地方プレイヤーだけで回る新しいITプロジェクトの形
ONE SAUNAのプロジェクトには、その世界感に共感し、さまざまなプロフェッショナルが参加している。IoTを用いた水質改善にチャレンジしているのが、金沢市を本拠地とするAQUONIA(アクオニア)の北川 力氏だ。「水風呂の水質という技術的な課題が挙がっていたので、『それだったら水のことしか考えていないプロがいますよ』ということで知り合いの北川氏を紹介しました(笑)」と武市氏は語る。
AQUONIAの北川氏は、AIによる水質改善を提供するスタートアップのWOTA(ウォータ)の創業メンバー。北川氏が挑んでいるのは、水質改善の民主化になる。「水質改善の技術はこの20~30年、大きな進化がありません。こうした前提で、尖った技術を生み出すというより、安価なセンサーを簡単に使えるようにするのがわれわれのミッション。塩素や水温の管理を遠隔から行なえるようにして、プールや温泉などの管理にまで拡げていきたいと考えています」と語る。
その意味で、いわば水質改善インテグレーターとも言えるAQUONIAに期待されているのは、どんなセンサーをどのように使えば、正しくデータを収集できるかという部分だ。武市氏は、「安全かどうか判断できればいいので、研究室レベルの精度は必要ないんです。それをリーズナブルなコストで、かつメンテナンスがしやすいもの。この組み合わせを探してくれる業者さんって、AQUONIAくらいしかないんです」と語る。
北川氏も揚松氏のビジョンに共感した1人。「地元の素材を活かすとか、他社にも情報オープンにしながらビジネスに進めていくといったやり方が、まさに自分がやりたいこととつながりました。正直、お2人ほどサウナに詳しかったわけではないのですが(笑)、プロジェクトを進めていくうちに、共感が深まってきました」と語る。
とかく首都圏だけで完結しがちなIT業界だが、一次産業、二次産業を中心にしたIoTプロジェクトを取材していると、地方だけで充分回せる土壌がととのってきたと感じられる。IoTシステムに関しては、宮崎に本拠を置くLibertyshipのシステム構築に、高知のMAGLAB、金沢のAQUONIAが参加するという図式だが、前述したサウナのある空間作りや、地産地消の取り組みも地方プレイヤー同士のコラボで実現したもの。今後こうしたプロジェクトは当たり前になっていくのかもしれない。
サウナ人口は全国で340万人 サウナ文化を根付かせたい
今回のプロジェクトは、単にIoTシステムを導入するだけではなく、同時進行で複数の目的を達成する必要があった。ONE SAUNAというプロダクト自身を進化させつつ、水質改善といった別のモニタリングを実現し、大手メーカーとの連携も必要だった。「どれか1つが進めばよいわけではなく、歩調を合わせて進化させる必要があります。こうした連携が僕らにとっても勉強になったところ」と武市氏は振り返る。
IoTによるデータ収集で目指すのは温浴施設のDX化だ。人手での温湿度のチェックではなく、センサーによる計測や光熱費の最適化なども実現できる。揚松氏は、「今の『ととのう』って感覚的、定性的なものが多いので、今後はととのうの数値化を進めていきたい。外気温や室内温度などの環境データ、スマートウォッチなどでとったバイタルデータを掛け合わせることで、その日一番ととのう条件はなにかを提案していきたいです」と語る。
日本サウナ総研の調べによると、サウナに毎週入りにいく人は全国で340万人近くいるという。このうち1/3が自宅にサウナを欲しいと考えれば、少なくとも100万人の市場は見込まれる。揚松氏は、「サウナ大国のフィンランドは550万人の人口に対して、300万戸くらいにサウナがあります。つまり、半分くらいの家にはサウナがある。僕らはサウナのある生活を目指しているので、別荘なり、ホテルなり、行く先々にサウナがあれば、それがハッピー」と語る。「ととのう」をもっと身近にするLibertyshipとその仲間たちのチャレンジはこれからも続く。
(提供:ソラコム)
週刊アスキーの最新情報を購読しよう