監査法人系のデロイト トーマツ グループが、日本の起業家の教育・発掘・育成を加速し、世界に通用する起業家輩出を目指す国内最大級となるイノベーションプロジェクト「UPDATE EARTH」を開始した。その目指すところを、同社CSIOの前田善宏氏が語ってくれた。
(この記事は9月28日発売のムック「週刊アスキー特別編集 週アス2023October」からの転載です。)
何よりも大事なのはアイデアと実行力
「監査法人系のデロイト トーマツが、なぜ国内最大級のイノベーションプロジェクト『UPDATE EARTH』を主催するのか?」と不思議に思う人もいるかもしれません。
確かに、デロイト トーマツグループは日本国内売上トップの国際会計事務所であり、監査を中心業務の一つとする会計プロフェッショナルの企業です。同時に、企業の財務などを精査する業務の延長として、業務効率化やデジタル化支援、M&Aといったコンサルティング・アドバイザリー業務も幅広く展開しています。
'97年設立のデロイト トーマツ ベンチャーサポート(以下、DTVS)は、スタートアップ向けコンサルティングを多数手掛ける会社です。未来を切り拓くのはスタートアップだと信じ、彼らと並走し、ともに成長してきました。
コンサルタントとして、業務効率化やデジタル化支援を手掛けるなかで、理解したことがあります。それは「新しいものを生み出すには、アイデアと実行力が何よりも重要だ」ということです。
根幹に画期的なアイデアがなければ、変革は起こせない。「そんなの無理」といわれるくらい大胆なアイデアがエキサイティングな結果を生む。
実行力も必要です。リスクを取らなければ前進することもできません。だからこそ、スタートアップとともに私たちもリスクを取って、変革を起こす主体になろう、と決意したわけです。
アイデアを生み出すスタートアップは創造力の塊です。一方、DTVSは、彼らの創造性が現実世界とつながるよう支援する。大好きな日本のスタートアップの世界をもっと活性化し、世界に羽ばたかせるため、私たちは多彩な企画を運営してきました。
今年5月に開催したアジア最大級のイノベーションカンファレンスはその一つです。グローバルで活躍するユニコーン企業、100億円を超える調達に成功したネクストユニコーン企業をはじめ、国内外の厳選注目ベンチャー約100社が出展。海外でもメジャーなプライベートエクイティーファンドの投資家を招いたネットワーキング機会の提供なども行い1000名を超える方々に参加いただきました。
また、2013年から開始したモーニングピッチというマッチングイベントも、10年を超えて継続中です。モーニングピッチは、毎週木曜日の朝7時から、成長ポテンシャルの高いスタートアップ4~5社が、大手事業会社、メディア、VCなど100以上の企業に向けて5分間のプレゼンテーションを行う定例イベントです。累計2000社以上のスタートアップが登壇し、IPOなどの成功を収めた企業も数多く誕生しています。
日本のアイデアで海外に旋風を巻き起こす
日本国政府も「世界にはばたくスタートアップを」と訴えています。私たちも日本のスタートアップを世界に送り出したいと思っています。日本のアイデアが海外で旋風を巻き起こし、世界を変えられたら面白いではないか、と。タイミング的にも、今こそスタートアップに大きなチャンスがあると私は考えています。なぜなら、この20〜30年、世の中を一変させる技術やサービスがスマートフォン以外は登場しておらず、イノベーションが足踏み状態だからです。おそらく、今後5年の間に大きな変化が起こるはず。兆しはすでにあります。例えば、SpaceXが衛星から通信サービスを提供し、非自動車系電機メーカーがEVを発売し、さらには空飛ぶ車の実証実験も始まっています。
また、コロナ禍という不幸の中の唯一の幸いとして、デジタル技術の変革が進み、スタートアップが新サービスを展開するチャンスが格段に広がりました。スタートアップが生み出すアイデアは、変革を引き起こす素材になるはずです。私たちは、彼らのアイデアにひとエッセンス加え、ポテンシャルを存分に引き出し、大きく飛躍させたい。
私たちの仕事は、海外市場を視野に入れた業務支援にとどまりません。スタートアップが世界に飛び出すための積極的なマインドセット形成も支援します。目標は、地球をアップデートすること。地球規模の変化を起こすと同時に、地球の環境も大切にしていく。そんな思いを胸に、イノベーション創出イベントも継続して手掛けていきます。
開発中断したアイデアも発想の転換で宝になる
イノベーションはアイデアから始まる。ならば、アイデア創出の種(シード)を今まで以上に発掘したい。そのためには、日本中のアイデアやスタートアップが集まるイベント開催が重要です。
UPDATE EARTHでは、多様な人々とともにアイデアを発掘していきます。アイデアはそこかしこにありますが、育てていくのは簡単ではありません。実際、開発が中断されてしまうアイデアも少なくありません。
私は、DTVSに携わる前から、大学などで中断している研究の中にもアイデアはたくさんあるはずだ、ほかの人にとっては宝となるアイデアやヒントが利活用されていないケースもあるはずだ、と思っていました。そこで、アイデアをもっと表に出せる環境をつくりたいと考えました。
私たちはUPDATE EARTHを、自由にアイデアを集め、発想の転換を促す環境にしたい。大学で中断された研究のアイデアも、UPDATE EARTHに持ってきてほしいと思っています。
また、小中高生にもぜひ参加してほしい。無意識や常識といった大人が抱きがちなバイアスに縛られない子どもや若者は、フレッシュなアイデアを生み出すピュアな発想力に優れているからです。
私たちは、発想の転換やアイデアの活用も支援します。大事なのは、アイデアを多面的な視点で見ているか、柔軟な思考力で物事をとらえているか、思考の限界を自ら設定していないかを確認すること。
たとえて言うと、サイコロの「1」の目が見えているとき、反対側には「6」が見えている。なのに「1」しか見ない思考に陥っていないかということ。同じサイコロも別の角度から見れば「6」「3」「4」と違う目が見える。アイデアも同じです。別の角度から見れば、思いもよらない活用法が見いだせるはずです。
多種多様なプレイヤーが発想の転換を促す
UPDATE EARTHは、「あのアイデアをこのメディアと組み合わせたら新しいモノが生み出せる」「このアイデアを企業と一緒に斜めから見たら、新しい景色が見つかる」といった着想を促す場。そのためには、アイデアを持つ人やスタートアップを自薦で募集するだけでなく、アイデアを発掘しアップデートする側として他薦も受け付けます。
多種多様なプレイヤーが参加する状態が理想です。アイデアを持ち込む人、アイデアを活用してビジネスをする人、アイデアに投資したい人、アイデアの行く末を見守りたい人、あるいはESG(環境・社会・ガバナンス)を念頭に地球を良くしたいと思う人も、参加者にいてほしい。未来を創造したいという心意気のある人が集まる場にしたい。
世の中には、同じようなことを考えている人が大勢います。イノベーションやスタートアップを支援したい人も山ほどいます。志を同じくする人々が協力し合ってこそ、大きな波を生み出せる。人や事象の出会いをつくり、つなぐことは非常に重要です。
UPDATE EARTHは、オールジャパンの人々が集まる場。デロイト トーマツはまとめ役として支援を行い、世界を変える大きな力を生み出します。
コロナの規制がなくなった今こそ、始動すべき時。UPDATE EARTHは、日本一大きなスタートアップイベントであり、誰でも参加できるお祭りとして、地球規模で「この指とまれ!」と呼び掛けます。ここでできたつながりが新たなイノベーションを創造し、世界と人類をアップデートし続けていくことでしょう。
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