体験してわかったアップルの「空間コンピュータ」Vision Proの未来(西田宗千佳)
「かけて普通に過ごせる」ことの衝撃
じゃあ、具体的にどんなところがすごい体験なのか? 一番すごいのは「普通」であることかもしれない。空間にディスプレーやオブジェクトを配置するには、2つのアプローチがある。
光が透過するディスプレーにCGを表示して実景に重ね合わせる「光学シースルー」と、ビデオカメラで自分の視界の映像を取得し、そこにCGを重ねる「ビデオシースルー」だ。
両者はコストや安全性で棲み分けてきたのだが、課題がそれぞれ存在する。
光学シースルーはディスプレー部の視野を広げづらく、「視野の真ん中に穴があって、そこにだけCGが重なる」イメージになりやすい。
ビデオシースルーは視界を覆って全体にCGを重ねる形にしやすいが、肉眼で見ている実世界に比べ解像度が下がったり、立体感が歪んだり、手元が見えづらくなったりしやすい。
要はどっちも自然な感じではないのだ。特に、数万円のコンシューマ向け製品では、どうしても制約が出る。だが、Vision Proはそうではない。以下の画像は、基調講演で解説に使われていたものだ。現実の部屋にアイコンやアプリ、映像などが配置されている。
ARなどに興味がある人なら、似た映像は見たことがあるはずだ。「ふんふん、またイメージ映像ね」そう思うだろう。だが今回は違う。実際に体験したものは、この画像と「ほとんど同じ」だった。
ちょっと目を閉じて考えてみてほしい。今、あなたがいる空間が、上記の写真と同じようになったらどうだろう? それが本当にできていたのが、Vision Proの最大の特徴だ。
これまでにあった発想、これまでにあった見せ方を、現在考えうる最高のクオリティで「イメージ通りの形」で、製品として使えるものにしてきたことが、Vision Proが「すごい」「やばい」と言われる理由なのだ。
空間に浮かんだCGを操作する世界は、もうSFの中のものではない。
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