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「AIトレパク」が問題に

2023年01月25日 09時00分更新

3DアバターのVRMのスクショアプリ「VRM Posing Desktop」を使いVRMで画像(左)を作成後、Stable DiffusionのWebUIでimg2imgを行ってイラスト風の画像(右)を生成したもの。(画像:筆者作成)

 画像生成AIの「img2img」が議論を起こしています。

 img2imgとは、画像生成AIの機能の1つ「Image-to-Image」の略称。画像を読み込ませて、テキストで指定するプロンプトと合わせて画像生成すると、元となる画像のイメージを踏襲した画像を作ってくれるという機能です。

 たとえば3DアバターのVRMデータを読み込ませるだけでアニメ風の絵が生成されます。パラメーターの設定次第ですが、元のキャラクターの特徴もそのまま踏襲させることが可能です。元となる画像を用意することで、同じ顔つきのやポーズの画像が生成を容易にすることができるわけですね。

 この原理を応用して、たとえばMMDで制作した初音ミクの3Dの動画ををコマ単位で分割して読み込ませ、バッチ処理をかけてアニメ風のPVにするなどという新しい使い方の例もいくつも登場してきています。

img2imgによる「トレパク」疑惑

 img2imgは非常に強力な機能なのですが、強力なだけにトラブルも出てきてしまっています。たとえば1月1日に、あるAI絵師がTwitterで、AI絵師の地位を向上させるために100人ほどからAI画像を集めて画集を出そうという企画を出したことがありました。企画は多くの賛同者を集めることができたために、実際に始まろうとしていました。

 ところがその後、その人が発表していたAI画像は、他人が描いたイラストを左右反転させて、img2imgで変換して生成しているだけではないかという指摘が入ったんですね。画像生成AIを使った、いわゆる「トレパク」じゃないかというわけです。そのうち、他のイラストレーターがPixivなどに投稿していた元画像ではないかと思われる画像が発見されていきました。

 投稿者本人は自身の手によるものとする「下書き」を公開して反論しましたが、公開された元絵からは当初のイラストを生成することができないと指摘されました。その下書きは自分で生成した画像をトレースした可能性が高いとも推測されました。複数のユーザーが元イラストから同じ画像を生成できないかと調べたものの、完全一致の画像を生成することもできませんでした。

 画像生成AIには、文字によるプロンプト(命令文)だけでは苦手なキャラクターのポーズというものがあります。具体的にはしゃがんだり、腕を組んだりするポーズです。体のパーツの前後関係が発生したり、重なったりするような複雑な姿勢は絵が破綻することが多いという特性があります。そのため元となる姿勢の画像を用意してimg2imgを使うのは、狙った構図を作るには非常に効果が高く、画像生成AIの持つ強みの一つでもあります。

 問題となった画像も「しゃがんだポーズ」で、画像生成AIが苦手とするポースでした。そうなると、体の線が偶然一致する可能性は極めて低く、img2imgをするための元画像があると考える方が自然ということになります。

img2imgを使うと、座っているような画像(左)のような画像生成AIが苦手とする画像も、比較的ポーズを維持して出力することができる。(画像:筆者作成)

プロンプトのみだと、複雑な姿勢を生成するのにはかなり限界がある。img2imgと同じプロンプトでもまるで違う印象の画像が生成されてしまう。誰かが描いたイラストとまったく同じ姿勢の画像が出てくることは確率的にはほぼない。(画像:筆者作成)

 画像の類似性については、画像検索に強いロシアの検索サイトYandexでも確かめられます。投稿されていたイラストで検索すると、img2imgの元になったと指摘された画像が真っ先に候補として出てきました。画像を反転してGoogle Imagesにかけても、やはり同じ候補が真っ先に出ることを確認しています。

 この問題が厄介なのは、著作権は親告罪なので、まずは著作権者が指摘しなければ権利者でもない第三者にとって問題なのかどうかもあいまいであることです。さらに、著作権違反をしているかという以前に、画像生成AIで作った画像そのものに著作性があるかどうかについてもまだ司法判断がないため明確な基準がありません。img2imgで生成された画像が、どの程度であれば著作権が認められる可能性がある「創作的寄与」があるのか、現状では判断がつかないのです。

 今回の場合、img2imgの元データを明確な特定の著作物を使って作成しているとすると「依拠性が高い」と判断され、著作権侵害があるとみなされる可能性が高いのではないかと考えます。しかし、どうやってそれを証明するかという問題がついて回るため、裁判を実際にやってみないとわからない状況です。しかし、わざわざ、裁判にまで訴えて証明するべき事案にまでなるかというと、金銭的な損害もほぼないため難しいのではないでしょうか。

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