リモートからの余熱のオンオフをアプリから
現状、個別販売をしているONE SAUNAが次に目指すのは、「サウナのエアビー」「コインサウナ化」というサービス化だ。遊休設備になりかねないサウナ施設を効率的に運用するためには、遠隔で施設を運用管理できる仕組みが必要になる。この世界観を実現するために導入されたのが、SORACOMを用いたIoTになる。
具体的には、スマホからONE SAUNAをリモートで余熱したり、温湿度に合わせて予熱時間も調整したいというのがニーズだった。「ととのうまでの面倒くささ」をアプリに任せてしまうというわけだ。
これをスタートさせるべく、揚松氏も「そもそもIoTとは?」みたいなところから調べた。「『IoT 作り方』みたいにググって調べたら、IoTってセンシングと制御、データをクラウドに上げる通信の技術が必要ということは理解しました。だったら、まずは通信をやっている人たちに聞いた方が早いと思ったので、相談しました」と、ソラコムのホームページから問い合わせた。
プロジェクトは、ソラコムから紹介されたMAGLABとともに進めている。ソラコム アライアンスマネージャーの二神敬輔氏は、「当時、MAGLABさんもインテグレーションだけでなく、ハードウェア自体を手がける事例をいくつか持っていたので、ONE SAUNAの事例をスモールスタートするのに最適だと考えました」と語る。
MAGLABの武市真拓氏は、揚松氏とミーティングを持ったが、ONE SAUNAの描く世界観に魅せられたという。「最初はリモートからの余熱のオン/オフだったんですけど、温湿度もとれますか? 水質も管理できますか?といった感じで、アイデアが膨らんでいった感じです」と語る。とはいえ、着地イメージがまだ固まっていたわけではないので、できるところから着実に進めるべくプロジェクトをスタートさせたという。
利便性だけでなく安全性も重視 他メーカーとも連携
ONE SAUNAのIoTシステムはMAGLABの「AirSTATUS(エアーステータス)」というセンシングプラットフォームを活用し、ガスや電気ヒーターに対して遠隔からのオン/オフや異常制御ができるようになっている。また、外気と水の温湿度もとれる。「外気温によって、どれくらい前から予熱すればちょうどよくなっているか違います。これを遠隔から確認できるようにすれば、エネルギーも最適化できますし、人手の節約にもなります」と武市氏は説明する。
IoT化したもう1つの理由は「安全性」だ。揚松氏は、「サウナって楽しい反面、危ないモノだなとも思っています。熱源を使いますし、DIYで作ったサウナで実際に火事も起きています」と警鐘を鳴らす。その点、ONE SAUNAでは遠隔で火を付けることの重要性を鑑み、制御盤に自動で消火するタイマーを追加したり、Webアプリ側で稼働時間を定期的にチェックするようにしているという。
IoTを実現する通信やクラウドに関しては、セルラー通信サービスのSORACOM Air、データ転送支援サービスのSORACOM Beam、データ収集サービスのSORACOM Harvest、ダッシュボードサービスのSORACOM Lagoonを採用。センサーから収集したデータをクラウドにアップし、見える化している。武市氏は、「いったんSORACOMプラットフォームでデータを収集し、最終的にアプリにつなげようとしています。でも、われわれは息を吸うようにSORACOMを使っているので、今となってはSORACOM導入によってどれだけ時間が短縮できたかはもはやわからないです」と振り返る。
とはい、大変だったのはコロナ禍もあり、現地に行かない状態で開発を進めなければならなかったこと。「MAGLABのメンバーもほとんどリモート勤務なんですが、ガスや電気ヒーターなどの装置を直接見たり触ったりできたのは、私しかいなかった。本来、手元で確認すべき機器の動作や仕様を他のメンバーに伝えるのはとても大変だったし、失敗も何回か重ねました」と武市氏は振り返る。
今回開発したサウナのIoTシステムは、ONE SAUNAのみでなく、多くのサウナ施設に開かれた仕組みになる。揚松氏の働きかけにより、サウナ設備業界最大手のメトスや、地元宮崎の九州オリンピア工業と提携し、さまざまなサウナ設備で利用可能になる予定だ。武市氏は、「たとえば、初期の頃はガスや電気のヒーターが点いているかを遠隔で知ることが難しかった。でも、揚松さんがメーカーに問い合わせてくれて、仕様の背景を理解いただくことでメーカーも対応を進めてくれるようになりました」と振り返る。
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