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ロボットかパートナーか? 未来の世界の犬型ロボット「AIBO」が残した功績とは

2023年04月03日 12時00分更新

現代科学の粋を結集した
犬型ロボット「AIBO」爆誕!

 その日は突然やってきました。

 ソニーは、ロボットによるエンタテインメント市場を創造するとして、20世紀末、21世紀目前の1999年、家庭で楽しめる4足歩行型のエンタテインメントロボット「AIBO」を発表。今までアニメの世界でしか見たことのなかった四足歩行のロボットが現実のものとなりました。

初代AIBO「ERS-110」

 ただし、操作したり何かを手伝わせるためのロボットではなく、一緒にすごせるパートナーとしてのペット型ロボットでした。

 オーディオ・ビジュアルを専門としていたソニーが、ロボット産業に進出!? という驚きとともに、PlayStationやVAIOを生み出すイノベーションを持ち合わせた会社だから、それもしかりだよねと納得。それより重要なのは、25万円という高額ながらたったの5000台限定で、そのうちアメリカ2000台、日本が3000台という狭き門をいかにしてかいくぐり手にいれるのか? という事です。

 注文方法はホームページで受付、といいつつも時は1999年。光回線はおろかADSLもなく、あの激遅のダイヤルアップ回線という中での争奪戦だったのです。予約開始時間になると案の定アクセスが殺到して、買える気配もなくあっという間に販売終了。なんてことだ! と悲観していたら、PCに長けている友人があっさり確保してくれて、結果オーライで無事ゲット!

 手元にやってきた初代エンターテインメントロボットAIBO(ERS-110)と感動の対面を果たしたのでした。

外見からは想像できないほど
犬っぽい動きに感動

 直線的でシルバーに輝くサイバーなボディーでありながら、ペランとたれた耳やその顔の面持ちから、足やしっぽにいたるまでが洗練されたデザイン。本物の犬とは似つかない犬型ロボットというビジュアルからは想像もつかないほど、動き出すと犬っぽくもあり愛嬌のあるペットの動きでした。

動きは本物の犬のようで感動

 足や首、尾、上あごに18個のモーターが組み込まれて、自由自在な関節の動きを再現しています。ガジェット好きからみれば、4足歩行の自律型ロボットが目の前で動いているだけでも感動モノです。もちろん歩行するだけでなく、AIBOには喜びや怒りといった感情や本能が備わっていて、飼い主とのやりとりによって、自律的に行動します。頭の黒いキャノピー部分に、自分の機嫌によってグリーンに目が光り喜んだ表情をしたり、赤く光って怒りの表情をしたり。ワンワンとは鳴くことはなく、ピーヒョロローという電子音で自分の感情を現します。

 しかも学習・成長していく機能もそなえているので、褒めたり叱るといったコミュニケーションをとっていくことで、それぞれに性格や行動パターンをもつ個性をもったAIBOを育てるという醍醐味も味わえました。

 AIBOの中身はまさにソニーの技術の結晶だったのです。内蔵センサーとして、頭部に18万画素のCCDカラーカメラ、音声コマンド入力や音源の方向も検出に対応するステレオマイクと出力スピーカー、 物体までの距離を測る赤外線方式測距センサーなどを搭載するだけでなく、胴体部には抱き上げた時やバランス維持、転倒などの平衡感を検出する3軸型加速度センサー、抱きおろした時を検出する角速度センサー、そして頭と足には物理的刺激を検知するタッチセンサーが搭載され、頭を叩いたり撫でたりされることがわかるのです。また、音を聞き分ける聴覚は、音の組み合わせによるサウンドコマンダーでAIBOを指示どおりに動かすこともできました。

AIBOになるまでは波瀾万丈だった

 ただ、最初から開発が順調だったわけではなく、試行錯誤の連続でした。1993年に開発された試作機は、製品版のAIBOからは想像もできない、足が6本ある昆虫のようなロボットからのスタートしたのです。その後、1997年頃にようやく4足歩行できる動物のような試作機ができあがり、そこに画像認識や音階認識、感情といったアルゴリズムが組み込まれていったそうです。

 プログラムの交換や追加がカンタンにできるという事を想定して、ロボットを構成するアーキテクチャとして「OPEN-R」という技術も開発されました。

 その後、1998年の「ロボカップ98」でお披露目され、その翌年にAIBO誕生にまでこぎつけたのでした。

独自OSやメモリースティック採用で
すべてがソニーの技術だった

 今では想像もつきませんが、ソニーが独自化初したリアルタイムOS「Aperios(アペリオス)」なるものも採用され、独自の記録媒体「メモリースティック」にAIBOを動かすためのプログラムや学習成果、成長データといったものを記録するなど、まさにワンソニーだったのです。エレクトロニクス技術から、ロボット技術、ソフトウェア開発、人工知能にいたるまで「ソニーの技術は世界イチィィ!」筆者は何の疑いもせずそう信じていました。

 これなら、二足歩行ロボットもそう遠くない未来に発売してくれるんじゃ……という期待に応えるかのように、2000年には二足歩行で動く身長50cmの小型ロボット「SDR-3X」が登場します。2003年にはQRIOという名前をもった試作機まで発展したのですが、その後の事業不審により、AIBOは2006年に生産終了、QRIOも開発中止となってしまったのでした。

二足歩行ロボット「SDR-3X」

SDR-4X II改め「QRIO」

 しかし、AIBOのオーナーはただの無機質なロボットとしてではなく、大切なパートナーとして接するという文化を生み出しました。生活をしていて傷がつけばそれはただの傷ではなく、我が子が怪我をした証であって、修理して治すものではないという想いや、壊れて動かなくなってしまうとそれは愛犬が亡くなったことに等しいほどに悲しみました。そして2014年にソニーのサポートが終了したため、永遠の命を与えられたはずだったAIBOにお別れがやってくることになりました。

 事業的には失敗だったのかもしれませんが、「ペットロボット」の存在意義を示したAIBOだったのです。その後、ソニーは再びロボット事業に戻ってくるのですが、それはまた別のお話で。

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筆者紹介───君国泰将

ソニー(とガンダム)をこよなく愛し、ソニーに生きる男・君国泰将氏

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