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「Ryzen 9 9950X」「Ryzen 9 9900X」は“約束された”最強のCPUになれたのか? ベンチマークで見えた利点と欠点

2024年08月14日 22時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集●北村/ASCII

 2024年8月14日、AMDはSocket AM5向けCPU「Ryzen 9000シリーズ」の最上位モデル「Ryzen 9 9950X」および「Ryzen 9 9900X」の販売をグローバル市場において解禁した。国内における発売日は8月23日午前11時、予想価格はRyzen 9 9950Xが税込約11万9800円、Ryzen 9 9900Xは約8万8800円である。

Ryzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900X。パッケージの形状は既存のSocket AM5向けRyzenと変わっていない。今回お借りした個体もヒートスプレッダーの左上に円状の刻印が入っていた

 先日国内販売が解禁された「Ryzen 7 9700X」および「Ryzen 5 9600X」の初値はおおよそ1ドルあたり196円換算であったことを考慮すると、北米予想価格が649ドル(Ryzen 9 9950X)、499ドル(同9900X)に対する今回の価格設定は、8月に入って急激に変化した為替の内容を反映したようだ(約177~184円換算)。

 そして販売が遅れたのは数の確保が難しいと考えることもできるが、価格絡みの調整もあるのではないか、と筆者は推測している。Ryzen 9 9950Xに関しては前世代の7950Xの初出価格とほぼ同じである一方、9900Xに関しては7900Xよりも安めの設定になっているなど、関係諸氏の奮闘をうかがい知ることができる。

裏面。ランド(電極)の配置もまったく同じだ

 Ryzen 9000シリーズに採用されているZen 5アーキテクチャーは、CPUコア部(CCD:Core Complex Die)に従来よりも微細化された4nmプロセスを採用しただけでなく、IPCを引き上げるための改良を数多く施した。Ryzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xのパフォーマンスは前編のレビューにある通り、Ryzen 7000シリーズに比してパフォーマンスが大差ない点もあるものの、シングルスレッド性能においては前世代に明確な差をつけ、さらにCPU温度や消費電力おいて前世代を大きく下周り、扱いやすいCPUに仕上がった。

 発熱や消費電力低下の秘密は前世代よりもTDPが抑えられているためだが、今回発売されるRyzen 9の2モデルはTDPがより高く設定されている。特に前世代の「Ryzen 9 7950X」と、今世代のRyzen 9 9950Xというフラッグシップモデルにおいてはコア数・TDPともに同スペックであるため、これが事実上のZen 4対Zen 5のパウンド・フォー・パウンドの戦いといっていいだろう。

 筆者は幸運にもAMDよりRyzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xのサンプルをお借りし、検証できた。今回も前編、後編の2部構成でお届けする。

TDPを盛ることで電力よりもパフォーマンスを優先させる

 Ryzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xの物理コア数は16基ないし12基。Zen 5になってもCCDあたりのコア数は8基であるため、Ryzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xでは、4nmプロセスのCCD×2基と6nmプロセスのIODで構成される。つまり処理によっては“必要な情報がCCDをまたぐ”可能性があり、それが発生する場合はパフォーマンス的に大きなペナルティーを受ける。この点はチップレット構造を採用したRyzen共通の弱点といえる。

Ryzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xと、その近傍の製品とのスペック比較
  Ryzen 9 9950X Ryzen 9 7950X Ryzen 9 9900X Ryzen 9 7900X
アーキテクチャー Zen 5 (4nm+6nm) Zen 4 (5nm+6nm) Zen 5 (4nm+6nm) Zen 4 (5nm+6nm)
コア/スレッド 16 / 32 16 / 32 12 / 24 12 / 24
ベースクロック 4.3GHz 4.5GHz 4.4GHz 4.7GHz
ブーストクロック 5.7Hz 5.7GHz 5.6GHz 5.6GHz
L2キャッシュ 16MB 16MB 12MB 12MB
L3キャッシュ 64MB 64MB 64MB 64MB
対応メモリー DDR5-5600 DDR5-5200 DDR5-5600 DDR5-5200
TDP 170W 170W 120W 170W
内蔵GPU Radeon Graphics Radeon Graphics Radeon Graphics Radeon Graphics
対応ソケット AM5 AM5 AM5 AM5
CPUクーラー なし なし なし なし
初出時税込価格 ¥119,800 ¥117,800 ¥88,800 ¥92,500

 動作クロックに関しては最大ブーストクロックを動かさず、ベースクロックを前世代より100ないし300MHz下げている。Zen 5採用によりコアの処理性能が向上したため、ブーストクロックを上げなくても性能上昇が見込めるためだ。

 今回発売の2モデルのTDPは、Ryzen 9 9950Xが170W(前世代と同じ)、Ryzen 9 9900Xが120W(前世代より50W低下)に設定されている。すでに発売済みのRyzen 9000シリーズはメインストリームCPUにしては非常に低発熱なCPUに仕上がったが、今回の2モデルはCPU温度がもっと高くなる可能性がある。

 AMDはRyzn 5および7については“高性能な”空冷クーラーもしくはAIO水冷の使用を推奨していた一方で、今回のRyzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900XについてはどちらもAIO水冷の使用を推奨している。

Ryzen 9 9950Xの情報:「CPU-Z」で取得。L1データキャッシュが48KBであることがZen 5の特徴のひとつ

Ryzenn 9 9900Xの情報:コア数が12基なのでコアに紐付くL2キャッシュは搭載量が異なるが、L3キャッシュの搭載量は9950Xと同じ

 Ryzen 9 9950X/ 9900Xを使用するための要件はRyzen 7 9700XやRyzen 5 9600Xのそれと変わりはない。すなわち動作にはAGESA 1.2.0.0A準拠のBIOSが必要だが、パフォーマンスを十分に引き出すためにはAGESA 1.2.0.0A Patch A準拠のBIOSが望ましい。すでに各マザーメーカーの最新BIOSはPatch A準拠のものになっている(はず)ので、最新のものに更新すれば問題ないはずだ。

 今回のレビュープログラムにおいて、2CCD構成のRyzen 9はチップセットドライバーのセットアップが不完全な場合は、CPUの性能十全に引き出せないので注意されよという通達がAMDより寄せられた。

 RyzenのチップセットドライバーにはRyzenに最適な電源プランをWindowsに展開する“PPM (Power Profile Management) Provisioning File Driver”が含まれており、これがマルチCCD構成のRyzenのパフォーマンスにおいて重要な役目を担っている。CPUを単に載せ替えただけでは、この電源プランが上手く機能しないことがあるからだ。

 特にCCDの数が変化する変更(特にRyzen 5/ 7→Ryzen 9のような場合)においては、CPU換装後に正しく意図した動作にならない可能性があるという。

 この問題の解決法はAMDのチップセットドライバーを一度削除してから再インストールで対処できるが、AMDによれば不確実性を排除したければWindowsのクリーンインストールが理想的だという。チップセットドライバーをアンインストールしてから再インストールでも大丈夫(これで筆者は不具合を体験したことはない)が、アンインストール後に「Revo Uninstaller」のようなツールでドライバーの残滓を削除し、その後チップセットドライバーを再インストールすればより盤石となろう(ただし使用は自己責任で)。

AMDのチップセットドライバーに含まれるPPM Provisioning File Driverは、Ryzenのパフォーマンスを最大減に引き出す電源プランを導入するためのものだ。このプロセスが不完全だとコアの利用が最適化されない恐れがある

 チップセットドライバーを再インストールした後は、Power Profile Managementファイルがシステムに確実に適用されるために15~30分程度アイドル状態で放置するといいだろう。漠然としすぎていてよく分からない、という場合は管理者権限で起動したコマンドプロンプト(cmd.exe)に以下のコマンドを入力すれば強制的にアイドル状態で放置となる。

start /wait Rundll32.exe advapi32.dll, ProcessIdleTasks

PPM Provisioning File Driverのセットアップを確実に終わらせる方法。管理者権限でcmd.exeを起動し、上のコマンドを入力して実行する(上の文字列をコピーしたら右クリックでペーストできる)。CPUにもよるが短くて15分程度、最大30分程度でプロンプトが復活したら“おなじない”は完了だ

 このコマンドはどこかで見たような……と感じた方もいると思うが、これはRyzen 9 7950X3Dや7900X3Dで正しくコアの使い分けをさせるための“おまじない”と同じである(参考記事:3D V-Cache搭載「Ryzen 9 7950X3D」はゲーミングCPUの最高峰に輝くのか?【前編】)。X3Dシリーズと異なるのは3D V-Cache Perfomance Optimizerの存在だけで、CCDまたぎを発生させないようにコアを上手く使うという機能については、3D V-Cacheの存在にかかわらず共通なのだ。

 さらに細かいことを言えば、電源プランは“バランス”、かつWindows設定のゲームモードも有効にしておくこともポイントになっているが、このあたりはデフォルト設定のままでいい。要は「電源プランとゲームモードはデフォルトが一番。最新のチップセットドライバーをインストールして再起動したら30分程度電源オンのまま放置しろ」ということである。


DDR5-6000のパフォーマンスもチェックする

 今回の検証環境は、前回Ryzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xのレビュー時の検証環境とデータをほぼそのまま継承している。すなわち発売済みのRyzen 9000シリーズを筆頭に、Ryzen 7000/ 7000X3Dシリーズの7モデル、Coreプロセッサー(第14世代)のK付きの3モデルを比較対象とした。

 本レビューに際し、CPUの性能を最大限発揮させるためにメモリーはEXPOのDDR5-6000「で」検証せよ、というレギュレーションがAMDより課せられた。筆者はCPUのファーストレビューではメモリーのクロックはそのCPUの「定格かつ最大クロック」で統一してきた。それが一番フェアだからである。

 そこでRyzen 9000シリーズに関しては、他のCPUの環境と合わせたモジュール(DDR5-5600動作)でのパフォーマンスに加え、DDR5-6000のオーバークロックモジュールを使用した際のパフォーマンス(グラフでは“(6000)”と表記)も計測した。ただDDR5-5600の計測とDDR-6000の計測はメモリーモジュールが異なるため、やや中途半端な検証となってしまったことをお詫びしたい。時間的制約と整合性確保のための苦渋の選択である点はご承知おきいただきたい。

 そしてインテルのCoreプロセッサーに関してだが、不安定問題への結論と言うべきマイクロコード“0x129”をベースにしたBIOSがリリースされたが、前回レビューのデータを流用する関係で0x125、つまりeTVBのバグを解消したBIOSで検証している。そしてPower Limit設定はPerformance Power Delivery Profileに統一。これはCore i7およびCore i9はPL1=PL2=253WかつICCmax=307A、Core i5はPL1=PL2=181WかつICCmax=200Aの設定である、ただしそれ以外、Tauなどの設定はマザーのデフォルト値としている。

 検証にあたり、Secure Boot/ Resizable BAR、メモリー整合性やHDRといった設定は一通り有効としている。GPUドライバーはRadeon Software 24.7.1を使用した。

AMDテスト環境
CPU AMD「Ryzen 9 9950X」(16C32T、最大5.7GHz)
AMD「Ryzen 9 9900X」(12C24T、最大5.6GHz)
AMD「Ryzen 7 9700X」 (16C32T、最大5.7GHz)
AMD「Ryzen 5 9600X 」(12C/24T、最大5.6GHz)
AMD「Ryzen 7 9700X 」(8C16T、最大5.5GHz)
AMD「Ryzen 5 9600X 」(6C/12T、最大5.4GHz)
AMD「Ryzen 9 7950X3D」 (16C/32T、最大5.7GHz)
AMD「Ryzen 9 7900X3D」 (12C/24T、最大5.6GHz)
AMD「Ryzen 7 7800X3D 」(8C/16T、最大5GHz)
AMD「Ryzen 9 7950X 」(16C/32T、最大5.7GHz)
AMD「Ryzen 9 7900X 」(12C/24T、最大5.6GHz)
AMD「Ryzen 7 7700X 」(8C/16T、最大5.4GHz)
AMD「Ryzen 5 7600X 」(6C/12T、最大5.3GHz)
CPUクーラー NZXT「Kraken Elite 360 」(AIO、360mmラジエーター)
マザーボード ASRock「X670E Taichi 」(AMD X670E、BIOS 3.06)
メモリー Micron「CP2K16G56C46U5 」(16GB×2、DDR5-5200/ DDR5-5600)
G.Skill「F5-6400J3239G16GX2-TZ5NR」(16GB×2、DDR5-6000動作、Ryzen 9000シリーズのDDR5-6000環境でのみ使用)
ビデオカード AMD「Radeon RX 7900 XTX リファレンスカード」
ストレージ Micron「CT2000T700SSD3」 (2TB、NVMe M.2、PCI Express Gen5)
電源ユニット Super Flower「LEADEX PLATINUM SE 1000W-BK」 (1000W、80PLUS Platinum)
OS Microsoft「Windows 11 Pro」 (23H2)
インテルテスト環境
CPU インテル「Core i9-14900K」 (24C/32T、最大6GHz、Performance Power Delivery Profile)
インテル「Core i7-14700K」 (20C/28T、最大5.6GHz、Performance Power Delivery Profile)
インテル「Core i5-14600K」 (14C/20T、最大5.3GHz、Performance Power Delivery Profile)
CPUクーラー NZXT「Kraken Elite 360 」(AIO、360mmラジエーター)
マザーボード ASRock「Z790 Nova WiFi 」(インテル Z790、BIOS 6.01)
メモリー Micron「CP2K16G56C46U5 」(16GB×2、DDR5-5600)
ビデオカード AMD「Radeon RX 7900 XTX リファレンスカード」
ストレージ Micron「CT2000T700SSD3 」(2TB、NVMe M.2、PCI Express Gen5)
電源ユニット Super Flower「LEADEX PLATINUM SE 1000W-BK」 (1000W、80PLUS Platinum)
OS Microsoft「Windows 11 Pro」 (23H2)

シングルスレッドは伸びたが、マルチスレッドは伸び悩む

 今回も定番「CINEBENCH 2024」のスコアー比べから検証をスタートする。デフォルトの10分間のプレヒートを経てスコアーを出すモードを使用している。

CINEBENCH 2024:スコアー

 前世代のフラッグシップであるRyzen 9 7950Xは確かに高スコアーを出していたが、大幅に電力制限をかけたCore i9-14900Kに大きく水を空けられてしまった。しかし今世代のフラッグシップモデルRyzen 9 9950Xは7950Xを3%程度(メモリー定格の場合)上回った。

 事前の発表ではZen 4→Zen 5のIPCは10%以上向上とされているのに、マルチスレッド性能の伸びは非常に小さい。インテル勢のように電力を盛りまくるスタイルではないがゆえに、TDPの制約を強く受けるマルチスレッドテストでは、スコアーが伸びないのは想像通りといえる。

 しかしメモリーをDDR5-6000とすることでCore i9-14900Kを一応上回ることができた(この結果からAMDがDDR5-6000をレギュレーションに含めた理由が分かった気がする)。

 シングルスレッドのスコアーに関しては、発売済みのRyzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xを4ポイント程度ではあるがRyzen 9 9950Xや9900Xが上回り、高TDPモデルの風格を見せつけるとともに、インテル勢に対しても定格のDDR5-5600でも上回るというデータを示した。

 とはいえ、Ryzen 9 9900XはDDR5-6000を使用してもなおCore i7-14700Kのマルチスレッド性能を越えられないなど、TDPが120Wに抑えられているがゆえのハンデも感じられた。

 続いては「Blender Benchmark」「V-Ray Benchmark」もテストする。いずれのベンチマークもCPUだけでレンダリングした場合のスコアーで比較した。

Blender Benchmark:CPUを利用したレンダリング時のスコアー。Blenderのバージョンは4.2.0を使用

V-Ray Benchmark:CPU V-Rayのスコアー

 CINEBENCH 2024ではインテル勢がまだいけそうな雰囲気があったが、BlenderではRyzen 9 9950Xの完全勝利といったところか。Core i9-14900Kに対してはおおよそ20%程度の差をつけ、同時にRyzen 9 7950Xに対しても10%程度上回るなど、新アーキテクチャーの強さがよく分かる結果となった。ただメモリーをDDR5-6000にしても大してスコアーは上がらないどころか、下位のRyzen 7 9700Xなどは微妙にスコアーが下がってしまっているなど、高クロックメモリーの効果がない場合もあることも分かっただろう。

 V-Rayに関してもBlenderと傾向は変わっていない。ここではRyzen 9900XがCore i7-14700Kを抜き去るどころかRyzen 9 7950Xのすぐ後ろに付けている。そしてここでも、DDR5-6000が効果を見せるのはRyzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xだけで、Ryzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xの場合はかえってマイナス気味になっている。

 ここまで見てきた3本のベンチマークはどれもマルチスレッド性能が命のCGレンダリング系なのに、なぜCINEBENCH 2024ではRyzen 9 9950Xや9900Xのスコアーが微妙になったのか? それはCINEBENCH 2024では1周が長い上にそれを最低10分続けてから平均値をとるテストなのに対し、Blender BenchmarkもV-Ray Benchmarkも比較的短時間で終わるテストだからだと筆者は推測する。

 長時間だと熱や電力制限に頭を押さえつけられてしまうためスコアーが伸びず、短時間だと制限を受けにくいというのが“理由のひとつ”として考えられる。


TDPが上昇したぶん、消費電力も大きく増えた

 続いては「Handbrake」による動画のエンコード時間比較だ。4K@60fps、再生時間は約3分の動画を用意し、これをHandbrakeのプリセットである“Super HQ 1080p30 Surround”と“Super HQ 2160p60 4K HEVC Surround”でエンコードする時間を計測した。エンコード処理はCPU側だけで処理し、メインストリームCPUだと処理に3分以上はかかるため、CINEBENCH 2024に近い傾向になると予想される。

Handbrake:2種類のプリセットを利用したエンコード時間

 予想通りCINEBENCHのグラフを反転させたような傾向になったが、H.265(Super HQ 2160p60 4K HEVC Surround)では、Ryzen 9 9950XはDDR5-5600でもCore i9-14900Kを上回る処理速度を発揮。Ryzen 9 9900XもCore i7-14700Kを僅差でかわした(Core i9-14900KとCore i7-14700Kの差がないのは、電力制限の影響が強いためだと思われる)。

 Ryzen 9000シリーズの上位モデルはDDR5-6000にするとわずかではあるが性能が伸びるのに対し、Ryzen 7 9700X以下の2モデルでは逆に処理時間が延びてしまう(確信が持てるまでOSのクリーンインストールも含め時間をだいぶ無駄にした)。この対比が非常に興味深い。

 メモリークロックを上げることでIODの消費電力が上がり、その結果としてCCD側が使える電力が減らされたためと考えられる。逆にTDPに余裕のあるRyzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xでは、IODの消費電力が少々上がってもさほど影響はない……という理屈だ。

 このHandbrakeでSuper HQ 1080p30 Surroundを使用したエンコード処理中に、どの程度の電力が消費されているかをHWBusters「Powenetics v2」を利用して実測してみよう。システム全体の消費電力(ATX+EPS12V×2+PCIe 8ピン×2+PCIe x16スロットの合計値)と、CPUだけの消費電力(ESP12V×2)を比較する。

 このグラフでは高負荷時のデータは3種類あるが、これらはエンコード中に消費された電力の平均値/ 99パーセンタイル値(99%Tileと表記)/ 最大値である。また、アイドル時はアイドル状態だが3分間計測した平均値だけを示している。

システム全体の消費電力

CPUの消費電力

 Ryzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xの場合はTDPを65Wに絞ったモデルであるため、TDPの高い前世代よりも消費電力が目に見えて下がった。しかし今回のRyzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xの場合はTDPが170Wと120Wと大きいため、既存のモデルに比べ省電力になった、という印象はない。それどころかRyzen 9 9950Xの場合、同じTDP設定の7950Xよりも平均値で21W、99パーセンタイル値でも26W上昇した。

 Ryzen 9 9900XはTDPが120Wとやや絞られているモデルだが、TDP 170W設定の7900Xとほぼ同程度の消費電力になった。そしてDDR5-6000使用時は消費電力がわずかに上昇するが、特にアイドル時の消費電力増加が顕著だ。

 先のHandbrakeでエンコードしている裏でCPUのクロックや温度、Package Powerといったデータはどう変動するのか? 「HWiNFO Pro」を利用し追跡した。

CPUクロックの推移:Ryzen 9 9900Xと7900Xのデータ。全コアの平均値

CPUクロックの推移:Ryzen 9 9950Xと7950Xのデータ。全コアの平均値

 前回Ryzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xの検証を行なった際も、Ryzen 9000シリーズは7000シリーズの同格モデルに比してクロックが下がる傾向が観測できたが、これは上位モデルでも同じである、ということが分かる。TDPが前世代と同じRyzen 9 9950Xにおいても、7950Xより200MHz程度低いが、9950XにDDR5-6000を組み合わせた場合はさらに下がるが、下げ幅は100MHzにも満たない。

 一方Ryzen 9 9900Xと7900Xに関しては、動作クロックはほぼ差がない。こちらにおいてもRyzen 9 9900XとDDR5-6000の組み合わせにおいて、9950Xと同様にクロックが下がっていることが認められたが、同様に誤差程度の落差にとどめている。

CPU温度 (Tctl/ Tdie)の推移:Ryzen 9 9900Xと7900Xのデータ

CPU温度 (Tctl/ Tdie)の推移:Ryzen 9 9950Xと7950Xのデータ


Zen 5アーキテクチャーの電力制御のすごさとワットパフォーマンスの高さに驚かされる

 次はCPU温度 (Tctl/ Tdie)の推移だが、TDPが170WのRyzen 9 9950Xの場合、最終的に7950Xと同じ95度あたりまで上昇し頭打ちになる。DDR5-6000を組み合わせた場合でも温度の傾向はDDR5-5600時と大差ない。

 一方TDPを120Wに絞ったRyzen 9 9900Xは170Wの7900Xに比べ10度近く低い温度で安定した。パフォーマンスは前世代と同等以上でも温度が低く扱いやすい、というRyzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xと同じくくりで考えられるだろう。

CPU Package Powerの推移:Ryzen 9 9900Xと7900Xのデータ

CPU Package Powerの推移:Ryzen 9 9950Xと7950Xのデータ

 そしてCPU Package Powerの推移に目を移すと、Ryzen 9 9950Xは200W、9900Xは162Wあたりでビタッと安定する。DDR-6000を使用していてもその傾向はほぼ変わらない。

 これに対しRyzen 7000シリーズのデータは変動が激しいが、特にRyzen 9 7950Xのデータに注目。CPUのクロックや温度はRyzen 9 9950Xよりも高い一方で、CPU Package Powerだけは9950Xよりも低い。Ryzen 9 9950Xは7950Xよりも効率的に電力を受け取りつつも、それを無駄に熱に転化させず処理を実行したことになる。

 一方Ryzen 9 9900XのCPU Package Powerは7950Xとほぼ同程度だが、わずかに7900Xの方が上だった。TDP 170WのRyzen 9 7900Xの場合CPU温度が95度の壁に頭をぶつけてしまうため、それを回避するためにパワーを絞っている状態である。しかしRyzen 9 9900XはTDP 120Wの枠内を使い切りながらも、ソケットから受け取る電力は7900Xよりも小さい。

 Ryzen 9 9950Xのデータも含めると、改めてZen 5アーキテクチャーの電力制御のすごさとワットパフォーマンスの高さに驚かされる。ただ少々絞りすぎて、前世代との性能差が見えづらい部分もあることは確かだ。

 最後にDDR5-5600とDDR5-6000使用時において、メモリーコントローラーの消費電力はどう変化するのか? Ryzenのメモリーコントローラーだけの消費電力は見ることができないが、それが置かれているIODの消費電力なら、SoC Powerとして追跡できる。

CPU Package Powerの推移:Ryzen 9 9950Xのデータ

CPU Package Powerの推移:Ryzen 9 9900Xのデータ

 RyzenのIODの消費電力はメモリーのクロックをDDR5-5600から6000に変更するだけで5W程度上昇する。Ryzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xにおいて、DDR5-6000使用時にエンコード速度が落ちてしまう原因は、CPUに回すはずだった電力をSoCが奪ってしまったから、ということになる。


オフィス&クリエイティブ系アプリではCCDの数がスコアーに影響
CCDを1基しか持たないRyzen 7 9700Xが有利

 ここから先はオフィス&クリエイティブ系アプリのパフォーマンス比較を行なう。まずは「UL Procyon」の“Office Productivity Benchmark”、すなわち「Office 365」をインストールした環境で、「Word」「Excel」「PowerPoint」「Outlook」を実際に動かし、さまざまな作業を行なった際の処理時間をスコアー化するテストだ。シングルコア性能に優れたRyzen 9000シリーズでスコアーの伸びが期待されるテストである。

UL Procyon:Office Productivity Benchmarkのスコアー

UL Procyon:Office Productivity Benchmarkのテスト別スコアー

 TDPの高いRyzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xのスコアーが高くなりそうなテストだが、実際はRyzen 7 9700Xを越えることはできなかった。Ryzen 9 9900Xより9950Xの方がわずかにスコアーが伸び、DDR5-6000を使用することでの差がさらに拡大する。

 それでもDDR5-5600を使用したRyzen 7 9700Xを越えられない理由は、CCDを1基しか持たないRyzen 7 9700Xの設計が、こういう処理には特に効くからであろう。

 テスト別のスコアーを見ると、Ryzen 7 9700XのWordが高スコアーを叩き出しているが、Ryzen 9 9950XやRyzen 9 9900Xでは伸び悩んでいる。ExcelやPowerPointにおいてはコア数の多いRyzen 9 9950Xが高いスコアーを出してはいるが、逆にところどころでRyzen 7 9700Xに負けている面もあり、コア数が多いからといって簡単には勝てないことが分かる。

 この点はCCDあたりのコア数の仕様や、OSのスケジューラーがどのコアにどう処理を振るか(PPM Provisioning File Driverも関係する)という部分に絡んでくるので、Ryzen特有のCCDをまたぐと性能が出ない問題も考慮する必要があるだろう。

 続いては「Photoshop」および「Lightroom Classic」を利用した“Photo Editing Benchmark”で検証する。

UL Procyon:Photo Editing Benchmarkのスコアー

UL Procyon:Photo Editing Benchmarkのテスト別スコアー

 まず総合スコアーで堂々のトップを勝ち取ったのはRyzen 9 9950XとDDR5-6000の組み合わせ。DDR5-5600使用時はRyzen 7 9700Xを上回るが微々たるものだ。Ryzen 9 9900XはDDR5-5600だとRyzen 5 7600Xに毛が生えたようなものだが、DDR5-6000を組み合わせることによりRyzen 7 9700Xと肩を並べる。

 Ryzen 7000シリーズの場合コア数と総合スコアーは普通に連動しているので、Ryzen 9000シリーズではCCDまたぎが出た時のペナルティーがより強く出ているのではないかと思われる。

 テスト別のスコアーを見ると、Image Retouching(Photoshop)のスコアーは断然Ryzen 7 9700XやRyzen 5 9600Xの方が高く、それはRyzen 7000シリーズでも同傾向。そしてCCDが2基のRyzen 9 9950XやRyzen 9 9900Xではスコアーが出にくい。先ほどの仮説を裏付けるデータが1つ得られた。

 一方Batch Processing(Lightroom Classic)のスコアーはコア数に比例する。DDR5-6000を組み合わせた時のスコアーはDDR5-5600使用時に比して伸びたり伸びなかったりと、メモリークロックが完全な決め手ではないことを示唆している。

 Lightroom Classicではコア数を活かしスコアーを稼いだものの、CCDが2基であるRyzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900XはRyzen 7 9700XにPhotoshopのスコアーに大きく引き離されてしまう、というのがこのベンチにおけるカラクリといったところだ。


AI処理においてもCCDが多い方が不利
Ryzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xの方が軽快に動作する

 前回のRyzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xの検証の際は「Premiere Pro 2024」に実装されている“文字起こし”機能で登壇者の会話をAIで分析する時間を計測した。今回もデータを取得したが、前回と今回の間になにかが変わったのか、信頼性が疑われるデータが得られたのでので今回は省略する。

 ただそこで作成された文字データ(これはすべて同じもの)を字幕トラックとして作成する時間を計測した。再生時間約1時間半、登壇者は4人でほぼずっとしゃべり続けたような動画の字幕作成に要する時間である。

Premiere Pro 2024:文字起こし後に字幕トラックを作成するのに要した時間(3回の平均値)

 この処理においてはCCDが多い方が不利で、CCDが1基しかないRyzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xの方が軽快に動作する。これはRyzen 7000シリーズでも共通だ。しかし新旧Ryzen 9というくくりで見ると設計が新しいRyzen 9の方がせいぜい3秒程度ではあるが処理時間が短縮されている。Zen 5でIPC向上を果たした結果は出せているが、こういう細かい作業で発生するRyzen特有の弱点は、まだ改善されていないことが分かる。

 ここで再びUL Procyonを使用し、AIによる推論性能を比較である“AI Computer Vision Benchmark”で検証してみよう。ここではMobileNetやInception、Real-ESRGANといった画像処理系の処理性能を検証する。現実ではGPUで処理されることの多い処理ではあるが、CPUを利用して推論を実行させた。精度はFP32、APIはWindows MLを選択した。

UL Procyon:AI Computer Vision Benchmarkのスコアー

UL Procyon:AI Computer Vision Benchmarkのテスト別スコアーその1

UL Procyon:AI Computer Vision Benchmarkのテスト別スコアーその2

 総合スコアーではギリギリRyzen 9 9950Xがトップを獲得したが、前回の検証におけるトップRyzen 7 9700Xとの差はあまりにも小さい。その内訳を推論回数で見ると、Ryzen 7 9700Xのスコアーを押し上げたMobileNet V3では、2CCD構成のRyzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xでは半分程度のスコアーしか出ていない。

 検証環境はCPUごとに環境をクリーンインストールしているので、PPM Provisioning File Driverの不具合は排除される。つまりRyzenが抱えるコアトポロジーの問題が残る。

 ただYOLO V3のようにRyzen 9 7950Xを9950Xが圧倒しているテストもあるなど、新フラッグシップならではの強みを発揮できた結果も残されている。ただMobileNet V3やDeepLab v3のようにコア数が関係しない・構造が肝になるテストのおかげで、総合的にRyzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xは微妙という評価になってしまう。構造に癖のあるRyzen 9を使う場合は、向く作業・不向きな作業をキッチリと見極める必要があるのだ。

 最後はCPUによる差がまったくでないAIの例として、UL Procyonの“AI Image Generation Benchmark”で検証しよう。Stable Diffusionのバージョンは1.5とし、GPUがRadeon環境なのでAPIは“ONNX”を選択した。

UL Procyon:AI Image Generation Benchmarkのスコアー

UL Procyon:AI Image Generation Benchmarkにおけるイメージ1枚あたりの生成時間

 Stable DiffusionはGPUで処理をするのだから、CPUを強化しも生成速度の向上は期待できない。コア数やTDPが増えたところで、AI Image Generation Benchmarkのセットアップの中では時間短縮は期待できない。

ゲームのパフォーマンス検証は後編にて

 以上で前編の検証は終了だ。使っていて少々アレ? と思う点が少々あった(特にDDR5-6000の性能など)が、全体としてはRyzen 9 9950XはRyzenの新フラッグシップと言っていい性能を発揮するが、ただ処理によってはその差が見えづらいこともある。これはRyzen 9 9900Xについても同様だ。

 その一方でフルロード時の消費電力増など、フラッグシップモデルならではの欠点も継承されていることを確認した。Ryzen 7 9700Xは超低発熱&ワットパフォーマンス良好という評価で間違いはないが、Ryzen 9 9950Xはやや大飯食らい寄りのチューニングになっている。しかしCPU温度やPackage Powerの傾向などを見ると、確かに世代が進んだことを確認できた。

 後編はゲームによる検証となる。おたのしみに。

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