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IT業界で稼げなかったら建設業界に行こう! 清水建設がベンチャー投資に本気

2023年02月28日 11時00分更新

 清水建設にはフロンティア開発室という、およそゼネコンらしからぬことばかりしている部門がある。海に巨大なコンクリートの塊を浮かべてビルを建てようとか、月の砂で建設物を作ろうなどとベンチャーのようなことばかりしているのだ。

 さらにフロンティア開発室にはベンチャー投資をする部署もあり、100億円規模の投資計画を立てている。老舗大手の強みを活かし、投資をするだけでなくベンチャーと取引先をつなぐパイプ役にもなっているというから面白い。

 建設業界のビジネスは数十年単位で続いていく。数年単位でニーズが移り変わるIT業界と比べて長期の利益を出しやすく、経営を安定させる収益の柱にもなりそうだ。

 しかしどうしてゼネコンがベンチャーなのか。新しいものと聞けばすぐに首をつっこむことに定評のあるアスキー総合研究所の遠藤諭が、清水建設 フロンティア開発室 ベンチャービジネス部の田地陽一部長、村井庸平課長に話を聞いた。

清水建設がベンチャーに投資するワケ

── いつごろから投資をしているんですか?

田地 2015年10月にユーグレナから組成されたリアルテックファンドに10億円、2016年にシリコンバレーのVCであるドレイパーネクサスベンチャーズ(現DNX Ventures)に1000万ドル(当時約11億円)を出資して、ベンチャーの目利きの勉強をスタートしたのが始まりです。結構大きな額でしたが、それくらい出資しないとエコシステムに入れないと判断して。特にリアルテックファンドでは投資委員会にオブザーバー参加もしながら、ベンチャーのどういうところを見るのか勉強してきました。スタンフォード大学のお膝元、パロアルトに事務所を構え、人を派遣して情報を取ってくる体制にして。3年経ってちょっと南のサンノゼに事務所を移しました。今は9名程度で国内外の両にらみでやっています。

清水建設 フロンティア開発室 ベンチャービジネス部 田地陽一部長

── ファンドだけでなく自社でも出資しているんですよね。

田地 出資を通じてだいぶ目利き力もあがってきたところで、2019年5月、中期経営計画<2019-2023>を発表し、次世代の建設技術や地球規模の課題解決型新規事業への投資を5〜10年やっていこうと宣言しました。VCへの出資で経験も積んだため、今度は自分たちでベンチャーに投資したいということになり、2020年4月には10年間で最大100億円という投資枠を作ってコーポレートVCの仕組みを立ち上げています。

── そもそもなぜゼネコンがベンチャー投資なんですか?

田地 企画、設計、現場でモノを作って得意先に建物を引き渡す、そうしたことを一気通貫でやるのがゼネコンですが、それぞれの工程で人手不足もあり、どうやったら生産性の向上につながるかということも課題になります。そのためには既存技術を改良したり、ベンチャーのようにまったく新しい技術で置き換えることが大事になってきます。そのときにどういうベンチャーと一緒にやれば共に大きくなれるか。それをどう社内にマッチングするかということを考えながら目利きをしている形ですね。

── 目利きというのはどこを見るんでしょう。

田地 やっぱり人になりますね。うまくいっているところはチームがしっかりしていますし、魅力的な人がそろっているのが要素になります。

── 建設会社ならではの難しさはありますか。

村井 建設はハード(建築物)を伴う会社なので、ベンチャーのように数年単位で消えていくモノをただ実装していくだけでは無責任になってしまうということですね。(建設とベンチャーでは)昆虫と大型動物の時間くらい違いますから。

清水建設 フロンティア開発室 ベンチャービジネス部 村井庸平課長

── シリコンバレーの人は日々いろんな人に会ったりでうらやましい感じですね。向こうではIT系と建設系の世界に境目はなく、あらゆるジャンルがごちゃごちゃなんですか。

村井 ごちゃごちゃですが、みんなお金を取りに来ています。当時はIBMのワトソンがブームで、AIをサービスに実装したらどうなるかという話が出ていましたが、ピッチでピカピカの話を聞く一方、後から「裏ではこういうトラブルがあるんだ」という話を聞いたり。シリコンバレー村にいるとそういう表と裏があることもわかりました。

── レストランとか酒場で聞くみたいなね。そういう食堂があるとも聞きますね。自分たちでもそれをやっていくと。

村井 勉強だけではなく、向こうのベンチャーの情報を取りながら実証をやって、うまくいったら事業開発につなげていくということですね。

── 協業とかではなく出資をするのだと。

村井 大きな事業会社同士だったら出資関係になることはありませんが、相手がベンチャーだとヘタしたらつぶれてしまいますし、こっちを向いてくれることもありません。数ある事業会社の中でこちらを選んでもらうためにも、枠組みを持っていないとベンチャーとはやりづらいと思っていたのでこういうところにつながったわけです。

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