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規格戦争を乗り越えてビデオカメラの小型化に成功したソニー

2022年08月18日 12時00分更新

昔と変わらず運動会の必需品
ソニーのハンディビデオカメラ

 運動会でパパやママがカメラで子供の勇姿を撮る、今も昔も変わらないこのイベント。これもさかのれば、個人で動画を撮影できる事そのものが貴重です。

 筆者の幼少時代からバカでかいビデオカメラを担いてくる父親は、傍目にみても奇特な人でした。だって周囲にそんなもの持ってる人がいなかったんですもの! 父がビデオカメラを構えると、友達までもがワラワラと集まり、我先にとピースピースの嵐。こうなると恥ずかしさよりも「俺んちスゲーだろ!」くらいの優越感のほうが大きかったのを覚えています。

ソニー初の8ミリビデオカメラ「CCD-V8」(1985年)

 さて、ソニーは家庭用VTR「ベータマックス」を世に送りながらも、「VHS」との規格戦争にが発生して、結果としてユーザーに不便が生じてしまったことは認識していました。それを教訓に生まれたのが「8ミリビデオ」です。

 当時の「撮像管」に代わって、映像を電気の情報に変えるCCD(電荷結合素子)を搭載した小型のビデオカメラを開発しました。そして1980年7月、8ミリ幅のテープを使用したビデオカセットレコーダーを一体化した「ビデオムービー」を発表。この時、ソニーはすぐにでも商品化できる状態にありながらも、先に力を注いだのは、ベータマックスで苦汁をなめた“規格統一”でした。

8ミリでは規格統一に成功と思いきや……

 他社へ規格の統一を呼びかけ、この規格に日立製作所、松下電器、日本ビクター、フィリップスが加わり、1982年には世界127社が参加する「8ミリビデオ懇談会」へと発展し、8ミリビデオの規格統一が進んでいきました。

 そして、1985年1月8日、8ミリビデオ第1号機となる「CCD-V8」を発表します。25万画素のCCD、6倍ズームレンズやマクロ機能を搭載。記録密度を10倍に上げることで、よりコンパクトかつ高画質なフォーマットが誕生したのです。

 さぁ、こここから8ミリビデオカメラの独壇場! かというと、そうは問屋が卸しません。日本ビクターは、VHS標準カセットの4分の1の大きさのCカセットを開発、世界の家電メーカーに「VHS-C方式」の採用を呼びかけます。VHS-C とのサイズや重さの競争は激化し、またもやカメラ一体型ビデオでも同じ茨の道を歩むのか……と消費者は呆れました。けれど、競争は技術革新を生み出します。8ミリビデオカメラは、コンパクト化しながらバッテリーの駆動時間をのばし、乾電池へ対応、再生機能を備えるなど新しい機能を備えていきました。

 そして、また1つの変革が起きます。

 1989年、録画再生用のビデオカメラとして世界最小・最軽量を実現した「CCD-TR55」を世に出します。およそ2kgあった初代機から、重量はわずか790gと軽くなり、圧倒的に本体も出っ張りのない小型サイズに収まりました。片手で持ち運べるコンパクトサイズでありながら、性能や機能で妥協はしない。目標のサイズを決めたら、高密度実装、要素技術開発とともに中身を詰めこんでいくのは、もはやソニーのお家芸。

当時世界最小・最軽量だった「CCD-TR55」(1989年)

流行語にもなった「パスポートサイズ」

 そして、あの有名な浅野温子さんの放つフレーズ「パスポートサイズ」のCM! このインパクトは絶大で、ビデオカメラを旅先へ持っていく層をとらえて爆発的にヒットしたのでした。どれだけすごかったかというと、「パスポートサイズ」というフレーズは1990年の流行語大賞の銅賞を受賞。「CCD-TR55」自身も、4000点近い工業製品の中から選ばれるグッドデザイン賞の頂点「グッドデザイン大賞」を獲得。

 まさにウォークマンを送り出したソニーだからこそできた、ビデオカメラをスナップ感覚で持ち歩く文化がここに誕生したのです。

 余談ですが、実は1985年の時点で、録画に特化するというかたちで重量1kgの小型軽量化した8ミリムービー「CCD-M8」が登場していました。この時、ハンディタイプのカムコーダーという意味をこめて「ハンディカム」という名称がつけられ、このネーミングについてはご存知のとおり現行のソニーのビデオカメラにも引き継がれています。

初代ハンディカムと呼ばれた「CCD-M8」(1985年)

 以降、ハンディカムは防滴仕様や最速4000分の1のアウトドアタイプや、CCDサイズを1/2から1/3に変更して小型化したモデル、2チャンネルで録音するAFM Hi-Fiステレオモデルなど、多岐にわたるモデルを展開していきます。

 水平解像度が400本以上にもなる高画質で記録できる「ハイエイト」なるものも登場し、総画素数42万画素CCDと高額8倍ズームレンズを搭載する「CCD-V900」が登場するなど、ソニーの主力カテゴリーとして毎年強烈なモデルが投入されていきました。

 パスポートサイズのハンディカムが登場した頃は、筆者はまだ撮られることがほとんどで、撮る楽しみをまったく知りませんでした。それでも、連日テレビでハンディカムのCMを見ない日はないほど。また、実家が小さな家電店(しかも黒物家電のみ)だったこともあり、運動会シーズンや卒業入学シーズンになるとお店のなか全体がハンディカム祭り状態で、飛ぶように売れていたことを記憶しています。

気軽に持ち運べて旅行でも大活躍だった「CCD-TR55」

 運動会前日に大慌てて買う人たちもいれば、当日に駆け込んできて「充電されているバッテリーください!」なんて人もいたり。そんな一大イベントとともにハンディカムはありました。

最近の運動会ではデジタル一眼が主役に

 そういえば、最近の運動会ではハンディカムのかわりに、すっかりデジタル一眼カメラを持った親御さんが目立つようになりました。なにしろ写真もムービーも撮れる、現代における最強兵器ですからね。運動場の中を走り回る小さな被写体を確実にとらえて高画質で記録することは、万能といわれるスマホですらいまだに入り込めない領域です。

 「あそこ(運動会)には、決して負けられない闘いがある!」

 パパとなった筆者もまた、超望遠レンズを装着したデジタル一眼カメラ「α」を2つかかえて、スナイパーのように我が子を狙い撃ちしているわけですが、いついかなる時もわが子を撮るために最良の機材が欲しいという情熱は今も昔も変わらないのだと思います。

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筆者紹介───君国泰将

ソニー(とガンダム)をこよなく愛し、ソニーに生きる男・君国泰将氏

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