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空しさで泣いた孫正義、いまはAIと壁打ちする日々

2023年06月26日 08時00分更新

AIには規制が必要なのか

 「超人類は、人類が解決できなかった難しい問題を、全知全能マシンとして、人類の代わりに解決してくれる。たとえば、事故がない快適な移動、健康で長く生きられる人生、天災で止まることがない社会を実現できる。人々が無駄に泣かなくていい、無駄に苦しまなくていい、無駄に汗を流さなくていい、食べるものは、ほぼ無料に近いぐらいの安いコストで、人々の手に渡るようになり、そこに必要なものは、ロボットが生産してくれる。病気や災害から人類を守ってくれる存在が、もうすぐ生まれようとしている。AIの進化をさらに加速することが、多くの人々の不幸を減らし、より幸せで、豊かで、自由で、楽しい社会をもたらしてくれると私は信じている」と、超人類による未来を予測する。

 その一方で、AIには規制が必要であることも訴える。

 「自動車社会が、人々に素晴らしい生産性や豊かさを提供できているのは、自動車の広がりにあわせて、速度制限や信号の遵守、飲酒運転禁止などのルールが生まれ、それによって安全な交通手段を実現できたからだ。規制がいい意味で機能している好例である。これと同様で、超知性化したAIが、間違った人に、間違った使い方をされると、とんでもないことになる。原爆よりも怖い結果をもたらすリスクもある。間違った使い方をしないような規制は議論させるべきであり、導入されるべきである。一方で、それを恐れるがあまりに、ガチガチにしてはいけない。自動車も悪いものだという行き過ぎた規制をしていては、世界は豊かにはならなかった。実際、自動車の普及が早い社会ほど、より豊かになった。AIの進化を止めてはならず、より積極的に取り組むべきである。だが、規制の議論はこれからも続け、開発者側は良心を持ち、理性を持ったAIへと進化させるべきだ」と述べた。

 総会では株主から、AIが超人類化することによって、映画「ターミネーター」のような世界が訪れることを懸念する質問が出たが、「私も、映画を見ると恐ろしいことになると感じる。しかし、人類はAIのリスクや怖さをわかっている。いまからはじめておけば安全な運用は可能である。AIが人間の道具で留まると、数%の悪い人が、悪い道具として使うリスクが出てくる。AIは人間の道具としてのレベルでなく、AI自らが規制することができるように、AIに理性を持たせることが大切である。私の発明のなかでも、それなりの数が、感情エンジン絡みのものである。AIは理性を備えることができるだろう。理性をAIに持たせることで、平和で、安全な運用ができる」と述べた。

やらなくてはならないからやることの空しさ

 株主総会のなかで、孫会長兼社長は、意外なエピソードを披露した。

 それは数日間に渡って、「大泣き」したということだ。それは悔しいとか、悲しいというものではなく、空しいというのが理由であり、残りの人生に対する焦りだったという。

 「私には、事業家として人生が、あと何年あるのか。そして、これまでの人生は、どうだったのかを振り返ると、とても空しく感じた。見えているこれからの将来を考えると、この程度で終わっていいのか。これまでやっているきたことは違うのではないかと感じた。残りの事業家としての人生は、経営者としての義務感に捉われて、やらなくてはならないからやる、という人生ではいけない。なにを一番したいのか。その結果、たどり着いたのが、自分はアーキテクトになりたいということであった」とする。

 そして、「人類の未来はどうあるべきか、ということをデザインしたり、設計したりする人類の未来のためのアーキテクトの役割を担いたい。私の力は足りなくて、ちっぽけかもしれないが、人類の未来のアーキテクトとしての役割をいささかでも果たすことができたら、もし、その絵を描いている途中で死んだとしても、ワクワク、ドキドキすることができる。これが、一番やりたかったことであると感じた。その日から、コンピュータの先の世界や、AIの先の世界を思い描くようになった」とする。

 それが発明の日々につながっている。

 「これは現実逃避ではなく、目をそらしているわけではない」と断りを入れながら、「正直に言うと、目先のお金の単位や、株価の単位については、ちっぽけなことであると思えるようになった。新30年ビジョンでは、2040年に世界時価総額でトップ10に入ることを目指しているが、これもちっぽけな目標だと思っている。何よりも人類の未来はどうあるべきか、なにが必要なのか、どうすれば未来の人々は様々な困難から逃れて、素晴らしい豊かな社会がくるのだろうかということを、純粋に考えるようになった。大泣きしたのは、そこに気がついた感動や思いついた時の興奮が背景にある。集中して、寝ても覚めてもそればかりを考え、休みの日というものがない状態になった」とする。

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