週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

地元主婦たちがワクチン予約のコンタクトセンターを担うまで

コロナ禍とデジタルが糸魚川市を変えた

ワーカーが当事者となった テレワークオフィス、次の一歩へ

 コロナ感染症発生前、1人でコツコツやるような仕事が多かったテレワークオフィスは、コールセンター業務を請け負うことで、大きな業態転換を伴うことになった。久保田氏は、「みんなで円陣を組んで、『いつもの仕事がなくなるので、ワクチン接種予約の受付をやろうと思うのですが、みなさんやれますか?』という話をしました。もちろん、不安がる人、できないという人も最初はいました。でも、最終的には皆が組織や体制づくりから関わってくれました」と振り返る。

テレワークオフィスThreadでの業務風景

 テレワークオフィスのワーカーの多くは地元の主婦で、サラリーマン経験のない人もいた。勤務経験があったにしても、プロジェクトを進めたことはない中で、新業務になにが必要か、自分たちになにができるかを考えることになったわけだ。しかも、糸魚川市から業務を受託しているとはいえ、ワーカー自身も言ってみれば市民。この難しい立場によって、多くのギャップが生まれたという。人員の配置、シフトの作り方、必要なシステムの要件など、ワーカー同士で夜中までSlackが飛び交った。もちろん、もめたことも一度や二度ではない。

 結果として、短期間で大きな業態転換を実現した。「不明なことも調べればどこかにヒントがある、努力すればできるんだという自信がついたと思います」と久保田氏は振り返る。短期間に業態転換をなしとげ、4万人のまちでワクチン予約をさばいた経験は大きかった。下越氏も、「以前は比較的、マニュアル化された業務を、指示のもとで動いていたと思います。でも、今回初めて一人一人のワーカーが受託主になって、当事者としてプロジェクトを回したのが大きいんだと思います」と語る。

 スタートから1年半が経ち、ワクチン予約接種のコールセンター業務も昨年の10月でいったん終了した。もちろん、今後もテレワークオフィスの業務が順風満帆になるわけではない。しかし、ワーカーの意識が変わり、ITスキルに目が向くようになったのは事実だ。「ワクチン接種予約の業務が終わり、次になにを勉強するか?をみんなと話し始めました。kintoneをもっと勉強したいという人もいて、セミナー開催も検討しています」と久保田氏は語る。

 いといがわテレワークオフィスthereadの吉岡さんも、そんなワーカーの一人だ。地元で長らく保育士として働いてきたが、子育てしながらのフルタイム勤務に限界を感じた。しかし、時短で働ける事務の仕事は地元にはなく、パソコンの経験もほとんどなかったという。そんな中、テレワークオフィスThreadでの時短勤務を見つけ、テレワーク人材の養成講座を受けながら、スキルを身につけた。「Excelも、SlackやZoomもやりました。ゆっくり教えてもらったので、使えるようになりました」と吉岡さんは語る。

テレワークオフィスthereadで働く吉岡さん

 現在は3人のお子さんの子育てをしながら、テレワークオフィスthereadで朝9時から15時まで時短勤務している。「覚えることが多くて大変ですが、家事もできるのでうれしい」(吉岡さん)とのこと。今後はお子さんの成長とともにフルタイムでの仕事をこなせるようにスキルをよりアップしていく予定で、Excelの資格であるMOSにも挑戦していくという。

 昨年はコールセンター業務を受託するにあたり、勤怠管理を検討するチームを起こした。チームが選択したアプリケーションはDONUTSのジョブカンシステム。現在、その縁でDONUTS社からカスタマーサポートの業務を受託している。さらに、研修期間中のワーカーの資質に魅力を感じ、今年3月には15人が直雇用され、市内にオフィスを開設することになった。糸魚川市におけるIT企業誘致は初めてのことであり、「多様な働き方の推進」を目的とした企業立地協定の締結にまで至っている。

 この事例を追い風にして、スキルアップ意識の高いIT人材の多いまちになれば、さらなる企業誘致を期待できるかもしれない。女性の就業率も上がり、少子高齢化に歯止めをかけられるかもしれない。希望的な憶測かも知れないが、多くの地方自治体が抱える課題の解消に向け、糸魚川市が確実に一歩を踏み出したのは間違いない。

■関連サイト

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう