。課題だらけの申請書たちは、マクロ開発者の協力の下、あっという間にkintoneに統一されてしまった。
しかし、業務で使うシステムを自ら作ってしまったというテンションの高さで、現場に説明に行ったものの、「kintoneってなに?」「覚えること増やすな」「今ので充分です」など現場からは(予想通り)不満が噴出。「せっかく作ったのに!!!」と三井さんはキレ気味だ。
「kintoneに移行すれば、申請書にまつわるさまざまな課題は解決するのに」と考えていた三井氏。実はここに落とし穴があった。「課題が解決するメリットって、僕ら申請書を管理する部署だけの話なんです。利用者する側にとってみたら、kintoneという新しいツールを覚える工数がかかるだけなんです」と三井氏は語る。
では、利用者にとってうれしいこととはなにか? 実は三井氏も今まで申請書を管理するだけの立場だったので、使う側に思いが向かなかったのだ。「では、どうすればいいか? 聞きに行くしかないんです。コミュニケーションを面倒臭がって、これでええやろみたいな感じで自分本位に作ってしまったこのアプリの課題を解決するために、コミュニケーション不足という自分自身の課題に向き合いました」と三井氏は振り返る。
ここからの成長がすごい。「みんなに困ったことがないかを聞き回った」という三井氏は、今まで見えてなかった利用者側の課題がいろいろ見えてきた。そして「項目数が多い」とか、「入力が面倒」といった声を聞いた三井氏は「だったら任せてください」とkintoneアプリの改善に手を動かす。そして生まれたのは、紙やExcelのときにはなかった「優しい新機能」だった。
まず申請書において不要な項目の整理。必ずしも必要じゃなかった項目を洗い出したところ、なんと100項目以上に上った。確かに多すぎるため、三井氏はユーザーごとに項目を最適化する機能をkintoneに実装し、最小で1項目にまで減らすことができた。「今まで1項目の入力のために、100項目以上が表示されていたんです」(三井氏)。
続いて、入力ミスを減らすための新機能として、不備のある申請をブロックする機能も実装した。ここでは申請内容に不備があると、ポップアップで不備の箇所を教えてくれる。「紙で運用していたら、絶対にこんなことできないです」と三井氏は語る。
利用者に優しいこうしたカスタマイズには、アールスリーインスティテュートのgusuku Customineが用いられている。前述したポップアップに関してはCustomineのGUIから、「何をするか」で「エラーダイアログを表示する」を選択し、「いつするか」で条件を設定していけばOK。kintoneの管理者が、メンテナンスや改善を容易に行なえるという。「管理者、利用者のメリットが重なったときに、導入が受け入れられるんです」(三井氏)。
若手社員が活躍できる機会は少ない だから貢献できると自信になる
結果、この申請書管理アプリは年間の紙の枚数で9000枚、削減時間136時間という効果を挙げることができた。「初めて作ったアプリで、これだけの成果、出せちゃうんです。なにより使ってもらえるとうれしい」と三井氏は語る。
周りからも「君が作ってたの?」とか、「仕事しやすくなったよ」というコメントをもらえるようになった。「こういうコメントって、若手からすると、めちゃくちゃ貢献している実感が沸くんです。なぜなら若手社員って、活躍できる機会がどうしても少ないから。だから、先ほどのような声をかけてもらえると、自分が会社が誰かに貢献できているんだという実感が自信になるんです。自信がつくと、上司や先輩に話しに行くことも恐れないんです」と三井氏は振り返る。
結局、三井氏は「ほかの業務もkintoneでやってほしい!」という声をかけられるようになる。コミュニケーションを面倒くさがっていた三井氏の心境にも大きな変化が現れる。「だって頼られるって、うれしいじゃないですか。自分が誰にも頼られない、必要されてない状態で仕事ってがんばれますか? 楽しいですか? やりがい見つけられますか?。絶対無理でしょ」と三井氏はたたみかける。
こうしてやりがいを得た三井氏は、いろいろな部署でkintoneでさまざまなアプリを作り続けた。現在はExcelの集計業務をどんどんkintone化している。複数のExcelの結合や集計は手間もかかるし、ミスの危険性や属人化のリスクがある。これらの処理をkintoneで自動化したのは、メシウスのkrewDataとの組み合わせだ。
krewDataの自動化設計フローである「krewData曼荼羅」により、今まで1日かかっていたことを、たった1クリックで終わるようにした。三井氏は集計にとどまらず、報告までを自動化。元データがあれば、集計から報告まで、すべてkintoneで完結できる状態にまで持っていったわけだ。
結果、自分が属人化 相談した上司が提案してくれたアイデアは?
ここまで聞けば、三井氏のkintoneスキルが当初に比べて圧倒的に向上していることは理解できる。次はどの部署の業務改善を進めようかと息巻いていたとき、ふと感じたのは自分が属人化しているということ。「先ほどの自動化ロジックは、すでに私しかメンテナンスできません。そうです。ここに来て私自身が属人化していることに気がついたのです」(三井氏)。
実は三井氏は工場勤務。モノづくりに関する申請管理や工場採算の集計、分析などを担当している。「そんな状態の僕が各部署のアプリをメンテナンスし続けるのって、かなり厳しくなってしまいます」と三井氏。すぐさま上司に相談したところ、返ってきたのは若手中心にkintone推進チームを作ろうという提案だ。
なぜ若手中心なのか? 上司は、「最初はコミュニケーションを避けていた君が、今では自分から各部署に足を運んで仕事をしている。ほかの若手社員にも同じように活躍してほしいから」と言ってくれた。「これを聞いて僕は、kintoneやっててよかったと思いました。それとともに、周りの人からあこがれてもらえるような社員になろうという自覚も生まれました」と三井氏。
こうして去年までは三井氏の1人でやっていたkintoneでの業務改善は、各部署から来た若手でチームを組んでやることになった。三井氏が最初にチャレンジし、多くの知識を得ることができたペーパーレスからまずはスタート。各部署のkintoneアプリを、各部署の若手がきちんとメンテナンスできるようになれば、それは属人化からの解消につながるだろうということで、若手でワイワイ仕事をしているという。
やりがいを見いだせず、転職まで考えていた三井氏だが、kintoneで業務に貢献したことで、自信につながり、その自信がコミュニケーションを避けていた三井氏につながりをくれた。そしてそのつながりによって、みんなから頼られるようになり、仕事の楽しさややりがいにつながっていた。
「若手社員って、なかなかこういった経験を得られる機会は少ないです。僕はkintoneを通して、この経験を得ることができました。ちょっとした一歩目でいいんです。その一歩がやりがいへとつながる大きな一歩なんだと思います。悩んでいる若手社員や若手社員との接し方に悩んでいる人たちに、僕の感じたことが伝われば、みなさんの前にこうして立たせてもらってよかった」と三井氏は最後にコメントした。
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