気候がよくなり、スポーツ観戦に出かけるのによい季節になってきた。テレビやネットでの観戦はプレーの細部が見られたり詳しい解説があったりで楽しいが、スタジアムで観客席が一体となって大いに盛り上がる楽しさはまた別格である。
そんなスタジアム観戦をより楽しんでもらおうとする試みが始まっている。仕掛けるのはパナソニック エレクトリックワークス社、提供するのはスマートフォンを使った音声配信クラウドサービス「CHEERPHON(チアホン)」だ。
インタラクティブ機能で参加意識高まる
チアホンは、スタジアムで試合中に楽しめる副音声実況放送。利用者はスタジアム内に掲示されているQRコードを自分のスマホで読み取るだけでチアホンにアクセスできる。ウエブベースで提供されるサービスなので、事前にアプリダウンロードする必要はない。遅延時間は0.3秒以下とほぼリアルタムで、通信容量は1時間当たり0.03GBと低く、通信費は気にならない程度だ。
一般的に、スタジアムで流れる実況は、試合の進行状況やペナルティの解説、両チームの選手紹介などとなり、ホームゲームと言えど、ある程度は公平に行われる。しかしチアホンは来場者個人に直接届くものなので、片方のチームに偏った内容を届けることができる。試合の流れを贔屓のチームの視点だけで実況したり、普段は知ることができない選手の裏話をしたりと、ファンにとってゲームをより楽しめる情報を詰め込めるのである。また、配信は複数人が同時に話すことができるので、例えば解説ブースからは全体を俯瞰した実況と解説、グラウンドからはプレーを近くから見た実況・解説をするといったことが可能だ。
インタラクティブなのもゲームを楽しめる要素になっている。スマホの配信画面から配信者に対して「いいね」などのリアクションを送ったり、メッセージや質問を送ることができる。配信者はラジオのように視聴者からきたメッセージをリアルタイムで読み上げることができるのだ。テレビ中継のように一方的に実況や解説を聞くのではなく、視聴者は参加することでよりライブ感を味わえる。
視聴制限機能により、GPS情報を利用してスタジアムに来た人にだけ配信したり、任意のアクセスコードを使ってファンクラブ限定配信といった使い方もできる。利用者にとって特別感が味わえる仕組みを用意しているのである。
一方、主催側のメリットとしては、ファンエンゲージが向上することによりスタジアム来場回数の増加や、スタジアム観戦の新しい楽しさを知ることで新規顧客の獲得が見込め、チケット収入の向上ほか、グッズや飲食の売り上げ増などが狙える。また、チアホン配信アプリ画面に広告バナー表示機能もあるので、スポンサー収入も狙える。
チアホンは既に2022年4月からサービスインしており、サッカー、ラグビー、野球、アメフト、フィギュアスケートなど多くのスポーツで利用されており、これまで40社が利用し、配信実績は125件以上、利用者数は4万人以上となっている。
居酒屋のノリ的な実況・解説は楽しすぎた
実際にチアホンを体験してみた。3月上旬、埼玉県の熊谷ラグビー場で開催されたNTTジャパンラグビーリーグワン2023-24の「埼玉パナソニックワイルドナイツVS東芝ブレイブルーパス」戦にて行われたチアホンを活用した『Wild Knights Radio』の配信で、この日はワイルドナイツOBの髙安厚史氏、ワイルドナイツ現役の金田瑛司選手、谷 昌樹選手の、ワイルドナイツを熟知している3人が解説を担当した。
ラグビーはルールが難しく、スタジアムのスタンドから見ているとペナルティの内容など何が起きているか分からないことが多い。そのため、スタジアム放送でもプレーの解説を行うが、スタジアム放送はプレー全体の流れを追わねばならないので、一言で簡単に終わる場合もある。チアホンでの解説は、どの選手がどの選手に対して何をした、だからこういう内容のペナルティが課されたと詳細に説明されてルールを理解しやすい。
ユニークだったのが、レフリーのマイクもチアホンで拾っていたこと。テレビ中継ではよくレフリーがマイクのスイッチを入れてペナルティを説明するシーンを見るが、チアホンの場合は選手への注意や両チームのキャプテンとの会話など、細かい内容まで拾っており臨場感が増す。
なにより、OBと現役選手の解説がとても楽しかった。ワイルドナイツの日頃の練習内容や選手のクセ、得意なプレースタイルといった試合に関係するものだけでなく、選手が夢中になっているものや最近のプライベートなエピソードなど、ゲーム解説というより「居酒屋でチーム関係者と一緒にテレビ見ながら飲んでいる」的なノリで面白おかしく実況し、選手をより身近に感じることができた。選手の人間的な魅力を知ることでプレーにも注目できるし、もっとこのチームの試合が見たいと思うようになる。
パナソニックでは今後、チアホンの仕組みを視覚障がい者向けの実況・解説に利用したり、スポーツ観戦だけでなく音楽ライブや祭り、観光地・博物館などでの音声ガイド、来日外国人向けの翻訳などへの拡大を図っていく考えだ。
※訂正:1時間あたりのデータ通信量に誤りがあったため、該当箇所を訂正しました。(4月16日 14時20分)
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります