飲食業界における慢性的な人手不足・労働力不足は、コロナ禍になってさらに加速している。「バイトル」などの求人メディアを通じて採用を支援している人材サービス会社のディップから見て、人手不足の現状と課題はなにか?また「コボット」ブランドで提供するDXサービスが、なぜ飲食業界に刺さるのか?ディップの井上剛恒氏に話を聞いた。
飲食業界の慢性的な課題「人手不足」はコロナでますます深刻に
先日、家族で近くの中華チェーン店に行ったとき、“人手不足につき飲食の提供が遅れます”という告知が入り口に貼ってあり、驚いた。飲食業界が慢性的な人手不足であることは理解していたが、最近は行動制限の解除で客足が戻った結果、人手不足の問題がますます深刻になっているわけだ。
今回、話を聞いたディップの井上剛恒氏は、バイトルをはじめとする求人メディアを通じ、企業に対して人材募集の企画提案を行うエリア事業本部の責任者。全国には約800人の営業部隊がおり、飲食やサービス、物流など、いわゆる有期雇用契約が多い業界の中小企業を支援している。
ディップが注力している飲食業界も、コロナ禍で大きな変革を余儀なくされた。井上氏に聞くと、コロナ禍の初期には、驚くほどに求人がなくなったという。「コロナ前後で比較すると、求人数は半分以上減ってしまいましたが、その中でも飲食系は影響が大きかったです」と井上氏は振り返る。また店舗での飲食が難しくなったことからデリバリーとテイクアウトの需要が急速に増え、ECでの通信販売も加速した。飲酒が難しくなったため、営業形態を変換する飲食店も増えたが、やはり生き残りは大変だったという。
採用状況が回復に転じたのは、2021年秋の緊急事態宣言解除がきっかけだった。「11月には、飲食系の求人数は9月比較で約2倍に跳ね上がり、一気に求人需要が伸びました。しかし、もともと飲食業界で働いていた人材が、コロナ禍をきっかけに介護・福祉、物流や小売などの他業種に移ってしまい、元に戻ってこなかったために人手不足がより深刻になりました。本当に人が採れなかったですね」と井上氏は語る。特に学生の場合、飲食業界での仕事に親が難色を示して、就業に至らなかったということも多かったとのことだ。
そして現在、飲食業界における人手不足はますます深刻になっている。「コロナの影響により客足がコロコロ変わるので、発注やフードロスも大変ですし、シフト組みも困っています。でも一番困っているのは、やはり人が採用できないことだと思います。人手不足で休業したり、営業時間を短くしたり、潰れてしまう店舗が、最近は増えていますよね」と井上氏。冒頭、中華チェーン店にて客の立場で見た人手不足の告知は、まさに店側の苦悶の叫びだったわけだ。
こうした飲食業界の悩みを解決するのがディップだ。店長やオーナーと会話をし、欲しい人材のリクエストを聞き、求人原稿を作成し、採用活動を支援することが重要な業務。ただそれだけではなく、処遇を改善したり、スタッフの定着を図ったり、バックオフィスの効率化を提案することもディップの役割だという。
実際、ディップは「働く人の待遇向上」を図る取り組みである「ディップ インセンティブ プロジェクト」を展開しており、企業に時給アップを提案し、採用力の強化を図ってきた。そして、こうしたトータルサポートの中に、今回紹介するコボットシリーズがある。その中の面接コボットは、デジタルを用いて飲食業界の採用課題を解決するサービス。さっそく面接コボットの例を見ていこう。
店長への負荷が大きかった面接業務を自動化する「面接コボット」
飲食業界の課題である人手不足。もちろん、多くの店長やオーナーが採用活動に注力しているが、仕事をやりながらの採用活動が猛烈にヘビーなのだ。
求人を出し、応募者と面接を設定し、面接ののち採用の可否を決めるわけだが、手間も時間もかかる。「採用率は応募数のうち1~2割と言われているので、3人採用しようとしたら、30人分の応募が必要になります。応募のうち、面接に来るのは6~7割なので、面接設定が必要。そして面接は最低でも30分くらいなので、採用までにかなりの時間を使います」(井上氏)。
飲食店の採用は長らくレガシーな状態だった。「業界的に飲食店での勤務を希望するのは、ネットに慣れた若い世代がほとんど。でも応募後の連絡に関しては、ずっとメールと電話でのやり取りが主流で、時代遅れでした。求職者からしたら面倒くさい上に、煩わしいことをやっていた。それでは人材を採れないよねという感じだったんです」(井上氏)。
こうした飲食店での悩みに対して、ディップが提供するのが面接コボットだ。求職者からの応募に対して、店側が事前に指定してある日程から、面接日時を自動で調整できる。面接コボットに任せておけば、応募者に対して都度メールや電話をする必要もなく、応募者も面接の予定をスピーディに決められるので、両者とも大きなメリットがある。さらに応募者への質問を設定し、スキルや就業条件なども事前に確認できるので、面接効率も大きく向上する。
面接コボットのメリットはレスポンスの速さだ。応募者との間で面接の予定を迅速に設定してくれるので、店長は厨房で仕事に専念できる。「基本、求職者は応募した瞬間がその店で働きたいモチベーションのMAXになります。逆に半日も、1日も待たせたら、他の店を探して決めてしまうでしょう。その点、面接コボットは応募後のレスポンスが速いので求職者を逃がしにくくなるメリットがあります」と井上氏は語る。
導入企業の満足度も高い。「やはり採用にかける時間が減るので、本来やりたかったことに専念できたという声が多いですね。あとは単純に面接数が増えたという効果も得られます」(井上氏)。また、飲食店であればサービスに専念できるというのも大きいが、スタッフとのコミュニケーションに時間が割けるのも大きい。「採用とともに飲食店の大きな悩みである人材の定着という観点でも、スタッフのフォローは重要です。仕事を辞める最大の理由はやはり『人間関係』なので、コミュニケーションのために時間が割けることはメリットがあります」(井上氏)
コボットシリーズ垂直立ち上げの背景は「飲食店と営業との信頼関係」
コボットシリーズは、デジタルで業務効率化や売上UPに貢献するサービスの総合ブランドだ。前述したトータルサポートという観点で、面接コボット以外にも、飲食店を支援するさまざまなサービスが揃っている。
面接コボットへの導線として提供されているのがRHP(リクルーティングホームページ)の作成サービス「採用ページコボット」だ。「今の求職者は、Webサイトや口コミサイトをかなり調べますし、求人サイトをまとめたアグリゲーションサービスの利用も増えているので、採用ページを手軽に作れるようにしています」と井上氏はアピールする。
また採用後の入社手続きに利用できる「人事労務コボット」というサービスも用意されている。バイトルのようなメディアや採用ページコボットから来た応募は面接コボットで対応し、採用したスタッフの入社手続きで必要となる雇用契約書や個人情報収集を、この人事労務コボットが対応する。「求人の募集から採用、人事労務回りまでをワンストップでソリューションしている感じです」(井上氏)というわけだ。
飲食業界をはじめ、人手不足の業界に刺さるコボットシリーズは、まさに垂直立ち上げだったという。面接コボットと採用ページコボットのパッケージ販売は、市場ニーズが高く導入は一気に拡大した。この理由の1つはお手頃な価格で、面接コボットは3万円/月~という点も挙げられる。「面接コボットは、1採用あたりいくらという課金型で大企業向けに販売したらもっと売れると思います。しかしそれは、中小企業をお手伝いしている我々の思想ではないんです」(井上氏)。
人手不足を抱える業界とコボットシリーズの相性も重要だが、ポイントはもともとディップと飲食店の間に強い信頼関係があったことだろう。「飲食店にとって、採用活動は事業の肝なので、店側にきちんとヒアリングしないといい求人原稿ができません。だから営業担当者は店に足しげく通い、採用に向けて尽力しています。それを通してわれわれと飲食店の間にはすでに信頼関係あるので、プロダクトの善し悪しだけでなく、“人”でも選ばれるんです」と井上氏は語る。
本来DXは人手不足の解消のためにあるもの
コボットシリーズは、飲食店の業務改善に結びつくツールであり、DXを推進する手段でもある。実際、面接コボットはWeb上で動作するチャットボットやATSなどのクラウド技術がサービスを支えている。
しかし、飲食業界はDXやITという言葉にアレルギーがあるという。コボットシリーズでも技術を前面に出さずにメリットを理解してもらうのが鍵のようだ。「実際にお客様から『DXなんて聞きたくない』とか言われますよ。でも、電話対応や面接日時のやりとりを自動でやりませんか?というと、『それいいね』という話になるんです」(井上氏)。DXが必要な背景、デジタルで解決できる課題などは理解してもらえるので、やはり伝え方がとても重要だという。
では、飲食業界もデジタルとまったく遠いかというと、そういうわけではない。井上氏は、「たとえば、グルメサイトでの集客や予約は当たり前だし、デリバリーにはUberや出前館のようなプラットフォームを使っています。でも、それらをDXやITだとは思ってない飲食店の方も多いです」と語る。コロナ禍を経て、消費者がネットやITに近づいたこともあり、IT・DXアレルギーの飲食業界をいかにデジタルの世界に導いていくのかも、ディップの役割に思える。
そんな中、今年の下期に本格展開するのが「常連コボットfor LINE」だ。昨年、発表した常連コボット for LINEは、採用や人事労務をカバーしてきた今までのコボットシリーズと異なり、常連客顧客の獲得に繋げる飲食店向けサービスだ。井上氏は、「今まで飲食店の集客はグルメサイトがメインでしたが、これらは基本的に新規顧客の獲得がメイン。でもコロナ禍での客足の戻りは常連の方が早かったんです。今後はリピート客の重要性がますます認知されるはずなので、そのようなツールが必要だと考えました」と語る。集客にかかる手間をなくし、サービス力と売上の向上に寄与するのが常連コボット for LINEだ。
常連コボット for LINEはB2Cに圧倒的な強みを持つLINEのミニアプリとして実装されているので、ユーザーからするとLINEで店をフォローするだけ。来店すると、ポイントが溜まるという点では会員カードやポイントカードがアプリ化したようなイメージだ。「最近のユーザーはスマホにアプリを入れないので、LINEにしました。店の負担も減るし、ユーザーも使いやすいです」(井上氏)。
井上氏は、「本来、RPAやAI、ひいてはDXが生まれた背景は、人手不足の解消が目的です。中小企業こそ恩恵を受けられるはずでした。でも、実際の導入は人手不足というより、今の生産性をもっと高めたい大手企業の方が進んでいて、中小企業との格差をますます広げてしまった。だから中小企業にとってわかりやすくて、使いやすくて、お手頃なプロダクトを提供するのが、われわれの役割なんです」と語る。
「飲食店の困りごとをデジタルでなんとか解決できないか」を考えた末、行き着いた面接コボットや常連コボット for LINE。人材サービスだけでは中小企業の課題を解決するには足りない。ディップは、DX事業に参入することで、労働力の諸問題を解決できると信じ、これからも挑戦を続けていくだろう。
(提供:ディップ)
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