ドコモは10月14日から2日間にわたって、5Gのミリ波による高速大容量通信と、XRを融合した体験型イベント「XR絶滅動物園」を、東京スカイツリータウンで開催。それに先駆けて13日に、同社は記者向け説明会を実施した。
◆5Gのミリ波は負のスパイラルに陥っている
それを打破するためのイベントを開催
このイベントはドコモと、NTTグループでXR事業を担っているNTTコノキュー、そしてIMAGICA EEXの協力によって開催されるもの。説明会に登壇したドコモのChief Standardization Officerである中村武宏氏によると、同イベントの狙いは5Gのミリ波の活用用途を広げることにあるという。
日本の5Gは大きく分けて、4Gから5Gに転用して使っている3.5GHz以下の低い周波数帯と、5G向けとして新たに割り当てられた「サブ6」に分類される3.7~4.5GHz帯の周波数帯、そしてサブ6よりも周波数が高い「ミリ波」に分類される28GHz帯の3つが用いられている。このうち転用周波数帯は4Gと通信速度が大きく変わらない一方、5G向けの周波数帯は周波数帯域の幅、要はデータの通り道が非常に広く、サブ6で100MHz幅、ミリ波で400MHzとなることから高速大容量通信にとても適している。
だが一方で、電波は周波数が高いほど遠くに飛びにくく、とりわけ周波数が高いミリ波は遠くに飛ばず、狭い範囲しかカバーできないという弱点がある。それゆえ、ドコモもミリ波を導入したエリアはごく一部に留まっているのが実情だというが、それでも日本はまだミリ波が活用されている方。世界を見渡すと、日本と米国以外ではほとんどミリ波の活用が進んでいない。
中村氏はその理由について、ミリ波のカバーエリアが狭いことから整備が進まず、整備が進まないので端末の開発が進まず、端末が出てこないのでユースケースの開拓も進まない……と、ミリ波の弱点を起因とした「負のスパイラル」に陥っていると話す。
だが今後のトラフィック増加によって、人が多く集まる場所などではサブ6でも近いうちにトラフィックを賄いきれなくなることから、今後ミリ波の活用は必要不可欠だと中村氏は説明する。
加えて今後はXRや4K/8Kの映像など大容量を必要とするサービスが増えると見込まれているほか、6Gでより周波数が高い「サブテラヘルツ波」の活用が見込まれていることなどを考えると、現在からミリ波の活用を進めておくことが重要だ。
今後に向けたミリ波の利用促進のためには一連の負のスパイラルを正のスパイラルに変えていく必要があり、そのためにはミリ波のユースケースを増やして、徐々にでも流れを変えていく必要があるとのことで、そのために企画されたのが今回のイベントなのだ。
今回のイベントはエンターテインメント分野におけるミリ波活用の可能性を訴求するものになるとのこと。多くの人には通信速度を見せても響かないことから、ミリ波を使うとこんなことができる、という具体的な活用事例を見せることで関心を持ってもらうことに重点を置いている。社会全体にミリ波の活用を訴求して、正のスパイラルを回していきたいと、中村氏は今回のイベントに対する意気込みを見せている。
◆ミリ波の高速大容量通信をフルに活かした
3つのコンテンツを楽しめる
会場となる東京スカイツリータウンの4階にある「スカイアリーナ」には、ビルの上部に5Gのサブ6に加え、ミリ波のアンテナが設置されている。そこで説明会では100Mbpsの4K映像を、13台のミリ波対応スマートフォンで同時再生するというデモも披露され、カバーできるエリアは狭いがエリア内であれば非常に高い通信性能を持っている様子を示していた。
そのミリ波の高い性能を活かして提供されるコンテンツは大きく3種類あり、1つ目は「目撃せよ!ティラノサウルスVSトリケラトプス AR観戦」というもの。これは文字通り、ミリ波による高速通信とAR技術を用いて、CGによる恐竜同士の戦いを現実世界に呼び出すというものだ。
こうしたコンテンツ自体は4Gの通信でも提供できるというが、最大の違いはデータ量とグラフィック品質にあると中村氏は話す。4Gの環境で快適に楽しめるコンテンツを提供するうえでは50MB程度のデータ量が必要だというが、5Gのミリ波やサブ6であればより高品質なグラフィックに対応した、200MBを超えるデータ量のコンテンツを、その場でダウンロードして快適に楽しめるとのことだ。
2つ目は「救出せよ!タイムスリップレスキュー!マンモス救出大作戦」というもの。こちらは複数の人数で同時に同じゲームを体験できるというもので、参加者全員で石や槍などをぶつけて氷塊を壊し、凍ったマンモスを救出するのが目的だ。
会場ではスマートフォン10台、MRグラス(Magic Leap 2)3台を同時に接続し、同じ空間の中で参加者の位置を検知し、リアルタイムで協力してのゲームが可能。加えてスマートフォンのゲーム画面描画はデバイス上ではなくクラウドで処理されており、クラウドレンダリングされた4Kの映像を、リアルタイムで多くのプレーヤーにストリーミングしながらプレイできるという点に、ミリ波の実力が存分に活かされていることがわかる。
そして3つ目は「体感せよ!恐竜を触ろう。タッチ トリケラトプス」というもの。こちらはミリ波に加え、ドコモが開発している「人間拡張基盤」を用いて触覚を共有する「FEEL TECH」を用い、絶滅した恐竜の皮膚や角の感触を体験できるコンテンツだ。
FEEL TECHは今年2月にスペイン・バルセロナで開催された「MWC Barcelona 2023」などでも披露されたもので、半球状のデバイスを両手で持ち、映像に合わせて動かすことでネットワークを通じた触覚を共有できる仕組み。
今回のイベントではそれを古生物学者の監修の元に、恐竜に近い質感を体験できるものにアレンジしており、触覚データ自体はそれほど大きくないというが、高品質の映像と一緒にデータを送るのに高速大容量なミリ波が有効活用されていると中村氏は話している。
対応デバイスがハイエンドなど一部に限られるうえ、国内ではiPhoneも非対応なミリ波。ミリ波の実力を体験した人は非常に少ないだろう。それだけに、ドコモとしては今後全国でミリ波を活用したイベントを実施し、ミリ波の実力と重要性を認識してもらい、利用拡大につなげていく方針を明らかにしている。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります