ドルビーアトモスとは何か?
試写終了後、最初に登壇したのは岩浪さんだ。5.1chサラウンドとドルビーアトモスの違いに触れながら、映画音響の進化について分かりやすく解説してくれた。
現在、映画館の音響フォーマットとして一般的に用いられているのはドルビーデジタル方式の5.1chサラウンドだ。登場は1992年。「30年続いているということは非常に優秀なフォーマットであると言え、現状日本の映画館はほとんどこのスタイルで上映している」と岩浪さんも話す。
対するドルビーアトモスは2012年に登場。5.1chサラウンドではフロント、センター、サラウンドの各チャンネルと1つの低音専用チャンネルに音を割り振っていくのに対して、ドルビーアトモスにはチャンネルという概念がない。ドルビーデジタルの5.1chや7.1ch、あるいはIMAX(最大12ch)のように明確なチャンネル数は決まっておらず、最大118個のオブジェクト(効果音や人の声など)に3次元の位置情報や時間情報を記録して、シアター内の自由な位置に配置できるという特徴がある。
スクリーンの裏側や左右/後方の壁面、さらには天井にも配置したたくさんのスピーカーを個別に制御し、制作者が指定した位置にオブジェクトがある(その場所で音が鳴っている)と感じるように再現できるのがドルビーアトモスなのだ。
試写会場となったIMAGICAエンタテインメントメディアサービス 竹芝メディアスタジオ 第2試写室には、合計25本のスピーカー(前に3本、左右に5本ずつ、天井に5本×2列、後ろに2本)が設置されている。ただし、この数はシアターのサイズによって変化し、最大で64本のスピーカーが扱えるようになっている。
オブジェクトは左右1000、前後1000、上下1000段階に区切られた細かい座標上に指定できる。シアター内に総数10億個のスピーカーがあり、好きな位置で自由自在に音が出せると考えてもいい。音を意図した場所に定位させ、移動させることで、より緻密な空間の再現ができるのがドルビーアトモス最大の特徴なのだ。
激しい映像の変化をドルビーアトモスの音が補う
こうした説明を交えながら、5.1ch音声で作った『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話とドルビーアトモス音声で作った『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話の比較上映が行われた。
選ばれたのは大洗女子学園と継続高校の対戦が繰り広げられる前半のクライマックスシーン。包囲を突破した大洗女子学園の戦車を、継続高校の戦車が雪上を滑るようにしながら迫撃する。切り替えの速い、スピーディーな映像で双方入り乱れた攻防が展開され、各戦車の動きを目で追うだけでも精一杯だ。
5.1chの音声も迫力満点だが、目だけではどの戦車がどの方向から何をしているのかをうまく追いきれなくなってしまいがちにもなる。ところがドルビーアトモスの音声では、直滑降のように滑りながら移動する戦車の動き、横転した仲間の戦車に体当たりして体勢を戻す様子など、チームで連携しながら対戦を続ける戦車の動きがよく把握できるようになる。明確な位置と動きを感じ取れる効果音によって、フレームの外で起こっている出来事も直観的に把握できるためだ。映像の動きを音がフォローすることで、目まぐるしく展開する戦車道の対戦が“点ではなく線”、つまり“原因と結果の積み重ね”によってつながっていくことを体感できる。
まさに映像と音響の相乗効果を実感できるシーンに仕上がっている。
岩浪 「観客には映画館ならではの音響を感じ取ってほしいと思っています。(ドルビーアトモスが登場してほどない)2013年に『ゼロ・グラビティ』という映画がありましたが、それを見たときに『日本の映画音響はハリウッドに比べて10年は遅れている』と感じました。『僕らもいろいろとやらなければいけない』『ドルビーアトモスで作りたい』と言い続けた結果、『BLAME!』(2017年)で、初めてドルビーアトモスの制作を手掛けることができました。 “ガルパン”でも最終章の第1話からドルビーアトモス版の制作を続けています。
『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話はその11本目です。日本で一番ドルビーアトモスの作品を作っています。
世界ではプレミアム作品の音響にドルビーアトモスを採用するのが一般的になっています。海外に配給することを考えると、ドルビーアトモスの音響は不可欠だと思います。ドルビーアトモスの音響で制作されるアニメが増えているのも、そんな理由からでしょう」
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