30日、「ABB FIAフォーミュラE 世界選手権 2023/2024年シーズン10 第5戦 東京E-Prix」が東京の有明エリアで開催された。日本史上初となる電気自動車による世界選手権の公道レースということで、このフォーミュラEと東京ラウンドの様子を紹介しよう。
フォーミュラEはEV最速のレース
まずフォーミュラEについて説明すると、化石燃料をほぼ使用しない電気自動車によるレースで、ざっくり言うとF1の電気自動車版だ。F1マシンのようにオープンホイール(タイヤが剥き出し)のレーシングカーを使い、バッテリーマネージメントを行ないならが、最速を競う。2014年からシリーズがスタートしたが、当時はバッテリー容量の都合上、ドライバー交代時にマシンごと交換するというレギュレーションだった。2018年からはマシンの交代はなくなり、バッテリーを切らさずに完走することが求められるようになっている。
現在のマシンは第3世代(Gen3)と呼ばれるもので、最高出力350kW、最高速度は322km/hにも達するという。電気のレースカー=遅いという図式はとっくにアップデートされているのである。
ポルシェ、マセラティ、ジャガーなどの自動車メーカーが最速を競っており、日本からは唯一日産が参戦している。世界選手権になったのも2020年からと、比較的新しいレースシリーズなのだ。
レースの特徴は排気ガスがなく、エンジンもないのでクリーンでいて静か。だからこそ各国で市街地レースが開催されており、このたび東京でも晴れて実施されることになった。
普通のレースとは違った雰囲気の会場
筆者はプレスとして入場したが、カメラマンの申請ではないので行動範囲は一般のお客さんとほぼ変わらない(コースサイドに出られない)。なので、今回はお客さん目線でフォーミュラEの楽しさをレポートする。
会場はビッグサイトの東館とその周辺の道路。ビッグサイト東館がファンビレッジと呼ばれる無料エリアとなっており、フードコートやライブ、ゲームコーナーやキッズカートなど様々なイベントが行なわれていた(未来の日本を走る乗り物たちを見てきた──東京ビッグサイトで「E-Tokyo Festival2024」)。
天気もよかったせいか、会場はファミリーや若い人が多く、いつものモータースポーツの現場とは違った雰囲気。チケットはソールドアウトだったので、せっかくなら雰囲気でも……と来た人もいただろう。
続いて有料観戦エリアの入り口でチケットを見せると、フェスのようにリストバンドが巻かれ、これがあれば自由に再入場できる。だが、グランドスタンドなどで観戦するには再度チケットを見せないといけないのが面倒だったので、来年は改善されているとうれしい。
グランドスタンドは遮るモノが一切なかったので日焼けしてしまったが、もし雨が降ったら非常に残念なことになっていただろう。
筆者が席はホームストレートエンドだったので、1コーナーへの渾身のブレーキング勝負が見どころだった。フォーミュラEは市販のEVと同じく、ブレーキで回生エネルギーを蓄えるので、エンジン音こそしないが、風切り音と回生ブレーキの高周波のような音がかなり大きくて驚いた。
フォーミュラEの独自ルールがゲームっぽい
また、フォーミュラEならではの面白いルールもある。それが「アタックモード」。コースに設置された所定区間(アクティベーションゾーン)を通過すると一定時間マシンパワーを350kwに引き上げて速くなるという、ゲームっぽいシステムだ。ドライバーは最低2回アタックモードを使うことを義務付けられており、それぞれ2~6分の継続時間がある。
よく考えられているなと思ったのが、このアタックモードは考えナシに使えないということ。アクティベーションゾーンは必ずアウト側に設置されているので、ラインを外れないといけないので大幅なタイムロスになるし、バッテリー消耗も激しくなる。なので、このアタックモードをいつ発動させるかが戦略のキーになり、様々な駆け引きを生んでいる。実際、今回の東京E-Prixでも、後続と差を付けてから使ったり、わざと先に行かせてアタックモードのためにラインを外れたところを抜く(抜けなかったが)、なんて作戦もあった。
また、アクシデントなどでセーフティーカーが出た場合、状況に応じて周回数が追加される。今回は1回セーフティーカーが出動したが、その導入分のタイムを加味して2周が追加され、33周のレースが途中で35周のレースになったから驚きだ。サッカーのロスタイム、と言えばわかりやすいだろうか。
最後まで電池を切らさずに走らないといけない
また、途中で充電などはないため、基本的には回生ブレーキで電力を回復する。長く回生していたほうが多く電力が回復するのだが、それだと速く走れない。1コーナーの侵入をまじまじと見ていたのだが、かなり手前からブレーキングして充電しているマシン。レイトブレーキングで勝負を賭けるマシンなど、様々な駆け引きがあり、ほかのレースでは見られない楽しさがあった。
そしてバッテリーの残量がなくなってしまうと戦線離脱なので、電池が切れないようにゴールまでマシンを運ばなければいけない。ドライバーは残り周回数とバッテリー残量を見ながらプッシュするか節約するかを考えながら走っているのである。最近はどのチームもノウハウが貯まってきたので、ゴールでちょうど0%に近い数字になるように走っているという。今回のレースでもトップチームのバッテリー残量は2%とかだった。
なお、レース結果はポールから終始トップを走っていた日産が、終盤にバッテリー切れの危機に陥り2位に陥落。1位になったマセラティもバッテリー切れ寸前だったものの、執拗に攻める日産を見事に封じ込め、東京E-Prixの初代勝者となった。筆者は日産応援シートにいたため、この結果は非常に悔しかったが、クリーンでいいバトルだったのでマセラティに拍手を送った。
すべてがコンパクトでエコなレース
東京E-Prixは有明で開催されたこともあり、電車で行って帰ってこられるのがいい。鈴鹿サーキットも電車で最寄りまではいけるが、そこからバスか長時間歩かないといけない。ビッグサイトは筆者の住む千葉からだと1時間かからないくらい。こんなすぐに見られるモータースポーツ(しかも世界選手権)はほかにない。あくまで関東住み目線だが。
レースは1日で完結するのも、タイパを重視する現代にふさわしい。午前中に予選、午後に決勝というスケジュールだが、決勝レースは1時間もないので飽きることなくレースに集中できる。さらに驚いたのが表彰式のシンプルさ。3位までを表彰したら終了で、○○賞や△△賞なんてものもなく、スパっと終わる。最後まで表彰式を見てもまだ16時30分くらいだったのには驚いた。おかげさまで、家に帰って家族と夕飯が食べられた。
また、表彰式は無料で入れる東館のステージで行なわれたため、たくさんの人が集まって、盛り上がっていた。まるでフェスのようにスマホでステージ上の写真を撮る人がたくさんいたのだ。これは、モータースポーツにまったく興味がない人へのアピールになっていると感じた。なんかよくわかんないけど、表彰式やっててみんな写真を撮っているなら見てみようかな、となるからだ。ただ、表彰式がほとんど英語だったので、日本語でもやってくれるとありがたい。
単なるモータースポーツイベントではないフォーミュラE
シリーズが始まった頃のフォーミュラEはメーカーからもそっぽを向かれていたし、モータースポーツファンもしらけた目で見ていた。電気自動車のレースなんて迫力ないしつまらないと。しかし、今となってはほかのカテゴリーも見習うべき「ファンを楽しませる施策」(特に無料エリア)が多い。もちろんサスティナビリティとか脱炭素化とかゼロエミッションといったコンセプトはあるのだが、それを説教臭く押しつけていないところもいい。
また、初開催だったにもかかわらず大きなトラブルもなく、無事にイベントが終わったことも特筆すべき点だ。モータースポーツに限らず、イベントの初回というのはグダグダになりやすいものだが、お客さん視点で見ても大きな不満はなかった(細かい不満はある)。熱くもなく寒くもない時期で、さらに晴天だったのも影響しているかとは思う。個人的には成功ではないかと。
日産は2030年までの参戦を発表しているし、東京E-Prixはまだ数回は開催されるとのことなので、今年行けなかった人はぜひら来年は見にいってほしい。モータースポーツの未来が見られるだろう。
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