週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

【後編】新潟国際アニメーション映画祭プログラムディレクター数土直志氏インタビュー

新潟で「日本基準」のアニメ映画祭が始まった!

2024年03月14日 18時00分更新

アニメ文化ジャーナリストの渡辺由美子氏が、新潟国際アニメーション映画祭のプログラムディレクター・数土直志氏にインタビュー

前編はこちら → 「映画祭」だと日本アニメの存在感が途端に薄くなる理由

「新潟」は日本ならではの価値基準を作るための映画祭だ

 ヨーロッパの映画祭に通い続け、ついには日本・新潟から送り手となった数土直志氏が語るのは、日本アニメを大衆人気以外で価値を上げていく重要性だ。

 ヨーロッパでは、作品評価は権威から大衆に降りてくる。映画祭でも日本作品が超えるには難しい壁がある。それでも先達の作家が挑み続け、近年では細田守、新海誠の両チームなどが積極的に海外の映画祭を活用している。

 3月15日から始まる新潟国際アニメーション映画祭では、すでに富野由悠季監督の登壇と『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の上映、湯浅政明監督の登壇と『犬王』応援上映など、バラエティー豊かなプログラムを発表している。商業作品をリスペクトし、「日本ならではの新しい評価基準を作る」新潟の挑戦を追う。

新潟では「欧州ではなくアジアの基準」を作りたい

―― 前編では海外のアニメーション映画祭の基準や特徴をうかがい、そこに日本の作家・作品がどのように挑戦していったかを語っていただきました。後編では、アジアの日本で開催する新潟国際アニメーション映画祭ならではの特徴を知りたいと思います。

 まず、新潟国際アニメーション映画祭ではどのような方針を立てましたか?

数土 「物語性の豊かな長編作品を中心に紹介します」というのが新潟国際アニメーション映画祭のアイデンティティーになっていると思います。

 新潟を立ち上げた昨年の第1回は、ほかの映画祭にはない個性として「長編アニメーション作品を中心にする」と打ち出しました。その後、「新潟国際アニメーション映画祭の個性とは何か?」をより考えて、第2回では物語性の強い、ナラティブな長編作品を評価することを基盤にしました。

―― 「物語性」を打ち出したのはなぜですか?

数土 実は、海外映画祭での「アニメーション」の評価軸は――あくまで僕の個人的な印象としてですが――「技法」や「芸術」に寄りがちだなと感じるんです。「これだけ細やかな、あるいは斬新な技法を使って動かしている」というような。

―― 私が海外の短編アニメーションを観ると、「技術がすごいけれどちょっと難解だ」と思ったんですが、やはりアート的といいますか、日本の商業アニメとかなり違いますね。

数土 そうですね。日本のアニメーションの魅力というのはこんなにも複雑なストーリーをアニメーションで語れるんだというところにあり続けてきたと思います。

 けれどもヨーロッパの映画祭では、アニメーションを技法や芸術性で評価することで発展してきたのです。それは、日本サイドから見ると、日本やアジア的な作品がアニメーション映画祭(の賞レースに)残りづらいのです。

新潟国際アニメーション映画祭では、ヨーロッパでのアニメ映画祭とは異なる評価軸を設けたという

日本アニメの「ストーリー性」は海外の映画祭では評価されにくい

―― ここまで、日本の作家がヨーロッパの映画祭に出品することで、日本アニメと作家の地位を上げてきたという歴史をうかがいました。けれども評価の基準がヨーロッパ的だから、天井があると?

数土 そうです。文化人類学者の三原龍太郎さんもよくおっしゃっているんですが、いわゆる文化の価値基準、評価軸のようなものがすべて欧米の基準で決められてしまっています。アジア的なものの価値観が海外に共有されていないのです。

 それが「基準の1つ」であるなら悪いことではない。けれども、「欧米での評価」だけが絶対的に正しいのかというと、そうではありませんよね。

 僕らが新潟国際アニメーション映画祭に込めた想いも、そこにあります。『やはり僕らは僕らの価値観で世界に発信すべきではないか?』と。

 そして日本だけでなく、韓国や中国、東南アジア、さらには僕らがまだ気づけていないアフリカや中東などの作品を「欧米とは違う基準」で見ていくことで、海外に向かって「別の評価軸もあるんだ」と発信できるのではないか、と考えたわけです。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事