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【後編】東映アニメーション 平山理志プロデューサーインタビュー

辞職覚悟の挑戦だった『ガールズバンドクライ』 ヒットへの道筋を平山Pに聞いた

2024年08月04日 15時00分更新

オリジナル作品を尊ぶ気風で育った平山P
「全権を渡すから、3回打席に立たせてやる」

―― 平山さんはオリジナルアニメの制作に大きな情熱を持っていらっしゃいますが、何かきっかけなどはあるのでしょうか?

平山 僕はサンライズ出身で、昔から「オリジナルをヒットさせて一人前」という気風のなかにいました。

 もちろん原作ものも作りますが、もしチャンスがあればオリジナルを作るチャレンジをするのです。サンライズは創業当初からずっとオリジナル作品メインで勝負している会社ですから。

 当時サンライズでプロデューサーをやりたい人は、「全権を渡すから、3回打席に立たせてやる」と言われました。3回のうち1回ヒットすれば、また打席に出られる。でも3回続けて失敗したら才能がないから辞めたほうが良い、と。

 『ガールズバンドクライ』も、CG開発でお金をたくさん使うことになるので、ヒットしなかったら、自分は才能がなかったということなので、責任を取って会社を辞める覚悟でした。

―― なんと。会社に所属している方は、ヒットしてもしなくても会社に居られるものだと思っていました。

平山 僕が在籍していた頃のサンライズは、制作はみんな業務委託でした。僕も執行役員までやりましたけれど、やはり業務委託なので毎年契約を更新するわけです。ヒットしなかったら終わりなので、たとえプロデューサーでも個人事業主であることに変わりはありません。

 会社から仕事は来ません。仕事は自分で作れという世界なので、自分のスタジオを維持したければ自分で企画を通して、制作して、ヒットさせて、スタジオの安定経営を図るしかないのです。ヒットに貪欲にならざるを得ない環境でした。

 東映アニメーションに来てもそれは変わらず「オリジナルを作ってヒットさせなきゃ」と思いましたね。

東映アニメーションはチャレンジ歓迎な会社
挑戦には「お金」と「技術力」と「理解ある協力者」が要る

―― 東映アニメーションも、2019年に入社したばかりの平山さんに、新機軸の3DCG開発費を含めかなりの制作費を預けてオリジナル作品を要望しました。チャレンジングな会社ですね。

平山 東映アニメーション自体が前例のないものを作り続けている会社ですから。チャレンジできる環境を用意していただいたのがありがたかったです。

イラストルックの3DCGアニメとして大ヒットした映画『THE FIRST SLAM DUNK』。まるで井上雄彦氏の絵がそのまま動いているような映像に注目が集まった。東映アニメーションのチャレンジングな気風をあらわす大ヒット作だ

―― 「チャレンジできる環境」というのはどんなものでしたか?

平山 チャレンジというのは「覚悟」だけあっても成功しません。「環境」も大事で、具体的には、まずある程度資金に余裕がないと挑戦しづらい。また、ある一定水準の技術力も必要です。それから、そのチャレンジを理解して協力してくださる方が大事です。「環境」とは資金と技術力と協力者のことで、この3つの要素が大事だと思います。

 CGに興味を持っている僕に、「CGでやろう」と言ってくださったのが氷見武士製作部長(現・映像事業部長、製作部副本部長)。今から20年以上前にCG部門をゼロから立ち上げ、イラストルックの『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』『THE FIRST SLAM DUNK』を成功に導いた立役者です。

 僕が「イラストルックでやりたい」と言ったときも、氷見製作部長は「今後の未来を考えれば、こっちの道に挑戦するべきだ」と、一緒に腹をくくるかたちで賛成してくれました。

 その上司に北﨑広実製作本部長がいて、この方も最初から「オリジナルをやろう。新しいことをやっていかなくちゃいけない」と背中を押してもらいました。北﨑さんは数年前に退任されましたが、後任の山田製作本部長も、「会社としてもオリジナルをやっていくべき」と後押ししてくれています。また、高木社長が当初から後押ししてくださったこともとても大きかったです。

―― 東映アニメーションさんの社風を感じますね。

平山 懐が広いですよね。まったく環境が異なるところにポンと入れられて、いきなり僕1人で全部できるわけありません。それをなんとか作りきることができました。あと3本納品すれば終わるのですが(編註:取材時)氷見製作部長や北﨑製作本部長、山田製作本部長、高木社長が裏で現場と作品を守ってくださったのです。

新たな挑戦が日本のアニメを牽引していく

―― 東映アニメーションにもオリジナル作品を作るメリットがあるのですね。

平山 会社としては自社のIPが持てます。なおかつ技術的にすごいものを作れたら、それも会社の財産になります。

―― 技術も財産なのですね。

平山 技術はノウハウですから、蓄積していくことでさらにすごいものが作れるようなります。ここで勝てれば、日本の3DCGアニメ業界全体が、世界のなかで独特の立ち位置を確立して生き残っていけるのではという目論見もありました。

―― なるほど。最大手の東映アニメーションが新たな路線を開拓すれば、ほかの会社や作品も後に続きやすいと。

平山 業界のリーディングカンパニーとして「こっちに行けばみんなで生き残れるのでは」という目標を指し示すことは大事な役割ですから。

 日本のアニメが世界で生き残るには、新しいことに挑戦していかなければなりません。挑戦していくことを僕は会社や先輩、作品から学んできましたし、自分たちの挑戦もこれからのアニメを切り拓くための一助になることができれば良いですね。

前編はこちら

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