8ピンケーブルを利用する理由
小ネタではあるが、今回検証に使用したビデオカード(GeForce RTX 4060 VENTUS 2X BLACK 8G OC)が、ゲーム中でどんな感じで電力を消費するのか、NVIDIA製ツール「PCAT v2」を利用して少し分析してみよう。
このテストではCyberpunk 2077をゲーム起動状態で放置し、その際のTBPをPCAT v2で記録したものだ。解像度フルHD、画質“レイトレーシング:ウルトラ”、DLSSなしの設定である。前述のベンチ中のTBPとは違い、人通りの多いところに放置しての計測なので、TBPの出方が若干異なる点に注意。
この検証に使ったシーンでは、RTX 4060のTBPは平均122W、瞬間最大(0.1〜0.2秒程度)では170W消費されていた。部位ごとに電力を分けて考えると、x16スロットは平均33W(瞬間的には37W)消費なのに対し、8ピンケーブルは平均92W(瞬間的には136W)消費している。
x16スロットから電力を使いすぎるとシステムの安定性に影響する可能性があるため、x16スロット経由の電力はほどほどに抑え、8ピンケーブルで不足分を賄うと考えると、6ピンでなく8ピンケーブルを使う仕様は非常に理にかなったものといえる。
RTX 4060の評価を曇らせてしまう原因は?
RTX 4060は単体で見ればフルHDゲーミングに新しい境地を開くGPUであり、AV1エンコードのような付加価値も備えている。後編最初に試したCyberpunk 2077では、DLSS FGの力を借りたとはいえ、パストレーシングを使ったゲームが楽しめるパフォーマンスをもたらした。パストレーシングがなくても、DLSS FGは消費電力を抑え、フレームレートを劇的に引き上げることができる。そして、やはり5万円台のGeForceにDLSS FGが降りてきたことも高く評価すべきだろう。
しかし、安価なGPUを求める層は、パストレーシングやDLSS FGを使用したゲームを積極的に遊ぶ層よりも「Apex Legends」「VALORANT」といった先端技術を使わないゲームを楽しむ層のほうが多いと思われる(具体的な数字はないので、あくまで筆者の肌感覚だが)。
そうした層に対し、RTX 4060はなかなか響かない。GPUの実消費電力も低いので、長時間ゲームに没頭する人ほど、長い目で見ると光熱費も低くて済むという長所はあるが、それで5万円オーバーの投資をペイするには、一体どのくらいの時間をゲームに費やす必要があるのだろうか? 消費電力が低いのは歓迎すべきことだが、それを推すのは少し無理がある。
RTX 4060に欠けているのは、旧世代の格上GPUを倒す“下剋上”感の不足である。RTX 4090やRTX 4080は前世代のハイエンドもひねり潰さんばかりのパワーがあったが、RTX 4060 Ti(8GB)やRTX 4060では旧世代に対するアドバンテージが小さい。ネイティブ解像度でのレンダリングでは旧世代よりも若干速い程度、かつDLSS FGに頼らざるを得ないとなると、RTX 4060に魅力を感じにくくなるだろう。
そして何より重要なのは、レイトレーシングやDLSS FGを必要としない層にとって、現状5万円台で使えるスペックのビデオカードがゴロゴロしているという事実だ。GeForceならばRTX 3060 TiやVRAM搭載量の多いRTX 3060 12GBが流通在庫として存在するし、Radeonの場合はVRAM 12GBのRX 6700 XTやVRAM 8GBだが安価なRX 6650 XT、そして今回の検証でも使ったRX 7600というライバルもいる。
RTX 3060 TiやRX 6700 XTといったライバルは旧世代ゆえにやがて消えゆく運命だが、市場関係者の情報等を総合すると、旧世代のライバルはすぐには消えないのでは(特にRadeon)と筆者は考えている。
こういった群雄割拠の状況の中でRTX 4060が輝くためには、DLSS FGに対応したキラータイトルが必要になるが、これもまた上手くいっていない。Cyberpunk 2077のDLCは注目だが、DLCだけでGPU人気が盛り上がるかというと厳しい部分がある。「Redfall」「The Lord of the Rings: Gollum」などリリース時点からDLSS FGに対応しているゲームもあったが、さまざまな理由から失速している。「Diablo IV」は直近のヒット作ではあるが、DLSS FGが有用になるのはレイトレーシング実装後だろう。
このようにRTX 4060にとって今は厳しい時期(円安もそのひとつ)だ。DLSS FGに関していえば、先日Unreal Engine 5.2にDLSS 3(DLSS FG)を実装するためのプラグインがリリースされた。これにより今後はよりDLSS FGを実装しやすくなったわけだが、これが芽吹くのは先の話だ。まだRTX 4060は輝ける前の段階にあると言わざるを得ない。
先行投資の意味でRTX 4060をすぐ買うのもよし、機が熟すのを待ってから買うのもよし。RTX 4060は逃げないのだ。じっくり判断しよう。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります