パナソニックがマイクロフォーサーズ「LUMIX Gシリーズ」のハイエンドモデル「G9PROⅡ」を発表した。
「Gシリーズ」といえば動画撮影に強い「GH6」がすでにハイエンドモデルとしてラインナップされているが、「G9PROⅡ」は像面位相差AFや高速連写など主に静止画撮影の性能が強化されたモデルだ。パナソニックから実機を借用できたので、果たしてどのようなカメラに仕上がっているのかチェックしていこう。
10月27日発売予定で量販店価格はボディーのみ23万670円、「LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mmF2.8-4」とのレンズキットは30万3930円。
ボディーはGH6より小型軽量を実現
望遠レンズとの組み合わせでフルサイズより有利に
まずはボディー周りから。なによりの特徴はフルサイズ「LIMIX Sシリーズ」の「S5Ⅱ」と共通のデザインということだろう。
正面はマウント径やレンズ着脱ボタンの位置などが異なっているが、スペック上のサイズは寸分と違わない。ということはマイクロフォーサーズなのにデカくないい?と思うかもしれないが、実は強力な放熱構造やチルトフリーアングル液晶を搭載している「GH6」よりは小柄だ。
重量は「S5Ⅱ」が740gなのに対し「 G9PROⅡ」は 658g(ちなみに「GH6」は823g)なので、手にすると見た目よりは軽く感じる。
ボディーサイズは「S5Ⅱ」と全く同じ134.3×102.3×90.1mm。重量は658gと「S5Ⅱ」より82gほど軽い。なお「GH6」は138.4×100.3×99.6mm、823g。
もちろん手に馴染み握りやすい細身のグリップや指先の感覚で確認できる「3連Fnボタン」も健在。独立した「AFモード」のレバー&スイッチに「ドライブモード」のダイヤル、8方向対応の「AFセレクター」など「S5Ⅱ」の優れた操作系はそのまま継承されている。
上面や背面の見た目は「S5Ⅱ」と全く同じ。ぱっと見では区別が付かない。
しっかり構えられる握りやすいグリップで、ボディーの大きさを感じさせない。
シャッターボタン後の「Fnボタン」はストローク深さや突起の有無が異なり、触れただけで判別できる
。
フォーカスモードのレバーと測距エリアなどを変更するボタンが一体化され、AF関連の設定がスムーズにおこなえる。
「AFモード」ボタン押すと表示される設定画面。AFエリアの切換に被写体認識のオンオフ切換や対象の選択がおこなえる。
単独のドライブダイヤルを備え、連写やハイレゾモード、セルフタイマーが素早く切り換えられる。
ドライブダイヤルには2つの連写モードが備えられ、それぞれに異なる連写設定を割り当てられる。
8方向に対応AFセレクター。測距点の斜め移動もスムーズ。
EVFは368万ドットで倍率はフルサイズ換算約0.8倍だ。
側面の端子の配置は上からマイクとヘッドフォン、TypeAのHDMIにUSB Type-C(USB3.2 Gen 2)が並ぶ。
メディアはUHS-Ⅱ対応のSDデュアルスロット。
バッテリーは「GH6」とも共通の「DMW-BLK22」。公称の撮影可能枚数は約370枚。
同時に発売されるバッテリーグリップ「DMW-BG1」(量販店価格3万8280円)。
縦位置時のAFセレクターが8方向対応に改良され、「S5Ⅱ」にも装着可能だ。
ボディーサイズは同じでもフルサイズとの違いを実感するのはレンズを装着したときのトータルサイズだ。
マイクロフォーサーズの交換レンズは同じ画角ならフルサイズより小型軽量。特に同時に発売される「LEICA DG VARIO-ELMAR 100-400mm F4-6.3 II」のような超望遠レンズでも重量は1kgを切っているので軽快に撮影することができる。
同時に発表された「LEICA DG VARIO-ELMAR 100-400mm F4-6.3 II」(量販店価19万8000円)。35mm換算200-800mmの超望遠なのに縮小時全長は171.5mmで重量は985gと手持ちで楽々扱える。35mm換算0.5倍という高い撮影倍率もポイント。
210mm以上の焦点距離にすればテレコンの使用も可能。倍率2倍F値2EV減少の「DMW-TC20A」(量販店価格6万6000円)を装着した場合、420-1600mm相当で撮影倍率も等倍になる。
キットレンズ「LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mmF2.8-4」と「LEICA DG VARIO-ELMAR 100-400mm F4-6.3 II」の画角の違いを比較。この写真は「12-60mmF2.8-4」の12mm(フルサイズ24mm相当)。
「12-60mmF2.8-4」の60mm(フルサイズ120mm相当)。
「100-400mm F4-6.3 II」の100mm(フルサイズ200mm相当)。
「100-400mm F4-6.3 II」の400mm(フルサイズ800mm相当)。
「100-400mm F4-6.3 II」+「TC20A」の800mm(フルサイズ1600mm相当)。
「100-400mm F4-6.3 II」の最短撮影距離で撮影。ただし超望遠レンズだけあってピントやブレは超シビア。この写真は「100-400mm F4-6.3 II」の400mm(フルサイズ800mm相当)。
「100-400mm F4-6.3 II」+「TC20A」の800mm(フルサイズ1600mm相当)。
M4/3素子は2521万画素
像面位相差AFを初搭載
撮像素子は「GH6」に次いでマイクロフォーサーズ最高解像度の2521万画素。さらに「S5Ⅱ」と同様に像面位相差AFが採用された。
画質の傾向も「GH6」と同様で、初期設定のフォトスタイル「スタンダード」ではシャープネスは控えめだが細部はしっかり解像され、程度なコントラストや発色で自然な描写になっている。
階調を残しつつ程度なコントラストの描写。使用レンズ「12-60mmF2.8-4」・絞りF8・シャッタースピード1/400秒・ISO100・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード。
派手すぎず、それでいて程よい色乗りの発色。使用レンズ「12-60mmF2.8-4」・絞りF5.6・シャッタースピード1/320秒・ISO100・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード。
逆光でも明暗部の階調が再現されている。使用レンズ「12-60mmF2.8-4」・絞りF11・シャッタースピード1/500秒・ISO100・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード。
拡大してみるとピント部(中央やや左下の鍵)は精細に解像されている。使用レンズ「12-60mmF2.8-4」・絞りF5.6・シャッタースピード1/250秒・ISO100・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード。
高感度はノイズ除去が少し強めでISO3200くらいから影響が感じられる。ISO6400程度までは実用範囲だが、それ以上の感度では細部の解像感低下が気になる。
撮像素子サイズが小さいマイクロフォーサーズなので高感度は不利だが、最近ではAI処理で強力なノイズ処理をするRAW現像ソフトもあるので、試してみるといいだろう。
感度別に撮影した写真の一部を拡大して比較。左上からISO800・ISO1600・ISO3200・ISO6400・ISO12800・ISO25600。使用レンズ「12-60mmF2.8-4」・絞りF5.6・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード・ノイズ処理標準。
ISO6400で撮影。実用範囲内だが、暗部の解像感は少し余裕が無いように感じる。使用レンズ「12-60mmF2.8-4」・絞りF11・シャッタースピード1/60秒・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード・ノイズ処理標準。
ISO12800で撮影。細部の描写はツブれ気味だが、ノイズは目立たず処理されている。使用レンズ「12-60mmF2.8-4」・絞りF4・シャッタースピード1/13秒・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード・ノイズ処理標準。
最高感度のISO25600で撮影。ある程度の光量があるシーンなら、拡大しなければ許容はできる。使用レンズ「12-60mmF2.8-4」・絞りF5・シャッタースピード1/100秒・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード・ノイズ処理標準。
上の写真の同時記録したRAWからAdobeCameRawのAIノイズ除去で処理した写真。拡大して比較すると細部の解像感はまるで別物。
手ブレ補正も強化されキットレンズ「LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mmF2.8-4」との組み合わせでは約8段分の効果が得られ、遠景ならズーム全域で1/2秒程度までは高確率でブレを防止してくれた。
「12-60mmF2.8-4」の60mm(120mm相当)、シャッタースピード1/2秒で撮影したが、手ブレ補正のおかげでブレのない精細な写真になった。使用レンズ「12-60mmF2.8-4」・絞りF5.6・シャッタースピード1/2秒・ISO100・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード。
「12-60mmF2.8-4」の12mm(24mm相当)、シャッタースピードは1秒。電柱に寄りかかり固定したので反則気味だが、三脚無しでもスローシャッターが撮れるのはお手軽。使用レンズ「12-60mmF2.8-4」・絞りF5.6・シャッタースピード1秒・ISO100・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード。
手持ち「ハイレゾ」で1億画素写真
AF追従で毎秒60コマの高速連写が可能
連写画像から1億画素相当の高解像度画像を生 成する「ハイレゾモード」では手持ち撮影にも対応した。
撮影後の処理時間が三脚モードより長く、動きの激しい被写体では合成に失敗することもあるのは変わらないが、手持ちでハイレゾが可能な機種は数少ないので貴重だ。
三脚ハイレゾ、手持ちハイレゾ、通常撮影で撮影。こちらは三脚ハイレゾ。
手持ちハイレゾ
通常撮影
写真の一部を拡大して比較。左から三脚撮影、手持ち撮影、通常撮影。手持ち撮影でも三脚撮影と相違ない。
AFでは人物や動物にくわえ車とバイクの認識機能が追加された。本格的なレースで試したわけではないが、街中を走る車程度なら像面位相差AFのおかげもあってかスムーズに追随した。
ただ他のメーカーにはある電車や飛行機は非対応。確かに追尾AFでも十分撮影できる被写体ではあるが、街中の上空で見かける飛行機などは認識機能があったほうが素早く合焦してくれるので、今後ファームアップなどで対応を期待したい。
被写体認識の選択画面。車とバイクが個別に追加された。
被写体認識は測距点から多少なら離れても追随してくれるので、個人的にはフルエリアよりゾーンエリアのほうが撮りやすく感じた。激しく動き回る野鳥などは追い付かないこともあったが、瞳さえ認識しれくれればバッチリとピントを合わせてくれた。
AFモードのフルエリアでは何故か左側の鳥を認識。複数に被写体が画面内にいる場合のAFモードは1点かゾーンのほうが認識対象を切り換えやすい。使用レンズ「100-400mmF4-6.3」・絞りF5.8・シャッタースピード1/2000秒・ISO200・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード。
常に動き回っていたのでなかなか認識できなかったが、一瞬止まった隙に瞳を認識したので即座にシャッターを切った。使用レンズ「100-400mmF4-6.3」・絞りF6.3・シャッタースピード1/320秒・ISO1600・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード。
撮影機能でもっとも進化したのが連写性能だろう。電子シャッターならフル解像度のRAW+JPEG最高画質でAF追従秒60コマ(AF固定では秒75コマ)、連続200枚の高速撮影が可能だ。
電子シャッターの動体歪みもわずかで十分実用的だ。なおメカシャッターでの連写速度はAF追従秒10コマ、AF固定で秒14コマになる。
秒60コマで撮影した写真をGIFアニメにしてみた。肉眼では追えない細かな動きまで写っている。使用レンズ「100-400mmF4-6.3」・絞りF4.4・シャッタースピード1/1000秒・ISO400・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード。
電子シャッターの連写で走行中の電車を撮影してみたが、歪みはわずかで気になるほどではない。使用レンズ「12-60mmF2.8-4」・絞りF4.5・シャッタースピード1/2000秒・ISO800・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード。
プリ連写復活で決定的瞬間も失敗なし
フルサイズとの共用も相性抜群だ
シャッターボタンを押してから一定時間をさかのぼって記録できる「SHプリ連写」を搭載。鳥が飛び立つ瞬間などシャッターチャンスを狙うのが難しいシーンで活躍してくれる。
かつて「LUMIX」シリーズは“6K/4Kフォト“という機能でプリ撮影は可能だったが、何故か「S5Ⅱ」や「GH6」では省かれてしまったので、今回改めて搭載してくれたのは嬉しい。
「SHプリ連写」でさかのぼって記録できる時間は1.5秒/1秒/0.5秒の3つから選択できる。
通常の連写では撮れない瞬間を写せるのが「SHプリ連写」の面白さだ。使用レンズ「100-400mmF4-6.3」・絞りF5.7・シャッタースピード1/5000秒・ISO800・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード。
使用レンズ「100-400mmF4-6.3」・絞りF6.3・シャッタースピード1/6400秒・ISO800・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード。
使用レンズ「100-400mmF4-6.3」・絞りF6.3・シャッタースピード1/5000秒・ISO1600・ホワイトバランスオート・フォトスタイルスタンダード。
「SHプリ連写」はシャッター半押し中にカメラ内のバッファに記録し続けるので、実際に撮影していなくても思いのほかバッテリーが消費する。予備の用意しておいたほうがいいだろう。
また200枚連写した後、バッファが完全に開放されるまでUHS-ⅡのSDカードでJPEG最高画質は約42秒、RAW+JPEG最高画質だと約1分43秒かかった。さらにUHS-Ⅰだとその倍以上の時間が必要なので連写撮影時にはUHS-Ⅱを推奨したい。
今回「G9PROⅡ」を試用してみて感じたのは、連写性能を引き出すために、できればメディアは高速かつ大容量のCFexpressにしてほしかった。それから、静止画重視とはいえ「GH6」には搭載していたストロボのシンクロ接点は省かないで欲しかった(自身ここ数年使っていないので文句は言えないけど)。とはいえ、一番のメリットは操作性が同じでバッテリーなどのアクセサリーも共用できる「S5Ⅱ」との親和性だろう。
常々マイクロフォーサーズとフルサイズの組み合わせは相性が良いと感じていて、例えば超望遠などのズームレンズは小型軽量マイクロフォーサーズ、ボケを活かすならフルサイズの単焦点レンズ、と使い分けることで撮影の幅が広がる。同じボディーを採用した「S5Ⅱ」と「G9PROⅡ」、きっと最良のパートナーになるだろう。