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私→WRC

第33回

ラリージャパンでリタイア寸前からの完走! 梅本まどかが語るコースオフの裏側

2023年01月28日 12時00分更新

 ASCII.jp読者のみなさん、こんにちは! ウェルパインモータースポーツのコ・ドライバー、梅本まどかです。前回に引き続きラリージャパンについてお伝えしていきます。

今回もヘッドセットは大活躍でした!

まさかのコースアウトから
どうやって復帰できたのか?

 前回お伝えしたとおり、ラリージャパンはRC4クラス3位で完走したのですが、実は最終日にリタイアしかけた場面があり、簡単に走りきったワケではありませんでした。今回は私たちのラリージャパン一番の危機だったSS18のコースオフについてその裏側をレポートします。

 ラリーウィークはテスト日からずっと晴れが続き、雨予報が心配されていたのは最終日の日曜Day4のみ。1週間前から雨予報だったので、「最終日だけウェットかな」と思って準備していました。実際にラリーウィークの天候は予報通りに進行していき、雨に降られる事はなく最終日を迎えました。

ギャラリーSSの夕焼けが綺麗でした

 朝起きてみると、意外と晴れていて「あれ? いけそう!」と思える雰囲気。ですが、この日のアイテナリーはお昼にサービスが設定されておらず、朝サービスを出発したらそのまますべてのSSを走り切らなければならないので、念のためウェットタイヤ2本スペアに積んでスタートしました。

このあとに何が起こるのか、まだ知らない2人

 午前中は雨が降らずに、お天気が晴れのままキープしてくれました。午後になってちょうどリフューエル(給油)のタイミングで雨がパラパラ降りはじめたため、どこかでタイヤを交換しようとあたりを見回すと、ガソリンスタンド奥に屋根付きの広い場所を発見! 時間にも少し余裕があり、屋根付きの平らな場所でタイヤ交換できるなんて運がいい♪ とすら思っていて、ここまで不安なくホントにいい流れでした。

タイヤをしまう村田選手

雨が降ってきましたよ

雨が強くなり、路面には水たまりが
ハイドロプレーニングが襲いかかる!

 フロントにもウェットタイヤを履かせてSS18の恵那に向かうと、どんどん雨足が強まっていきます。それでもウェットタイヤも履いたし、落ち着いていこう! と気合いを入れ、いざスタート。スタート後1つ目のコーナーで右に90度の直角を曲がるのですが、そのコーナーの水たまりを通過するとフロントガラスに大きな水飛沫が。

 「ん!? これは、思っていた以上の雨なのかも」

 シート位置の関係で前方が見えない私にも、はっきりと見えるくらいの水飛沫と勢いに少し驚きましたが、でも大丈夫だと自分に言い聞かせ、心を落ち着かせながら進んでいきます。10kmを過ぎたあたりで登り坂を走り「フィニッシュまであと半分くらいあるな」と思っていた時に「あ、やべ」と隣から声が聞こえてきました。

 普段からよく独り言を発しながら走る村田選手ですが、落ち着いてはいるものの、ネガティブな言葉は初めて。これはリタイア? と頭によぎりました。

 しかし、「あ、やべ」の理由はハイドロプレーニングで、左コーナーで曲がれずそのまま右側の側溝に落ち、コースアウト。登り坂で私は前が見えない状況だったので、直後の詳細はわからなかったのですが、コースアウトした瞬間の衝撃は「もしかしたら出られるかも」と思う程度のものでした。

 大きなアクシデントではなさそうな感じは伝わってきて、とりあえず私がやるべきことをすぐに考えて覚悟しました。コースオフした際にやるべきことは、後方車に自分たちの状況を伝え、安全に通り越してもらうことと、GPSトラッキングシステム「Rally Safe」の画面に表示される「SOS」と「OK」のボタンのいずれかを押すことです。

 少しの間、村田選手がコースに復帰しようともがいてくれていたのですが、状況は少し厳しそう……。クルーの無事や状況を伝えるため、SS内で車両停止後1分以内に「Rally Safe」に表示されるボタンを押さないと、罰金ペナルティー(しかも10万円以上だとか……)があることは監督から何度も言い聞かされてました。

罰金か……

 このままじゃ、罰金10万円以上になってしまう! 頭の中で「10万、10万……」と焦りながらも、私のシート位置からはボタンには手が届かずもがいていたのですが、村田選手に「OK」ボタンを押してもらい、次の行動に切り替えました。

松井監督のワンポイント解説

 クルーが無事でさらに車両火災などがない場合は「OK」ボタン、クルーに救助が必要なレベルの怪我や車両火災が発生してしまった場合は「SOS」を押さなければいけません。このGPSトラッキングシステム「Rally Safe」のOK or SOSは、ラリー管制担当のFIAスタッフや日本側のコース担当者にも即時伝わり、コース上のオフィシャルに対処方法が通達されます。

 2~3分おきにスタートし、全開走行中のラリー車両が、SS内に複数台存在することが当たり前のWRCにとって、GPSトラッキングの操作は安全性に直結する大切な要素なのです。そのため、クラッシュやコースオフしたクルーたちが「Rally Safe」の操作を的確に行なうことは義務であり、怠るとそこそこ高額なペナルティーが発生するのです。

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