国内レースカテゴリーのひとつ、スーパー耐久シリーズは、開発車両が参戦するST-Qクラスの誕生により、各自動車メーカーの実験場と化している。その中で、マツダもバイオ燃料を使う開発車両をサーキットに持ち込んでいる。そこで、このバイオ燃料のお話を聞きに、スーパー耐久シリーズ最終戦の舞台である鈴鹿サーキットに足を運んだ。
マツダ流カーボンニュートラルへの挑戦
マツダは約2年前から「マツダ・スピリット・レーシング」を発足し、スーパー耐久シリーズに参戦している。「マツダ・スピリット・レーシング」については別記事(マツダが約30年ぶりにレースに復帰! eスポーツからのドライバー育成も狙う)を参照してもらうとして、軽油の代替燃料とはどういうものかを尋ねることにしよう。
話をうかがったのは、カスタマーサービス本部の松崎庸輔氏。マツダ・スピリット・レーシングの中核を担う人物だ。「これはスーパー耐久シリーズに参戦するきっかけにもなったんですけど、2021年11月の最終戦から、カーボンニュートラルへの挑戦ということで、化石燃料を使わないバイオ燃料を使い、MAZDA2で参戦しています」。
バイオ燃料は、勘違いしやすいが、二酸化炭素を排出しない燃料ではない。植物や動物などの生物資源(バイオマス原料)から製造される。生物資源は光合成により大気中の二酸化炭素を取り込んで活動する。よって、生物資源から製造された燃料を燃やした時に排出される二酸化炭素は、あらかじめ大気中に取り込んだものを戻しているだけ、ということになる。よって二酸化炭素量が今以上に増えないという考えだ。
カーボンニュートラル燃料(バイオ燃料)での参戦というと、トヨタがGR86で、SUBARUがBRZで参戦をしている。それらとMAZDA2の違いはどこなのだろうか? 「マツダは、ディーゼルエンジンで挑戦していて、軽油の代替としてバイオディーゼル燃料を使って参戦しています」とのこと。マツダと言えば、クリーンディーゼルなので合点がいく。では、実際どんな燃料なのだろうか。
「ユーグレナ社が製造するもので、藻から抽出した油脂と使用済みの食用油が原料です。これらをベースに、軽油に代わる燃料になります」。ユーグレナ社は、2005年に世界で初めて石垣島で微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養技術の確立に成功した企業。石垣島で生産したユーグレナ・クロレラなどを活用した機能性食品、化粧品等の開発・販売を行なうほか、バイオ燃料の生産に向けた研究を行なっている。同社は2020年にバイオディーゼル燃料を、2021年にバイオジェット燃料の供給を開始している。
使用済みの食用油というのは、たとえばコンビニのホットスナックを作った後に出る廃油で、その割合はかなり高いようだ。「ですので、我々はバイオディーゼル燃料でクルマを動かすために、一所懸命コンビニでホットスナックを食べないといけませんね」と笑う。
そのバイオディーゼル燃料だが、従来の軽油から置き換えることは簡単なのだろうか? 「市販車が搭載するコンピューターの燃料マップを変更するだけで、バイオディーゼル燃料を使えます。現在はレース参戦での耐久品質テストのほか、将来実際に供給が始まった際に備えて、軽油との混合やバイオディーゼル燃料100%での対応などを開発しています」
気になるのはコスト。「現時点でバイオディーゼル燃料は相当高いのですが、2025年には大型のバイオ燃料製造プラントができると聞いています。そうしたら、少し手の届きやすい価格にまで下がるのではないでしょうか」。EV車は静かトルクフルと魅力だが、充電時間の問題があり、長距離移動を考えると課題は多い。またモータースポーツやスポーツカーといった趣味性の高い用途に関しては、サウンドなどの面で不満が残る。
多くの自動車メーカーがEVシフトをする中、マツダはEV時代への移行期間には、内燃機関、電動化技術、代替燃料などさまざまな組み合わせを考えているというわけだ。
「1年間MAZDA2で参戦・実験をして、今回からMAZDA3という、もっと大型のモデルで、スピードなどの面でもMAZDA2より上のモデルを投入しました」と、ステップアップを果たした。MAZDA3の初戦はトラブルに泣かされたが、その多くは駆動系の様子。
エンジニアに話をうかがうと「バイオディーゼル燃料は燃えやすいので、パワーが出やすいんです。それが色々な場所に負荷を与えているようです」なのだとか。その話を聞いて、勝手にバイオ燃料に変わると出力が落ちると思い込んでいた筆者は、なぜか安心してしまった。
「トヨタさんも色々と試されていますよね。オールジャパンでカーボンニュートラルという道を乗り越えたいですね」。趣味としてのクルマの、そしてモータースポーツの未来は明るい気がした。
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