【後編】東映アニメーション 平山理志プロデューサーインタビュー
辞職覚悟の挑戦だった『ガールズバンドクライ』 ヒットへの道筋を平山Pに聞いた
川崎の決め手は、隣に●●があるから!?
―― 住んでいる人も気がついていなかった魅力に、アニメという形でスポットを当てたのですね。
平山 沼津では実在する街を舞台にしたアニメ作品を作っていく上で大きな発見がありました。それは今回の『ガールズバンドクライ』にもつながっています。
お客様は大切なお金を払って遠いところまで来てくれるわけです。そして作品世界を味わって帰っていく。リアルな場所を自分の足で歩いて回ることで、作品をより好きになってくれるのです。
お客様にはキャラクターが「本当に実在する」ように感じてもらえますし、作品とお客様とのつながりも強くなる。実在する風景は作品を強くするのです。
『ガルクラ』でも「地に足をつけたお話にする」というコンセプトや、作品の強度を上げるためにも、実在する風景を使うのが有効な戦略だと思いました。
―― それで『ガルクラ』の舞台が川崎に。
平山 川崎に関しては、街全体の雰囲気がすごく良かったので、僕らが好きな川崎の良いところを描こうと思いました。そして、東京と横浜の間にあるという絶妙な位置関係と、羽田から近いのもポイントでした。
―― ああ、羽田……!
羽田空港と川崎市は多摩川を挟んで隣り合っている
平山 実は多摩川を渡れば羽田空港なのです。外国人観光客も訪れやすいですし、日本各地から飛行機で訪れるときもまず羽田空港に降りますから。
―― 私は地形にピンと来てなかったので、街おこしの良い話だと思って聞いていたら、意外と計算高かった(笑)
平山 お客様に来ていただくのに便利な街はどこかずっと考えていたら川崎はぴったりだったんです(笑)
オリジナルアニメは「認知ゼロ」から始まる
―― CG映像はクリアできた『ガールズバンドクライ』ですが、お客様にはどう届けようと思いましたか?
平山 オリジナルアニメ最大のハードルは、お客様の認知がゼロからスタートするところにあります。まずは作品を知っていただく。そこからファンになって応援していただく関係になる。1クール作品であれば放送している3ヵ月の間にそこまで進めないといけません。
―― 3ヵ月の間にファンにまでなってもらう……。あらためてそのハードルの高さに驚きます。しかもこの2024年春は「神クール」とも呼ばれるほど、人気作品の続編や人気原作のアニメ化が並びました。制作サイド的には激戦区ですよね。
平山 はい。我々もまさかこんな激戦区になるとは思ってもみませんでした。
そんななかでオリジナル作品をヒットさせるためにはさまざまな「仕掛け」が必要です。アニメ放送のずっと前から、弊社宣伝担当の安東と2人でその仕掛けを作っていきました。
こうして1000万再生のMVが誕生した
―― 仕掛けとは、どんなことをされましたか?
平山 TVアニメをスタートにするのではなく、放送前から作品認知度を上げて、なおかつTV放送が始まったときにはテレビ放送で初めて本作品を知ったお客様が作品の公式YouTubeチャンネル内で作品を深掘りできるように映像を沢山用意しました。
作品認知度を上げる映像でも最も強いのはトゲナシトゲアリによるミュージックビデオのYouTube配信です。このなかのMV「爆ぜて咲く」の反響がとりわけ良かったのです。
【【Official Music Video】トゲナシトゲアリ「爆ぜて咲く」 - アニメ「ガールズバンドクライ」】
―― 「爆ぜて咲く」のMVは1000万再生されていてびっくりしました。100万じゃなくて1000万というのは、日本国内の人気アーティストでもなかなか達成できない数字です。
平山 1000万は海外を含めた数字です。インドネシア、タイ、ベトナムをはじめ東南アジアや東アジアを中心に、さまざまな地域の方が視聴してくださっています。
実はTVアニメが放送されるまで、YouTubeの視聴者の6割は海外の方だったのです。TVアニメ放送開始後に国内視聴が増えまして、現在では国内:海外=7:3ぐらいになりました。
―― オリジナルアニメの放送前から海外ファンが6割存在していたのはすごいですね。なぜ海外にアプローチできたのでしょうか?
平山 ミュージックビデオに9ヵ国語分の字幕を付けたところ、各言語地域の方が反応してくださいました。テレビアニメに関してもアジアからの支持は大きいです。
―― 『ガルクラ』のX(Twitter)公式アカウントへのコメントを見ていると、英語を中心にいろんな言語で「アニメを配信してほしい」と書かれていますね。
平山 一刻も早く海外での配信を開始すべく調整を進めていますので、海外のお客様にはもう少しだけお待ちいただければと。お待たせして申し訳ない気持ちでいっぱいです。
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