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〈後編〉エクラアニマル 本多敏行さんインタビュー

70歳以上の伝説級アニメーターが集結! かつての『ドラえもん』チーム中心に木上益治さんの遺作をアニメ化

子どものときに何を見るか?

まつもと 1989年の宮崎事件を経て、子どもが喜ぶものをという思いから自主制作アニメを作ったり、鑑賞会を開いたりといった活動をされてきたなかで35年が経ち、今度は放火事件が起こりました。

 そして2つの事件の犯人はどちらも、もともとはファンだったわけです。すごく愛情があったはずなんだけれど、いつしかそれが歪んでしまい、前者はその矛先が子どもに向かったのかもしれず、後者は作り手に向かったのかもしれません。

 良いものを作るからそれを好きになってくれる。でも受け手がそれに依存した結果、歪んだ形・行為におよんでしまうこともある。この2つの事件を僕たちはどう受け止めたら良いのでしょうか?

本多 アニメの影響だけではないと思うんですよね。我々としてはそう思いたい。だけど、アニメが与えている影響もあるなと思ったとき、じゃあ人間はアニメをいつから意識するかと言えば、やはり子どものときですよ。

 だから子どものときに何を見るかがすごく大事だなと。具体的にどんな作品が良いかはわかりませんが、人生に大きな影響を与えるはずです。となると、子どもに向けて作品をどう見せるかというのは、私たちがテーマの1つとして取り組むことなのかなと。

まつもと ちょっとうかがいにくい話なのですが、放火事件のことを知って本多さんはどう感じられましたか。

本多 まずあれだけの人が一度に亡くなったことがショックだし、アニメーター仲間から(木上くんも亡くなったことは)だいぶ早い時期に知りました。

スタジオの机には設定画などが所狭しと貼られていた

取材時点では「残り10カット程度」とのことだった

主なスタッフは70歳以上。かつての『ドラえもん』チームが集結

本多 それがきっかけになって、試行錯誤のうえ、「じゃあ昔の仲間で作らないか?」という話になったのです。ただ、すでにあちこちへ散らばってしまい今さら呼べないし、どうしようかと考えた結果、メインスタッフは70歳以上で固めました。古今のいろんな作品を経験していますし、動きも昔風のアニメの雰囲気を出せますからね。

まつもと スタッフの詳細は公表されていますか?

本多 一応、基本は『ドラえもん』のチームです。シンエイ動画が近いので。芝山努さんに監修してもらって、原画が進藤満尾さんと私、そして『ドラえもん』の作監・中村英一さん、映画シリーズで作監をやった富永貞義さん。そして、「俺が手伝ってやるよ!」と湖川友謙さんが手を挙げてくれました。

 中村さんと富永さんはすでに引退していますが、このために手を貸してくれました。そしてこのスタッフ構成のメリットはもう1つあって、それは中国での『ドラえもん』人気です。

まつもと なるほど。“かつての『ドラえもん』スタッフが手掛けている”という話題性ですね。

本多 制作資金を出してくれたのは中国のIT企業「ジーフー」で、“制作過程を取材させてほしい”というのが条件だったんです。そこで、中国で一番人気のある日本人ドキュメンタリー作家・竹内亮さんが来日して現場を撮っています。キャンピングカーに乗ってあちこち取材にも出掛けているようですよ。

 さらに声優さんは松本梨香さん、山口勝平さん、柳沢三千代さん、そして俳優の吉野悠我さんにお願いしました。

記事公開時には完成しているアニメ版『小さなジャムとゴブリンのオップ』。日本での公開を楽しみに待ちたい

「自分で感じ、考えて行動すること」の大切さを知ってほしい

まつもと 最後に2つおうかがいします。まず、子どもたち、あるいは親御さんにこの作品をどんなふうに楽しんでもらいたいか。そして、今も日々描いているアニメーターに向けたメッセージがあれば。

本多 木上くんの描いたテーマは、“子どもが自分で感じて考えて行動するという姿勢”なんです。だから、できれば子どもたちにもアニメの主人公・ジャムと同じように、感じて考えて行動するという経験をしてもらいたい。……木上くんは当時20代でこのテーマを描いているんですよね。

まつもと 最初のページにも「ジャムはいつもそう考えていました」とあります。自分で感じて考え、行動することで解決に向かっていくストーリーなんですね。

「子どもたちには“自分で感じて考えて行動する”習慣をつけてほしい」(本多)

本多 主人公は、魔法がまだ使えない魔法使いの子どもです。友達と関わるなかで『魔法が使えれば便利なのに』と悩むんだけれど、おじいちゃんには、「魔法を使うためにはお前がもっと力をつけて勇気を持て」とか言われるわけです。それで『勇気とは何だろう?』と考えていくなかでさまざまなことを体験していくお話なんですね。

 だから子どもたちには、「(自主的に)感じて考えて行動する」ことの大切さを伝えることができれば良いなと思っています。そしてアニメーターの方々には……特に言うことはない(笑) みんなそれぞれ好きなことをやっているわけだし。ただ、エクラアニマルで働いている我々はこういうのが好きだから、もしこういうのが好きな人は一緒に手伝ってくれるとうれしい。

今でもアジアには“子ども向けアニメ市場”がある!

まつもと 子どもを喜ばせるアニメというのは、残念ながら今の日本ではマーケットが小さいのですが、まだアジアは中国をはじめとして子どもも多いわけで、今後エクラアニマルさんの試みはいろんな国から注目されていくでしょう。

 ……というのは、アジアで子ども向けと言うと、これまではやはり3DCGアニメだったのですが、最近は食傷気味になっているので。

本多 中国は特にそうですよね。アメリカも、最近ちょっと3DCGの感じが変わってきました。だから、たぶんちょっと飽きてきたのかなと。

まつもと 今日のテーマからは外れますが、世界的に潮目が変わってきたのかもしれません。つまり、三頭身キャラが自在に動く作品を得意とするスタジオやアニメーターにチャンスが巡ってくるんじゃないかと。本日はありがとうございました!

取材のあとは、本多さんが出演するFM西東京の番組「エクラアニマルのフラフラ蟻」にもお邪魔しました。ガラス張りの収録ブースは、田無駅の改札前(!)

前編はこちら

筆者紹介:まつもとあつし

まつもとあつし(ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者)

 IT・出版・広告代理店、映画会社などを経て、ジャーナリスト・プロデューサー・研究者。NPO法人アニメ産業イノベーション会議理事長。情報メディア・コンテンツ産業に関する教育と研究を行ないながら、各種プロジェクトを通じたプロデューサー人材の育成を進めている。デジタルハリウッド大学院DCM修士(専門職)・東京大学大学院社会情報学修士(社会情報学)。経産省コンテンツ産業長期ビジョン検討委員(2015)など。著書に「コンテンツビジネス・デジタルシフト」(NTT出版)、「地域創生DX」(同文舘出版)など。

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