「kintone hive 2022」の第4弾が札幌で開催された。kintone hiveはkintoneのユーザー事例を共有しあうイベントで、優勝した企業は「kintone AWARD」に進出する。3社目は北海道テレビ放送 コンテンツビジネス局 ネットデジタル事業部の岩渕秀氏が登壇し、「kintoneでWEBシステムを作ってみた」というテーマでプレゼンしてくれた。
配信サイトの外注費用をなくすためにkintoneにチャレンジ
北海道では「onちゃん、6ch、HTB!」でおなじみ北海道テレビ放送の主な事業はもちろんテレビ放送。朝と夕方の情報番組をはじめ、多様な番組を放送している。テレビの放送以外には、番組に関連したグッズの販売、番組のネット配信、各種イベントの開催などを手がけている。
岩渕氏は千葉の幕張メッセが実家で、大学進学を機に札幌へ来たそうだが、その後、大学院進学で札幌を離れてしまう。しかし、札幌が忘れられずに就職でUターンし、2020年に北海道テレビに入社。現在は、ネットデジタル事業部で社内SEをしており、公式ホームページやグッズの販売サイト、公式アプリなどを運用している。
北海道テレビでは10年前から北海道オンデマンド(以下、HOD)と呼ばれる動画配信サービスを提供している。以前のHODは基幹システムの構築を外注しており、ウェブページの編集も外注していたので、高額な運用費が発生していたのだ。
「HODの収益を上げることを考えた場合、売り上げを伸ばすことが大事ですが、経費を抑えることも重要です。運用費は固定費用以外に、ウェブページを編集するたびに発生しており、3桁万円もかかっていました。修正後のページを見て満足いかずに再編集依頼をすると、さらに追加費用がかかってしまいます」(岩渕氏)
運用費用の削減が難しかったので、人件費を削減しようとしたが、そのためには業務を効率化する必要がある。しかし、システムを改修するのにも、お金がかかる。CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)の使いにくい機能を改修してもらうだけでも数万円が発生するなど、一向に経費が削減できない状態が10年続いたという。
ウェブページの編集・管理を自分たちで行ないたい。システムを自由にカスタマイズしたい。その上で、HODの収益を伸ばしたいと考え、それならばいっそのこと自分たちの手でシステムを作ってしまおうと決断した。どのようにしてシステムを構築するか悩んでいた岩渕氏に、上司の三浦氏が「kintoneでシステム作れるから、とりあえず調べてみて」と教えてくれたそう。そして、2021年4月、岩渕氏はkintoneと出会うことになった。
そこから岩渕氏はkintoneアプリの開発をスタート。ひたすら独学で開発を進め、2022年2月にサイトをリニューアルした。
kintone導入の最大の効果は運用費の95%削減
新生HODはAWSとkintoneを組み合わせたシステム構成になっている。kintoneアプリのレコードを保存すると、Webhookが発火し、レコード情報がAWSクラウド内へと送られる。データは「AWS DynamoDB」というデータベースに格納され、このデータベースから情報を読取ってウェブページを構成している。
kintoneアプリは「動画カテゴリ」「番組名・大窓登録」といった5つのウェブページを操作するアプリ群と、「お問い合わせ管理」「視聴ログ」といった4つの問い合わせ、経理系のアプリ群を開発した。さらに、検証用に本番用とまったく同じ環境を用意し、顧客に見えない状態で検証できる環境も用意した。
これまで大金をかけて行なっていたウェブページの編集が、kintoneアプリを編集するだけで実現できるようになった。コンテンツの並び順を変えたいときも、アプリ内の順番を示すフィールドの数値を変えるだけでいい。検証用環境で自由にカスタマイズを繰り返し、完成したら本番データに反映する流れだ。
経営指標の分析も、以前はCMSからExcelに出力し、解析していたので手間がかかっていたが、現在はkintoneが自動的にグラフ化してくれる。テスト画面を見せてくれたのだが、注文数や売上、再生数まで一目瞭然に把握できるようになっていて経営判断にも役立ちそうだった。
「CMSの機能が使いにくいと言われれば、私がさくっと改修します。もちろん、手間賃も必要ありません。われわれは本当に自由なシステムを手に入れました。その結果、各担当者の仕事のモチベーションが上がりました。そして、これだけ自由なシステムを導入したにも関わらず、 運用費がなんと95パーセントも削減できました」(岩渕氏)
社内での注目度もあがり、新しい提案や企画もどんどん広がる
今後はアプリのブラッシュアップはもちろん、収益拡大も目指す。現在は週に1回、機能改善の会議を実施しているが、kintoneを導入することでコミュニケーションも格段に増えたという。旧システムではCMSの都合でできなかったことがたくさんあったが、kintoneならいろいろできるので、皆がやりたいことをどんどん提案してきてくれるようになったのだ。
最初、kintoneでHODを置き換えることになった際、社内に興味を示す人はほとんどいなかったそう。しかし、95%の経費削減というとてつもない導入効果を叩き出したので、社内でも注目度が上がり、急に引合いが増えたという。
2022年4月28日、HODと同様のスキームでECサイトもリニューアルした。22個のアプリを作成し、グッズを購入した顧客とHODの顧客の管理を共通化したのだ。これまでは、別々に管理していたので、共通の顧客にキャンペーンを打つことができなかったのだ。今後は、顧客の購買行動を分析し、収益拡大につなげていく予定だ。
「みなさん、kintoneで業務をペーパーレス化したり、複雑な業務を簡略化するために活用しているケースが多いと思います。実は柔軟性と拡張性に着目すると、(kintoneは)システム基盤としても非常に有効なツールであると言えます。 基幹システムの外注費用に悩んでいる方は、ぜひともkintoneで旧システムを壊し、自分たちでシステムを作ってみてはいかがでしょうか」(岩渕氏)
岩渕氏は、この1年間で得た知見をコミュニティに発信していきたいという。kintoneコミュニティの勉強会であるkintone Caféが開催されれば、kintoneによる基幹システム開発のノウハウを共有したいそう。「みんなにもkintoneで固定費を削減して、収益を増やしてもらいたい」と岩渕氏は締めた。
ちなみに、kintone hive札幌の後、kintone Café札幌 Vol.13の開催が2022年8月26日に決定。オンライン配信はないので、興味がある人はぜひ参加してみてはいかがだろうか。
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