クリエイターこそネットマナーを学ぶべき
まつもと 一方、発注段階でクリエイターがトラブルを起こしがちな箇所としては「契約書を軽視する」あるいは「ネットに案件内容をアップしてしまう」。実際、年に数回は見聞きします。
福原 これは故意とウッカリの両方があるんです。若い子が「ドラマ決まりました!」みたいなことをツイートして、そのせいで出番がなくなるとか。
まつもと ありますね。
福原 これはウッカリ、若気の至りでマネジャーさんが気を回していなかったというパターンです。だから最近はオーディション用紙などにも「ネットに書いちゃダメ」と注意書きが入ってます。
まつもと しかも、割と上のほうにしっかり書く感じですよね。全部読まない子がいるので。メジャーデビューしている方だとマネジメント会社がある種の教育をしてくれるわけですが、フリーのクリエイターにはそういった機会もないので、クライアント側からしっかり伝えないといけないし、クリエイター側も自覚しておく必要があるということですね。
福原 このあたりはクリエイターエコノミー時代の基礎知識になると思います。
まつもと 学校で教えるような項目になりませんかね。
福原 うちの声優養成所ではネットマナーについて教えていますけれど、普通の学校で教えるには専門性が高いかも。最近は「知らない人に下着の写真を送っちゃダメよ」といった指導もあるようですが。
まつもと ちょっと脇道に逸れちゃうんですけど、私が居る地方の大学では、「ネットは危ないから使わないように」という方向に行きがちなんですよ。でもクリエイティブな活動をするには「自分でしっかり発信する」ことが必要になります。となると、これまで危ない危ないと言われ続けていたネットをいきなり使い始めることになるんです。
その点について福原さんの本では、クリエイターがネットに何を発信して良いのか、もしくはダメなのかがきちんと書かれています。
今どき「ネット使うな」はないでしょと思うかもしれませんが、スマホ持ち込み禁止の高校もありますし、家に帰ってからも見るだけで、トラブルが怖いから発信しないという若い人はかなり多いなという印象です。
声優事務所が一見さんを断っていた理由
まつもと 納品とチェックバックの箇所は揉めますよね。
福原 ここが最も揉めますからね。多くの場合はクライアント側の発注能力が低いので思い通りのものが上がってこない。形になったから初めて具体的にダメ出しができる、というパターンがすごく多いです。
でもこれって、レストランでメニューを見せて、そのオーダー通りに作ったら、「なんかイメージと違って美味しくないですね……もう1回作り直してください」と言われるような感覚なんですよ。『メニューに書いてあるじゃん!』と思うのですが、先方は「あのメニューからこれが出てくると思わなかったよ」と。
これが実際の現場だと、「こんな感じの曲になります」と楽譜を見せたときに「ちょっとアレンジした後の音が聞きたい」と言われて、でも弾くとミュージシャン代やスタジオ代のコストがかかっちゃいますよ、みたいな話になるわけです。
「いや、聞かせてくれなきゃわからないよ」と言うのは素人であって、楽譜の段階でわかるからプロなのです。現場というのはプロがいる場所なのだから、この場所で楽譜を読めないやつはちょっとダメなんだよ、と(笑)
だから、現在はわかりませんが、かつて声優事務所では初めてのお客さんの仕事は受けず、「音響制作会社と話してほしい」と返答していました。その理由は、素人の案件を受けるとトラブルになる恐れがあるので、まず音響制作会社で内容を精査してもらってから来てほしいわけです。一見さんはお断りしますが、知り合いを見つけて教えてもらってから来てね、というトラブル防止法なのだと思います。
まつもと まずは勉強してきてくださいと。
福原 クライアント側にその能力がないのであれば、プロデューサーや代理店が間に入って「翻訳作業」するという方法があります。コストは上がりますが、それは発注能力がないクライアントなら「取らなきゃいけない手間」なんですよね。海外で動くならガイドさんを雇ったほうが良い、みたいな話と一緒なので。
まつもと クライアント側にマネジメントが付いている、あるいは音響制作会社を通しているのであれば、納品やチェックバックのトラブルは起こりにくくなりますね。経験を積んだ者同士だから『このへんでトラブルが出そうだな』と予想がつきますし。
福原 そうですね。ただ、昨今はクリエイターの数が急増しているので、当然ながら「ダメなクライアントだな」と頭でわかっていても、お金が欲しいから受けるクリエイターがいるわけです。
まつもと 受けざるを得ない。
福原 そうした場合、「ダメなクライアント」と「金になびいたクリエイター」だから、正直どっこいどっこいなステージの人間同士による戦いなんですよ。でも文句を言ったときに強いのは結局、フォロワーがいるクリエイターのほうです。
とはいえ、しっかりしているクリエイターって、そもそも変な案件を受けませんから。
まつもと 逆に言うと、受けなくてもやっていける。要はギリギリのところでやっているクライアントとクリエイター同士がネットで目立ってしまうようなトラブルを起こしがち、ということですかね。
福原 そうですね。
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