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アップルへの「アプリストア開放義務づけ」はなにをもたらすのか

 ITプラットフォーマーの校正競争について、各国で議論が巻き起こっている。日本も例外ではない。以前から内閣官房・デジタル市場競争本部で検討が進められてきた。そんな中、6月2日、読売新聞が「アプリストア開放義務づけへ」とする記事を公開した。記事によれば、デジタル市場競争本部での検討は6月中に最終報告がまとまり、それを元に、2024年通常国会での法案提出を目指すとしている。

 これはどのような結果をもたらすのか? 少し考察してみよう。

「アプリストア解放議論」とはなにか

 ITプラットフォーマー、特にスマートフォン上のアプリストアについては「寡占である」との声が大きい。Androidでは「Google Play」が、iOSでは「AppStore」があり、シェアのほとんどをこの2社が独占している。

内閣官房デジタル市場競争本部事務局による説明資料「モバイル・エコシステムに間する競争評価 中間報告」及び「新たな顧客接点(ボイスアシスタント及びウェアラブル)に間する競争評価 中間報告」より

 特にアップルについては、アップルがAppStore以外のアプリストアを認めていないこと、また同時に、アプリストアの審査を経ないでアプリをインストールする「サイドローディング」を認めていないことから、「閉鎖的である」との批判があった。

 特にこのことは、アプリからの売り上げに対する「手数料」問題につながる。現状、アプリからの売り上げが多い企業の場合、アプリストア決済の手数料は販売金額の30%。取扱金額が低ければ手数料比率は15%に下がるものの、「30%」について競争が起きていない、との指摘はある。また、審査基準が画一的であり、国による文化の違いへの配慮が弱く「欧米的価値観を強制される」との指摘もある。

 そこで出てくるのが「アプリストア開放義務づけ」だ。アプリストアが寡占でないなら、手数料の安さを打ち出すところが出てくる可能性があるし、審査基準の多様化にもつながる。

「セキュリティ」の担保が最大の懸念

 いいことばかりのようにも見えるが、課題も同時に存在する。一番の課題が「セキュリティ」だ。

 現状、政府が考えている「アプリストア解放」の形がどうなるか、記事だけでは明快になっていない。過去のデジタル市場競争本部の議論から考えると、方向性は2つある。

 1つは「サイドローディングを認める」こと。完全に審査のない状態でアプリを配布し、ダウンロードするだけでスマートフォンから使えるようにするものだ。これはかなり問題が大きい。同じように審査なしでソフトが配布されているPCでは、マルウェアが広がっている。スマホをマルウェアから守るには、やはり審査はある程度必要だ。

 ただ、記事からはもう1つの選択肢であるような印象を受けている。それは「他社が運営するアプリストアのインストールを認めさせる」というものだ。

 審査をゼロにするのではなく、AppStore以外のストアも認め、そのことによって「別々の方針で運営されるアプリストア同士が競合状態を作る」という形だ。読売新聞の記事には「新たな規制では、アプリストアに他の企業が参入できるようにする」との文言があり、どうもこちらである可能性が高い。

 事実、デジタル市場競争本部の非公開会合では、携帯電話事業者などにアプリストアへの参入余地を認める検討がなされているので、その点を考えても可能性は高い。

 だが、こちらにも実効性の面での疑問はある。Androidでは複数のアプリストアが併存しているが、競争はほとんど起きていない。それどころか、収益面・利用量の面でGoogle Playに競合するアプリストアは存在できていない。そのくらい難しいビジネスなのだ。

 フィーチャーフォン時代のように、携帯電話事業者が決済の窓口になる仕組みを復活させるなら、この方向しかなかろう。だがそうなると今度は、体力の弱いMVNOが一方的に不利な状況になる。「公正競争」という面では、別の課題が生まれることになる。

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