AIの力を借りればさらに盤石
Core i9-14900KSのCPU温度を90℃に制限する設定により、MTP無制限設定時よりも安定性を向上させることはできたものの、Cyberpunk 2077のようにまだ不具合の出る部分がある。もっと良い方法はないものか?
そこで最後にインテル公式のOCツール「XTU(Extreme Tuning Utility)」を試してみることにした。XTUにはCoreプロセッサー(第14世代)環境でのみAIを利用してOCの最適な設定を詰めてくれる「AI Assist」という機能があるが、これを利用してパラメーターの最適解を出して貰おうというものだ。BIOSデフォルトのままでもとてつもない暴れ馬なCore i9-14900KSをさらにOCするというのは一見おかしな判断のように思えるが、AI Assistは安定動作する中で最大限攻める設定を導きだしてくれる。まさに“逃げたら一つ、進めば二つ”なのである。
ただ、XTUを利用するにはWindows 11のセキュリティー機能の一つである“メモリー整合性”をオフにする必要がある。セキュリティーレベルが下がるため筆者としてはXTU利用を強く勧めるものではない、ということはお断りしておく。
今回の検証環境でAI Assistを利用して調整してもらったところ、Pコアのアクティブコア数が1ないし2の時は63倍、それ以上の場合は60倍という設定を提示された。定格が62倍/59倍なので言うまでもなくしっかりOCされている。さらに、Turbo Boost Power Max(PL1)が320W→470Wへ大幅増量された。電圧類は変更されていないがTVB周りの設定が調整されている。
それではCore i9-14900KSにAI Assistで軽くOCした場合のパフォーマンスを、90℃制限時のものと比較してみよう。検証条件については前述のテストと同一である。
シングルスレッド性能はAI Assist利用時のほうが90℃制限時より微妙に下がった一方で、マルチスレッド性能はさらに伸びた。Handbrakeのエンコード時間も、CINEBENCH 2024のスコアー上昇に連動して短縮している。
性能が向上したのだから消費電力が増えてしまうのは必定。CPUの消費電力は平均値ではわずか9Wの上昇だが99パーセンタイル点が大幅に上がっており、より長時間消費電力の高い状況が続く、即ちブースト状態が長く続いていることを示唆している。
ゲームパフォーマンスについても同様だが、Cyberpunk 2077は起動に失敗することがなくなった。明らかにAI Assistによるチューニングのほうが単純な温度ベースの制限よりも優れていることを示している。
発売前にβ BIOSが出る?
長々とここまで検証してきたが、本稿でCore i9-14900KSの評価が終わったわけではない。BIOSのデフォルト設定(MTP無制限)でCINEBENCH 2024の10分走が完走できるようになって初めて、従来モデルとの差を比較するための入り口に立てる。本稿を読む前にCore i9-14900KSを購入してしまった方は、BIOSの更新まで安定性確保のために色々と工夫が必要だ、ということを伝えるための記事となる。
正直こんな安定度のCPUを出すのはどうかと思うが、Core i9-14900KSのようなマニア向けモデルに関してインテルは以前から“売れそうだから出す”スタンスを続けており、今回もこのパターンであるという印象を抱いた。だが、Core i9-13900KSの時はパット・ゲルシンガーCEOがわざわざ発表したのに対し、今回のCore i9-14900KSは6.2GHzに到達したにも関わらずサイレントローンチとなった。不具合がわかっていたからサイレントになったのか、0.2GHzの伸びはアピールするに至らないと判断したのか、真相はどちらだろうか?
だが本稿を提出する前日(つまり3月13日)、ASUSのフォーラム(https://rog-forum.asus.com/)に「Support New CPU」と銘打たれたβ BIOSが公開された。Core i9-13900KSの時も発売後に何回か安定性向上BIOSがリリースされていた経験から、素性のわからないBIOSに飛びつくのはリスクが高すぎると判断し、検証は見送った。公式サポートからこれに準ずるBIOSがリリースされた時に改めて、Core i9-14900KSの検証を行なってみたいものだ。
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