kintoneユーザーによる事例・ノウハウ共有イベント「kintone hive hiroshima vol.1」が広島で初開催された。今回は、3番目に登壇した金田コーポレーション 岡本美咲氏のプレゼン「職人の垣根を超えるkintone ~金田コーポレーションの1年間のあゆみ」をレポートする。
kintoneで年齢や言語、職人の垣根を越えて業務改善
岡山県玉野市に本社を構える金田コーポレーションは創業1947年、今年78年目を迎える老舗の鉄工所で、製鉄所や発電所の大型プラントなどを製作する。同市内に3つの工場があり、中国の大連にも合弁会社を抱え、従業員数は40名、外国人やシニア、女性と多様なメンバーが活躍している。
kintone導入以前は、職人たちは日報を手書きしており、その日報は毎日1時間かけて工事管理ソフトへの手入力していた。読みにくい文字も多く、転記作業の負荷は大きかったという。業務改善は喫緊の課題だったものの、システム化には条件が二つあり、なかなか手を付けられなかった。1つ目の条件が、電子機器の操作に不慣れな職人でも受け入れられること。2つ目の条件が、従来から利用している工事管理ソフトと連携できることだった。
そんな中、リコーから紹介してもらったのがkintoneだった。kintoneなら職人でも扱えるように仕様をカスタマイズできるし、外部システムである工事管理ソフトとも連携できるということで導入を決定。全員分のライセンスを用意できなかったため、ソニックガーデンの「じぶんページ」という連携サービスを利用し、従業員のスマートフォンから使えるようにした。
「システム化が決定し、事務所側は楽しみで前向きな雰囲気になりました。一方、職人たちは、LINEで画像を送ることさえわからない人たちです。何をやらされるのかと、どんよりした雰囲気が漂っていました」(岡本氏)
そこで工夫したのが入力方法だった。日報アプリには従業員コードや作業日、工事コード、工事名称、作業名などを入力する必要があり、それらを選択するだけで済むようにした。日付の欄はタップするとカレンダーが表示され、選択するだけ。工事名称や作業名もプルダウンメニューから選ぶだけ。作業時間は、キーパッドが表示されるので、数字を入力するだけでいい。
もう一つ工夫したのがマニュアルだ。こちらも簡素にすることを心掛け、画面キャプチャを並べて押す順番に番号を振った。読まずとも、見るだけでアプリを操作できるようにした。
kintoneの導入により、職人たちは作業終了後にすぐに帰宅できるようになった。以前は就業後は事務所に集まり、ファイルを取って日報を書いてから帰るという作業が発生しており、その時間は事務所の出入口が混雑していたそうだ。しかし、休み時間でも帰宅後でも、どこからでもkintoneで日報を入力できるようになった。入力も簡単なので、日報作成自体も1分で終わる。もちろん、出入口の混雑も解消できた。
事務員側のメリットも大きかった。必ず入力して欲しいフィールドは必須項目にしているので、入力漏れがゼロになった。解読困難な手書き文字と格闘することもなくなり、工事管理ソフトへの入力も、ワンクリック1秒で済んでしまう。「(職人も事務員も)ウィンウィンになりました」と岡本氏。
意見を集める「宝箱」やありがとうを伝える「ハッピーボックス」もkintoneで
「業務改善は思った通りに運びました。1ヶ月ほどで、職人たちも慣れて、入力もしてくれるようになりました。ただ、kintoneが我々に与えてくれたのは、これだけではなかったんです」(岡本氏)
同社では目安箱のことを「宝箱」と呼んでいた。従業員からの意見は宝である、という考えなのだが、岡本氏が入社して5年間、意見が入ることはなかった。そこで「宝箱」をkintoneでアプリ化、いつでもどこでも匿名で入力できるようにした。すると、業務改善を求める声や上層部への意見など、たくさんの宝を集めることができたという。
また、ありがとうを伝えるアプリ「ハッピーボックス」も作った。以前は月一で社員全員で集まってコミュニケーションする場を設けていたが、コロナ禍でなくなってしまった。同時に、新年会や忘年会、歓送迎会もなくなり、新入社員が入ってもなかなか馴染めないという状況だったという。「落ち込んでた雰囲気になったので、他人のいいところを見つけよう、ということでアプリを考えました。ただ、人のいいところを見つけようとか、ありがとうを伝えようと言っても、なかなか最初は声が入りませんでした」(岡本氏)
そこで、レコードが登録されたら通知が届き、「ありがとう」を受け取れるように改善した。人は褒められるとうれしいので、モチベーションが上がる。そして、自分もありがとうを伝えたい、という雰囲気になりコロナ禍前の活発な雰囲気を取り戻すことができた。業務改善もできて、社内風土までよくなって大満足とのこと。
実はここまでのアプリは開発会社に依頼して作っていた。しかし、kintoneを紹介してくれたリコーの担当者から「それではkintoneを活用していることにはならない。簡単にアプリを作れますよ」と言われたという。
文系大学出身の岡本氏は自分がアプリを作るなんて無理、と半信半疑のまま新入社員とkintoneのハンズオンセミナーを受けてみることに。「ほんとに簡単にできて、すごく驚きました。今は出欠アンケートや不具合報告、弁当注文といったkintoneアプリをどんどん作っているところです」(岡本氏)
「今回、私が1番お伝えしたいことは、意外と簡単、そして誰でも作れる、ということです。システムに強くない私が、ハンズオンセミナーを受けてアプリを作れました。そして、シニアや日本語のあまり得意でない外国人でも使いこなせるアプリができました。誰でも使えて、誰でも作れるアプリ。そんなkintoneに出会えたことに心から感謝しています」と岡本氏は締めた。
現場の職人や事務員へのフォローはどう工夫した?
プレゼン後にはサイボウズの中国営業グループ 広島オフィス 西尾陽平氏から質問が飛んだ。
西尾氏:ペーパーレスをどんどん実現し、すごく改善効果が出たという話がありましたが、実際、現場の外国人の方やシニアの方たちからはどんな反応がありましたか?
岡本氏:最初は泣きそうな顔して事務所に来て、「どうやるん」と言われていました。しかし、見るだけのマニュアルを置いてると、それだけ見て進められるということを彼らが実感して、自分でもこのシステムが使えた、とモチベーションが上がり、日報を入力してくれるようになりました。
西尾氏:「ありがとう」を集めるアプリのお話がありましたが、普通は入れて終わりで、会社全体の風土まで変えるところまではなかなか行きつかないと思います。作ったあと、どのようにフォローされましたか?
岡本氏:当初、1ヶ月に1件は必ずみんな入れてくださいと打ち出しました。それでも、なかなか入らなかったので、みんなに「ありがとう」を届けるようにしたら、そこから自然にみんな入れてくれるようになりました。この前、あて先は空欄で、「金田コーポレーションの皆さんへ、皆さんのありがとうが僕の仕事のやる気につながってます」というメッセージが入っているという嬉しい体験もありました。
2025年3月末までの限定公開です
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