独自技術360SSMに対応、リアスピーカーもワイヤレスでつながる!
ソニー、センター/リアスピーカーの不満を解消する新AVアンプ「STR-AN1000」を発表
ソニーは7.ch対応のAVアンプ「STR-AN1000」を3月18日に発売する。価格はオープンプライスで、実売価格は12万円前後になる見込み。
360 Spatial Sound Mappingにも対応した「D.C.A.C. IX」
STR-AN1000は「STR-DN1080」の後継製品。最大の特徴は、ホームシアターシステムの「HT-A9」やサウンドバーでも採用されているソニーの独自技術「360 Spatial Sound Mapping」を採用した初めてのAVアンプであること。360 Spatial Sound Mappingは、実際に置かれているスピーカーの音を合成して、理想的な配置のファントムスピーカーを作り出す技術だ。
リビングシアターでは、スピーカーを置く場所の確保がひとつの制約になる。360 Spatial Sound Mappingを使えば、リスニング位置から均等な距離/適切な角度にスピーカーを置けない場合でも、その音の合成で最適なスピーカー配置にしたのと同等のサラウンド再生ができる。ファントムは幻や幽霊など実体のないものを示す言葉だが、実際にはない場所に本当にスピーカーを置いているような感覚が得られるため、こう呼ばれている。
STR-DN1080の自動音場補正「D.C.A.C.EX」(D.C.A.C.はDigital Cinema Auto Calibrationの略)では、フロントスピーカーを中心に各スピーカーの位相を合わせ、サラウンドスピーカーとのつながりを改善する「A.P.M.」(Auto Phase Matching)に加え、理想の位置・角度にスピーカーの音源位置を再配置する「スピーカーリロケーション」や5.1chシステムで7.1chのスピーカー配置を再現できる「ファントム・サラウンドバック」といった機能を提供していた。
STR-AN1000が搭載するのは、このD.C.A.C.EXを進化させた「D.C.A.C.IX」だ。後述するように、高さ方向も含んだ音場補正のための正確な計測が可能で、360 Spatial Sound Mappingの技術も取り入れて強化している。いわば「ファントムスピーカー技術の最新版/統合版という位置付けになっている」という。
画音一致を追究、3次元的な補正が可能に
“画音一致”はサラウンド再生において非常に重要なポイントだ。STR-AN1000の開発に当たっては「スクリーンより奥に音場が広がるようにしたい」という開発方針のもと、スクリーンの高さに合った定位にも配慮している。
そのためにはディスプレーやスクリーンの位置までアンプ側が知っている必要がある。この考え方を取り入れ、スクリーンセンターの高さを手動で打ち込む設定項目が用意されている。
また、自動音場補正の測定も“耳に近い位置”とそれよりも“やや低い位置”で信号を2回計測する手順にしている。高さ20cmほどの付属スタンドには上部と下部に専用のステレオマイクを取り付けるスペースがあり、上部には正面に向けて固定するためのガイド、下部には90度左右に回転したガイドを設けている。高さと方向を変えた計測によって3点測量の精度を高める仕組みだ。
D.C.A.C.を使った従来の自動音場補正は、水平方向を意識した2次元的な測定だったが、D.C.A.C.IXは高さの情報を含む3次元的な測定だ。結果、距離、音圧、周波数特性、角度といったスピーカー配置に関する情報を把握でき。適切な音場補正につなげられる。
また、「センタースピーカーリフトアップ」という補正も可能となっている。映画館などではスクリーンの真後ろにセンターチャンネルが置かれているが、ホームシアターでは画面より低い位置に置かれることが多いため、セリフが下から聞こえてしまう場合がある。こうした違和感を信号処理で軽減する。センタースピーカーリフトアップでは、出音を画面の高さに合わせるため、センターチャンネルの情報を、フロントハイトスピーカーなどにも割り振り、音の定位する高さを持ち上げる調整を加える。
なお、センタースピーカーリフトアップや360 Spatial Sound Mappingで、高さを意識した調整をするためには、ハイトスピーカー、トップスピーカー、イネーブルドスピーカーなど、リスナーよりも上方で音を出すスピーカーの設置が必要になる。
ブラビア連携などソニーならではの快適性も
リビングシアターではプロジェクターではなくテレビを使う場合も多いため、ブラビアとSTR-AN1000の連動性も配慮している。ひとつが「アコースティックセンターシンク」だ。サウンドバーの上位機種でも採用されているが、“ブラビア XR”シリーズと組み合わせた際、ブラビアのスピーカーからもセンターチャンネルの音が鳴り、画面の高さに合ったセリフの再現が可能になる機能だ。
また、ブラビアと接続した際には「クイック設定」メニューの中に、STR-AN1000の設定に関するアイコンも追加される。クイック設定は、ブラビアの付属リモコンを操作することで画面下部にポップアップするテレビ設定の変更メニューだ。ここから「360 Spatial Sound Mappingのオン/オフ」や「サウンドフィールド」の切り替えが可能となる。なお、STR-AN1000の音量はHDMIコントロールによってテレビリモコンで調節できる。つまり、ブラビア XRとSTR-AN1000の組み合わせであれば、付属リモコンに持ち替えず、テレビリモコンだけで主要な操作が完結することになる。
リアスピーカーはワイヤレスにできる
また、ソニー製機器との連携という面で面白いのは、STR-AN1000を中心としたシステムに、サウンドバー用のワイヤレスリアスピーカーやワイヤレスサブウーファーを追加できる点だろう。
対応しているリアスピーカーは「SA-RS5」または「SA-RS3S」(1組)、サブウーファーは「SA-RS5」「SA-RS3S」(最大2台)だ。サブウーファーを2台接続する場合は同一機種であることが条件。また、2台をつなげば広い部屋でも低音を増強できるが、出る音は同じになるので、フロントスピーカーの低域部分を取り出して左右別々の音を鳴らすといった使い方はできない。
ワイヤレス接続の利点は、スピーカーケーブルの配線がシンプルになる点。また、使用するときだけ使い、あとは片づけることもできるので、スペースに制約があるリビングで手軽にホームシアターを実現するのに役立ちそうだ。
デジタル回路も一新、高性能なSoCを中心としたシンプルな構成に
機能や内部についても進化が見られる。大きなところでは高性能な32bit SoCの搭載がある。従来は32bitのDSPを3つ搭載し、役割別に使用していたが、STR-AN1000はHDMI、USB、ネットワークなどから入ってきた音声信号を1つのチップで処理し、デコードやEQ処理、複雑なD.C.A.C.IX(360 Spatial Audioを含む)の音場補正処理を適用したうえでDACに渡すシンプルな構成に変えている。
HDMI端子は6入力/2出力を装備。入力/出力の各2系統は8K60Hz/4K120Hzに対応している。4K/8K放送のMPEG-4 AAC音声のデコードも可能だ。8K対応をするために、デジタル系の入力回路を一新しており、デバイスや回路を変更。放熱用のヒートシンクの形状も見直しており、フィンの長さを不均等にして共振がしにくいものになった。
HDMI端子はHDMI 2.1のスペックのうち、ALLM(低遅延)やVRR(リフレッシュレートの最適化)をサポート。対応フォーマットとしては、Dolby Vision、IMAX Enhancedなど最新の規格に加え、360 Reality Audioの再生にも対応する。
スピーカー出力端子は7系統。右側の2つはフロントハイトスピーカー/トップスピーカー/ゾーン3接続用に利用できる。サブウーファー出力は2系統あるが、同一信号の出力のみとなる。このほか、アナログ入出力、光/同軸のデジタル音声入力も持つ。なお、HDMI映像入力はアップスケールに対応するが、アナログ映像入力のアップスケールは非対応だという。
本体には有線LAN端子やWi-Fi機能も装備。ネットワーク再生機能は「Work with the Google アシスタント」「Chromecast built-in」「Spotify Connect」「AirPlay 2」「works with SONOS」「Roon Tested」に対応。このうちworks with SONOSは、北米市場で需要が高い機能だという。ネットワークスピーカーの開発で有名なSonosのアプリを使って音楽再生の操作ができる。Roon TestedについてもPCと連携した音楽再生がしやすいため、海外を中心に人気がある。AVアンプは国内よりも海外市場での人気が高いが、海外のニーズに配慮しつつ、のちのち国内での需要も高まりそうな機能は積極的に入れているそうだ。
設定で使うGUIもシンプルで分かりやすい構成になった。また、スマホからの操作も可能で、ソニー製品の設定や操作ができるアプリ「Music Center」が利用できる。スマホ操作はテレビが必要ない操作、例えば、前面端子にUSBメモリーを差し、その中の音源を再生したいだけの場合などに便利だという。
本機は最大11.2MHzのDSD(従来の5.6MHzから改善)と最大192kHz/24bitのPCMに対応。マルチチャンネル音源にも対応するが、11.2MHzでは2chまで、5.6MHzでは5.1ch、WAVでは7.1ch、FLAC/AIFFでは5.1chという制約がある。360 Reality Audioに対応した音源はスマホからキャストして再生する。Amazon Musicに契約しているのであれば、「Amazon Music」アプリからネットワーク上のSTR-AN1000を探し、キャストする形だ。空間オーディオコンテンツを手軽に楽しめるのも魅力的だ。圧縮音源をAI解析によりハイレゾ相当(192kHz/32bit)にアップスケーリングする「DSEE Ultimate」などソニー独自の音楽再生機能も利用できる。
筐体は幅430×奥行き331×高さ156mmで、重量は10.3kg。STR-DN1080と同等サイズだが、FBシャーシは継続しつつさらにハリを入れて強化しており、全体に重量が上がったという。奥行きは抑えており、テレビラックなどにも収納しやすいサイズだ。FMチューナーも搭載している。
リビングシアターが身近になる
STR-AN1000は、2020年12月に急遽生産を完了した「STR-DN1080」の後継製品として、予定を前倒して開発。STR-DN1080はDolby Atmosへの対応など、十分な機能を持ちながら手軽に買えるロングセラー機として支持されていたが、部品調達などの関係で継続が難しかったようだ。
そんなSTR-AN1000の開発には苦労があった。コロナ禍とそれに続く部品供給の不足があったためだ。音質調整には部品を絞り込み、試聴を繰り返す必要がある。開発には時間がかかるため、検討当初には在庫があり、音質的にいいと思った部品に決めたとしても、すでに部品が手に入らない状況であることが分かり、設計変更を余儀なくされるといったこともあったそうだ。
発表に合わせて、「SS-CS3」など、CSシリーズのスピーカーと組み合わせた、5.1.2chのデモを聴くことができた。360 Spatial Sound Mappingの効果は明確で、空間の表現が全体を通して広くなるとともに、セリフと音楽や効果音の分離感が上がってクリアな感じになる。CSスピーカーは1本2万円程度で高価なスピーカーではないが、立体感や表現力が高く、大画面のスクリーンにも見劣りしない、満足度の高い再生だった。
Dolby Atmosのデモディスクに入っている「Amaze」では頭上から降り注ぐ雨など、ドラマチックな自然の表現が印象的だし、映画ではセリフがスクリーンとぴったり合って没入感が高まる。Official髭男dismのアリーナライブ映像、雪山の嵐を表現した「エベレスト」や「トップガン・マーヴェリック」のドッグファイトシーンなど、音楽・効果音・声の明瞭感と方向感が自然かつ迫力を感じられた。
最近ではテレビの大画面化も進んでおり、70インチ以上の製品の売上も上々とのことだのが、リビングホームシアターでは画の迫力に対して音が負けている面もある。リビングでも広いステージ感を楽しめ、これまでのAVアンプやサウンドバーとはひと回りもふた回りも違うコンポーネントオーディオならではの体験を提供するのがSTR-AN1000だ。奥行きがコンパクトでテレビ台にも設置しやすいサイズ感もよく、ブラビアと一緒にリビングシアターの価値を高めるのに最適な機種に感じた。
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