週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

インテルの新命令セットでついに16bitモードが廃止に

2023年08月07日 12時00分更新

 前回拡張命令の説明をしたのは連載25回なので、14年ぶり(!)である……と書いて、この連載がもう10年を軽く超えたことにあらためて気がついた。そりゃ筆者も年をとるわけだ。

 それはともかく、今回紹介するのは相次いでインテルが発表したx86(というよりx64)の拡張命令である。具体的にはX86-SとAPX、それとAVX10である。これらについて順に説明していきたい。

インテルの新命令セットでついに16bitモードが廃止に

16bitモードを廃止して64bitモードに移行する提案「X86-S」

 X86-Sは2023年4月に発表された、インテルによる16bitモード廃止に関する提案(Proposal)である。あくまで提案であって、今すぐ具体的に実装するという話ではないのだが、長期的にインテルとしては16bitモードを廃止したい、という意向を示したものだ。

 そもそも現状のWindowsの場合、64bit版では16bitバイナリーが一切動作しない。マイクロソフトでは1993年からWindows NT系列向けにNTVDM(NT Virtual DOS Machine)を提供しているが、これを稼働させられるのは32bitのWindowsのみである。

インテルの新命令セットでついに16bitモードが廃止に

32bit版のWindowsの場合、レガシーコンポーネントにDirectPlayと並んでNTVDMがあるが、64bit版ではNTVDMそのものが削除されている

 もちろん抜け道というか、なりふり構わなければ方法はあって、旧称VMware Player、今ならVMWare Workstation Playerをインストールし、ここで古い16bit Windows(Windows 95や98など)やMS-DOSを稼働させ、その上で古い16bitバイナリーを稼働させるというのが1つ。もう1つはOTVDMというエミュレーターを利用するという方法である。

 ほかにもあるかもしれないが、基本16bit環境をエミュレーターの形で動かすという話で、少なくとも正規にサポートされた方法ではないし、実際よほど古いアプリケーションをどうしても使いたいというニーズを持つユーザー以外は、16bit環境とは無縁の状況になっている。

 それにもかかわらず、実はほぼすべてのユーザーが16bit環境を利用しているのである。というのは、80286や80386では8086との互換性を保つために、電源投入時にはまず16bitモードで立ち上がる仕組みになっており、この仕組みをその後のx86プロセッサーはすべて引き継いだからだ。

インテルの新命令セットでついに16bitモードが廃止に

普通はリセットされるとまず左図のように16bitで起動し、ここから32bit→64bitに順次切り替わるが、中には32bitを吹っ飛ばして直接64bitに移行できる場合もある

 80286はIBM-PC/ATで、80386はCOMPAQのDeskPro 386でそれぞれ初採用されたが、当時のOSはMS-DOSであり、どちらのCPUも「高速な8086」として扱われたから、電源を投入したら16bitモードで稼働してくれないとMS-DOSがロードできないことになる。これは当時としては当然の実装なのだが、もうすでに16bit OSなんて影も形もなくなったにも関わらず、ブートの時だけは無駄に16bitモードが動作するという仕組みになっている。

 今回の提案はこの無駄な16bitモードでの起動を、最初から64bitモードにしてしまおうというものだ。すでに64bitモードの環境を利用しているユーザーの場合、この影響は一切ない。OSやファームウェア(UEFI)側にはこのX64-Sへの対応作業が必要になるが、アプリケーション稼働には一切関係ないからだ。

 問題は32bit OSをまだ利用している場合で、こちらは稼働しなくなってしまう(後述)。まだ32bit OSは出荷されているという状況を考えると、X86-Sを今すぐ実装するのはやや厳しいものがある。

 ちなみにこのX86-Sでの変更項目一覧が下の画像だ。16bitモードでの動作を許容していた動作モードをすべて廃止しているし、アドレッシングに関しても16bitモードはすべて廃している。加えて言えば、Intel 8259(IBM-PCで採用された割り込みコントローラー)のサポートも廃されている。

インテルの新命令セットでついに16bitモードが廃止に

単に16bitモードのアドレッシングを排除するだけでなく、32bitのring 0モードも廃止される。したがって64bit ring 0モードを利用する必要があり、これが32bit OS稼働時のネックとなる(もちろんブートローダーを64bitで記述する必要があるという問題もある)。余談だが“removing APIC support for 8529”は“removing APIC support for 8259”が正しい

 これが仮に実装されたとするとどうなるか? というと、すでに64bitのWindowsなりLinuxを利用しているユーザーにはほぼ影響がない。ブートシーケンスが異なるので、古いバージョンのOSは利用できなくなるという問題はあるが、それだけである。

 32bit OSのユーザーは? というと、これはブートできなくなる(X86-Sに対応した32bit OSというのは登場しないだろう)から、64bit環境への移行を余儀なくされることになる。そしてなにかの理由でまだ16bit環境を利用しているユーザーは、このX86-Sは利用不可能になるので、X86-S未対応のCPU(とそれが動作するハードウェア環境)をストックしておく必要があるだろう。

※お詫びと訂正:漢字表記に一部誤りがりました。記事を訂正してお詫びします。(2023年8月8日)

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事