2023年6月15日、中国の主力ロケット「長征2号D」が41機もの地球観測衛星「吉林1号」シリーズの打ち上げに成功し、中国の衛星同時打ち上げ数の記録を達成した。各国の衛星多数打ち上げとしては米国の143機(2021年/スペースX)、インドの104機(2017年)という記録があるため、まだその数には及ばないが、そのペースはぐいぐいと上がってきている。
ロケット1基あたりの衛星数だけではない。打ち上げ回数そのものも中国は怒涛の勢いだ。イーロン・マスク率いるスペースXが毎週のように大量のStarlink通信衛星を打ち上げていることは知られているが、2022年の実績をみると米国の78回に対して中国は64回。ほとんど米国に迫る勢いで、単純計算すると約1週間に1回以上の頻度となっている。
なぜこれほど多頻度のロケット発射をもくろみ、また可能なのか。2023年の上半期がまもなく終わろうとしている今、現在の中国が掲げる打ち上げ目標の「消化率」はどうなっているのか、中国の公式レポートからみてみよう。
2022年、軌道投入に成功した宇宙機は全188機
2023年1月に発表された中国航天科技集団有限公司CASC(中国宇宙開発の中心となる国営企業)の年次報告書によれば、昨年2022年に実施した全64回の打ち上げのうち、CASCによる中国産主力ロケット「長征」シリーズの打ち上げが54回、そのほかの国営企業が10回となっている。目的とする軌道の内訳では、高度2000kmまでの地球低軌道(LEO)が59回とほとんどを占めており(うち地球低軌道の2回は実験機のため失敗)、5回が静止トランスファ軌道(GTO)だ。
さらに、軌道投入に成功した宇宙機の内訳をみると、全188機のうち通信衛星が27機、地球観測衛星が105機、科学技術試験衛星が50機。残りの6回は、ほぼ完成した中国独自の有人宇宙ステーション「天和」へと宇宙飛行士を送っている。通信衛星だけでなく、地球観測衛星の数が飛躍的に伸びている背景には、静止通信衛星の小型化、地球観測衛星のデータの利用拡大、中国独自の有人宇宙探査、月・新宇宙探査の進展、民間宇宙活動の拡大などが挙げられる。
なぜこんなに次々とロケットを打ち上げることが可能なのか。報告書の「展望」で強くうたわれているのが「中国共産党の二十大精神の全面的な実践」だ。製造強国、品質強国、宇宙開発強国、交通強国、インターネット強国として「『デジタル中国』の建設を加速させる」としており、今後も打ち上げ回数の加速を目指すという。現に2023年は、年間を通じて70回近くの打ち上げミッションが計画されている。
宇宙技術の発展はチャレンジの"数"が肝となる
もともと中国は1970年に日本に続く5番目の人工衛星自力打ち上げ国として宇宙開発を始めた。「長征1号」と技術試験衛星「東方紅」以来、これまでの経験は主力ロケット「長征」シリーズだけで475回以上。技術の基礎は、米国を追われた中国宇宙開発の父、銭学森(1911年ー2009年)が持ち帰った技術や旧ソ連のロケット・衛星技術がベースにあるが、それにも増して宇宙技術の発展はとにかく"数"が重要だといわれている。記憶に新しい日本のH3ロケット試験機1号機のように、ロケット打ち上げにおいては、1回目から10回程度までは技術的にどうしてもリスクが生じやすく、数回成功したところでまさかの失敗が起きる「6回目のジンクス」という言葉があるくらいだ。
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