【後編】東映アニメーション 平山理志プロデューサーインタビュー
辞職覚悟の挑戦だった『ガールズバンドクライ』 ヒットへの道筋を平山Pに聞いた
〈前編はこちら〉
「誰も知らないCGアニメ」をいかに見てもらうか?
今の若者のリアルを反映し、少女たちの自活の苦労や怒りの感情も隠さず描いたバンドアニメ『ガールズバンドクライ』。指揮を執ったのはアニメ『ラブライブ!』を立ち上げた平山理志プロデューサーだ。
本作は東映アニメーション内でもCG技術の進化を期待されたオリジナルTVシリーズ。「CGで誰も見たことがない映像を作りたい」という目標を持った平山氏だが、「イラストルック+フルコマ」という映像づくりの壁は予想以上に高かった。
ようやく映像の完成が見え始めたが、「お客様の認知がゼロの状態」からスタートするオリジナル作品を、1クール(3ヵ月)で人気作品に育て上げる必要がある。仕掛け、環境、覚悟。どれが欠けても成立しなかったプロジェクトを氏に語っていただいた。
『ガールズバンドクライ』ストーリー
高校2年、学校を中退して単身東京で大学を目指すことになった主人公。仲間に裏切られてどうしていいか分からない少女。両親に捨てられて、大都会で一人バイトで食いつないでいる女の子。
この世界はいつも私たちを裏切るけど。
何一つ思い通りにいかないけど。
でも、私たちは何かを好きでいたいから。
自分の居場所がどこかにあると信じているから。
だから、歌う。
STAFF
原作・企画・製作:東映アニメーション、シリーズ構成:花田十輝、音楽プロデューサー:玉井健二(agehasprings)、劇伴音楽:田中ユウスケ(agehasprings)、キャラクターデザイン:手島nari、CGディレクター:鄭 載薫、シリーズディレクター:酒井和男
CAST
井芹仁菜:理名、河原木桃香:夕莉、安和すばる:美怜、海老塚智:凪都、ルパ:朱李
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「イラストルックでフルコマ」なら誰も見たことない映像になる
―― オリジナル作品『ガールズバンドクライ』(以下『ガルクラ』)は「地に足がついている/リアル」を追求して、主人公の仁菜が上京して自活する苦労や、怒りの感情もストレートに描く、そして声優も務めるバンドメンバーをオーディションでゼロから集めるなど、美少女アニメの枠を超えたチャレンジがありました。
平山 映像面でも、誰も見たことがない映像づくりにチャレンジしたいと思っていました。
僕は手描きアニメをずっとやってきたこともあり、3DCGアニメにすごく興味があったのです。今回は、東映アニメーション側からも「CGでやってほしい」というリクエストがあり、両者の希望が一致しました。
―― 結果、独特の映像になりましたね。どういった技術なのでしょうか?
平山 CGの挑戦としては2つありました。1つは「イラストルック」です。
イラストルックとは、東映アニメーションが映画で先行して『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』と『THE FIRST SLAM DUNK』で採用しています。『ガルクラ』ではそのイラストルックをTVシリーズで、かつキャラクターデザインの手島nariさんの絵をそのまま動かして魅力的に見せるべく、イチから技術開発を進めていきました。
もう1つの挑戦は「フルコマ」です。
―― イラストルックかつ、フルコマですか。日本の3DCGアニメって確か……。
平山 はい、日本の3DCGアニメはリミテッドが基本だと思います。キャラクターの動きなどにメリハリを付けたいときに使う手法です。3DCGには作画枚数の制限がないにもかかわらず、日本の3DCGアニメで止め絵的な見せ方になっているのは、これまでの手描き作画に合わせているからです。
でも今回は「3DCGならでは動きの魅力を追求したい」と思い、すべてのコマを動かすことに挑戦することにしました。
イラストルック×フルコマ。この両方を合わせたCGにすれば、誰も見たことのない映像になるだろうという発想からCG開発が始まりました。開発が大変になることは予想していましたが、オリジナルアニメですし、お客様に「こんなの見たことない!」と、新たな映像の魅力を感じてもらいたかったので。
TVアニメ『ガールズバンドクライ』ノンクレジットオープニング|トゲナシトゲアリ「雑踏、僕らの街」
2Dの日本アニメはいずれ世界に追いつかれる
―― 開発が大変になると予想ができたにもかかわらず、誰も見たことがない映像にこだわった理由は?
平山 『ガルクラ』から少し話が離れてしまうのですが、「日本のアニメの技術的発展」を考えたときに、「2D作画」に関しては、技術が天井に近いところまで到達していると思っています。
先人たちが長い年月をかけて積み上げてきたものが大きく、技術面でやれることはやり切っています。そういう意味ではここから先、ブレイクスルーを伴うような技術的発展はなかなか望めないだろうと。
そして制作費に関しても技術の発展に伴って手間がどんどんかかるようになり、それに応じて費用も上がっています。そういった状況でここから先、日本のアニメはどのように世界と戦っていけば良いのか……ずっと考えているのです。
技術がすでに天井に近い手描きアニメで諸外国と戦うとすると、いずれ中国などに追いつかれ、追い越されてしまいかねません。なぜなら最後は資本力での殴り合いになるからです。
―― 日本のアニメ作品は、配信を通して世界中で見られるメジャーな娯楽になりました。魅力が伝わるにつれ諸外国でも「日本風のアニメ」が作られ始め、これまで独自のポジションを築いていた日本さえも諸外国との競争をまぬがれなくなった、ということですね。
平山 そうです。2Dアニメに関しては、中国をはじめ、日本と同等の技術力を持つ地域が出てきています。彼らと同じ土俵で戦うことになったら、勝負を分けるのは資本力の差。そこはクリエイター個々人の努力ではなかなか超えられない領域なのです。
一方で、「3DCGアニメ」分野はまだ新しく、発展の余地が大いにあります。アメリカが先行していますけれど、それ以外はどの国も似た立ち位置です。ですから、このタイミングで新しい3DCGアニメのジャンルを作ることができたら、そのジャンルで1位になれるだろうとも思いました。
―― 「そのジャンルの1位を狙う」のは、限られた資本力で創意工夫をする日本らしい勝ち方という気がします。
平山 そうかもしれません。せっかく3DCGでやるなら、イラストルック+フルコマで新しい映像を追求したほうが面白いでしょう。東映アニメーションとしてもTVシリーズでやるからには、何かしら技術的なブレイクスルーが欲しいと考えています。ならば挑戦しようと。
……それで大変な苦労をすることになったのですが。
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