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SUPER GTの激闘の裏では!? Modulo Nakajima Racingのピットに密着取材

2022年05月21日 15時00分更新

SUPER GT/GT500クラスに参戦する64号車「Modulo NSX-GT」

 以前「レーシングチームはレース以外の時、何をしているのか?」という内容で、元F1ドライバーの中嶋 悟さんが代表を務めるNAKAJIMA RACING(中嶋企画)のファクトリーをご紹介しました(HondaのRQがNSXに乗って中嶋 悟率いるNAKAJIMA RACINGに挨拶にいった)。

 今回はその続編として、5月3~4日に富士スピードウェイで開催されたSUPER GT 第2戦の「Modulo Nakajima Racing」のピットにお邪魔し、チームはレース中にどのような動きをしているのか? をリポートしたいと思います。日本で最も人気のある、そして注目度の高いモータースポーツ・SUPER GTのピットの中は、はたしてどういう場所なのでしょう?

元F1ドライバー・中嶋 悟氏率いる
Modulo Nakajima Racingのピットに潜入!

 レース中の様子をご紹介する前に、Modulo Nakajima Racingのマシンと主な関係者をご紹介しましょう。

ピットで作業を受けている64号車「Modulo NSX-GT」

 マシンはGT500クラスに参戦する64号車「Modulo NSX-GT」。NSX-GTは、スーパースポーツモデル「NSX」をベースに、SUPER GTシリーズ/GT500クラスの規定に合致させた、国内最高峰のカテゴリーで戦うためだけに生まれた1台です。エンジンはレース専用に開発した2リットル直4ターボ型で、フロントにミッドマウント。なお、市販車のNSXはミッドシップですが、このNSX-GTはFRと駆動方式が変更されています。そして最高出力は550馬力を超えるモンスターマシンです。ちなみに普通車のFITを1周4.5kmの富士スピードウェイで走行すると2分7秒くらいかかるのですが、NSX-GTはわずか1分26秒前後で周回します。市販レーシングカーであるGT3車両が1分35秒前後で周回しますから、約10秒近く速いことになります。

64号車のステアリングを握る伊沢拓也選手(左)・大津弘樹選手(右)

 このマシンに乗るのは伊沢拓也選手・大津弘樹選手の両名。レースの途中で交代しながらゴールを目指します。伊沢選手と大津選手のコンビは今年で3年目。息もピッタリです。

今年2月、鈴鹿サーキットで開催されたHonda Racing Thanks Day内のカート大会。2輪ライダーと4輪ドライバーがチームとなって優勝を目指しました

NAKAJIMA RACINGの2人が1-2フィニッシュを達成!

 今年2月に行なわれたHonda Racing Thanks Dayでプロドライバーによるカート大会があったのですが、2人は並みいる強豪を抑えて1-2フィニッシュを決めていました。その腕前は確かなものです!

Modulo Nakajima Racingを率いる中嶋 悟総監督

 チームの総監督はNAKAJIMA RACINGのオーナーでもある中嶋 悟さん。日人初のフルタイムF1ドライバーであり、モータースポーツ界のレジェンドです。

本間勝久監督

 中嶋総監督からの話を受けて、チームの頭脳であるエンジニアとチームの手足といえるメカニックに指示を出すのは、中嶋企画専務取締役で御殿場ファクトリー工場長、そしてチーム監督である本間勝久さん。本間さんはチーム運営だけでなくSUPER GTの運営団体GTAとの折衝も担当されています。ちなみにレース後「今回はGTAからの呼び出しがなかったのが何より」と安堵の表情を浮かべられていました。

エンジニアの方々。一番右が浜島裕英さん

 エンジニアは4名。マシンに取り付けたセンサーをもとに、最適なセットアップやレース戦略を提案するチームの頭脳です。その中には、ブリヂストンでF1のタイヤ開発に従事し、その後フェラーリF1などで活躍した浜島裕英さんの姿と、加藤トラックエンジニアや以前のファクトリー取材でお見掛けしたデータエンジニアの姿もそこにはありました。残念ながら作業スペースおよび作業中の様子の写真掲載は、機密漏洩の観点からNGとのこと。

メカニックと話をする浅見さん(写真右)

 マシンを整備したりセットアップするメカニックは9名。NAKAJIMA RACINGの場合、普段からSUPER GTマシンに関わるのは5名なのですが、レースウィーク時は人手が足りないため、普段はSUPER FORMULAを担当されている3名が助っ人として参加しています。チーフメカニックの浅見さんのもと、見事な連携をみせます。そのほか、サポートスタッフもいらっしゃり、チームはかなりの大所帯。さすが日本で最も注目されているカテゴリーです。

レースクイーンのおふたり。左が結城みいさん、右が新 唯さん

 チームに華を添えるレースクイーンは2名。左が結城みいさん、右が新 唯(あらた・ゆい)さんです。

KENWOODレディの結城みいさん

 結城みいさんは、2020年からJVCケンウッドのレースクイーン「KENWOODレディ」としてチームに関わっていらっしゃるベテランさん。ちなみに2017年には3代目Moduloスマイルとして、このチームを応援されていました。ちなみに首にかけていらっしゃるのは、KENWOODのウェアラブルスピーカーだそうです。

Moduloスマイルの新 唯さん

 新 唯さんは、今年Moduloスマイルに就任した、モデルであり女優であり、最近では週刊プレイボーイ誌でグラビアデビューをはたされた方。実は昨年からASCII.jpの自動車レビュー記事にも出演をお願いしておりまして、今回NAKAJIMA RACINGの取材をすることにしたのも、彼女がレースクイーンを務めているから、というのが大きな理由だったりします。2人はチームマネージャーの方とは別の、通称コントローラーと呼ばれる方の指示で動いており、常にピット内にいるわけではなく、別の場所で待機しています。

レース中のサインガードの様子。黄色い服を着ているのが、ダンロップのタイヤエンジニア

 ピットにはそのほか、タイヤメーカーであるダンロップ、車両のエンジンを担当するエンジンメーカーのスタッフが常駐。1台のマシンを走らせるのに、これだけの人数が関わっているのか、と驚くほかありません。今回はメカニックの方の様子とレースクイーンに絞って、時系列でレースウィーク中の様子をご紹介したいと思います。

レースの朝は早い……
ピットは早朝からフル稼働

 お邪魔したのは5月3日の予選日と翌4日の決勝日の2日間。ちなみに設営は前日に終わっており、その後占有走行などが行なわれていました。

NAKAJIMA RACINGの朝はラジオ体操から始まります

 クルマ業界は基本的に朝が早いのですが、モータースポーツも例に漏れず。7時30分頃からは動き始めていました。NAKAJIMA RACINGの朝の日課はラジオ体操で、スタッフ全員が一緒になって体を動かします。これはレースイベント時のお決まり事なのだとか。

ピットの様子。マシンが置かれているのはピットロード側、途中に仕切りが設けられ、その後ろにエンジニアたちの作業スペースがあります

 ピットの中は、チームメンバーによってパーテーションが組み立てられ、大きく前後2つのブースに分かれています。マシンの背後に写るスポンサーロゴの壁の反対側にエンジニアたちの机が並びます。主な部品はトランスポーターの中、もしくはマシンの向かって左手側に置いてありました。

マシンがない時のピットの様子。想像以上にモノがないことに驚き

 ピット内のマシンが置かれているスペースは後方にはツールボックスが置かれている程度で、常に綺麗に片づけられていました。作業で使うツールは、小さなワゴンの上に置かれ、作業が終わるたびにツールボックスに戻されていました。

ゴミはキチンと分別されていました

 これはファクトリーでも感じていたのですが、驚くのは床面にゴミがないこと! 作業が終わるたびにメカニックが清掃をしているのです。ゴミもキチンと分別され、油とホコリまみれの男の職場を想像していただけに、写真映えしないなぁと筆者は内心思いました。素晴らしいことですが。

公式練習前のピットの様子。メカニックは全員耐火服を着用しています

マシンは何度か出入りし、そのつどピット練習をするメカニック

 ラジオ体操が終わると、9時から始まる予選前最後の公式練習に向けて準備が始まります。メカニックは耐火服とヘルメットを着用し、ピット内はピリピリムードで、メカニックたちはマシンの最終確認をした後、コースに送り出します。公式練習は10時25分までの約1時間30分。その後、GT500クラスの占有走行とFCYテストが各10分行なわれ、11時5分までクルマは出たり入ったり。マシンが走っている間、メカニックはモニターを見つめたり、ピット練習の準備をしたり。エンジニアさんは常にPC画面にくぎ付け状態。そしてタブレット端末やノートPCを持っては右へ左へ……。本間監督はその様子を静かに見守ります。

ステージでチームをPRする新 唯さんと結城みいさん。(写真提供:みやびの焼き芋屋さん@yakiimo382)

 マシンの快音がサーキットに響いている頃、レースクイーンの2人はメインスタンド裏のスポンサーステージでチームをアピール。セリフは事前に練習しており、実に流暢そのもの。唯さんは新作Tシャツを着て「一緒に応援しましょう」とステージを盛り上げます。いつもでしたら歩いてピットまで戻ったり、出展ブースに立ち寄るのですが、この日はクルマでピット近くまで移動し、そしてクルマで戻ります。これはコロナウイルス感染拡大防止の観点から、一般客と関係者を完全に隔離しているため。彼女たちも含め、レース関係者は全員検査を受けており取材陣も例外ではありません。SUPER GTでは、かなり厳格・厳重なコロナ対策がなされているのです。

エンジニアと話をする浅見さん(左)

 公式練習が終わると、チーム内のあちらこちらで会議が始まります。この日は想定していたより気温が低く、タイヤが動作温度にまで達しづらい状況。ドライバーのインプレッションとエンジニアの見解をもとに、チームは予選までにセッティング変更を決断します。ちなみに走行後のタイヤ表面の写真掲載もNGなのです。

ピットウォークの前にマシンの汚れをふき取り、ピット内を清掃するメカニック

 セッティング変更の前に、チームはファンイベントのひとつである「ピットウォーク」の準備にとりかかります。メカニックは一旦作業を中断し、フロントのエンジンフードを取り付けて、ボディについた汚れをふき取って床掃除。

専用のボックスから支柱を取り出すスタッフ

ピットウォークやグリッドウォークで必要な機材が一式詰まっています

ピットウォークの準備が整いました

 ピットロード上では仕切りのパーテションの設置作業が行なわれていました。ほかのチームではポールをフレームラックのようなワゴンに載せて運んでいたのですが、NAKAJIMA RACINGでは専用のボックスに収められていました。中をみせてもらったところ、パラソルや日よけのシートなど、スタート前のグリッドで使う一式も。専用ボックスのタイヤにダンロップのロゴが入るなど芸の細かさも見逃せません。長年レース活動をしているがゆえに、ピットウォークとグリッドウォークの荷物で使うモノをまとめて運べばラクということで、このようなものを作られたのでしょう。

いざ戦いの舞台へ向かう2人

ピットウォーク中の2人

一般の方から、かなり距離を取っての撮影対応

写真撮影の様子(写真提供:みやびの焼き芋屋さん@yakiimo382)

 ステージイベントから戻ってきたレースクイーンの2人はメインストレートへ。ピットウォーク中、メインストレートでは撮影会が行なわれます。向けられたカメラの砲列のひとつひとつに目線を送る2人。40分にわたり、さまざまなポーズをしながら笑顔で居続けるのは、かなり大変なことです。ここでもソーシャルディスタンスの関係で、彼女たちとファンはかなり距離が離れての撮影対応になっています。

ピットウォーク中のピットロードの様子

ピットウォーク中のドライバーのお二人

 ピットロード側ではドライバーの2人はピット前でファンの撮影対応。コロナ前はドライバーと気軽に話ができる時間だったのですが、今はソーシャルディスタンスのため、かなり距離が開いており、会話はできません。また、以前はチーム関係者がノベルティを配布されていたのですが、それも現在はありません。早く以前のように、気軽にサインがお願いできる環境に戻ってほしいものです。

ホンダアクセスの公式Twitterに投稿する唯さん

 ピットウォークが終われば、レースクイーンの2人は、ようやくひと休み。と思いきや、唯さんはスマホを取り出して、なにやら入力。というのもレースウィーク中、彼女はホンダアクセスの公式Twitterアカウントでレポートをする業務があるのです。文章を書いて、コントローラーさんがチェックをしたものを送信します。

 一方、食事を終えたメカニックは14時に始まる予選に向けてセッティングを変更。ドライバーとエンジニアが導き出した要件に対して調整を進めていきます。作業は1時間で終了。

Q1走行中の64号車「Modulo NSX-GT」。ドライバーは大津選手

 予選は15台が出走し、まずは上位8台に絞るQ1が行なわれます。大津選手がアタックをしますが、タイヤのウォームアップに苦しみ13番手どまり。大津選手によると「フリー走行の時からタイヤのウォームアップに対して厳しい感触があったのですが、予選開始時間にはさらに少し気温が下がり、アタックラップでもまだタイヤが温まり切っていない状況でした。そのなかでベストを尽くしてプッシュしましたが、Q1突破ができず残念です。450kmレースなので、周りも様々な作戦をとってくると思います。後方からのスタートになりますが、コンディションや状況に合わせてうまく戦い、ポイント獲得を目指して頑張ります」とのこと。このコメントをまとめるのも、チームマネージャーのお仕事だったりします。

健闘するも予選13番手で終了

 チームは予選結果を踏まえて、再度セッティング変更を決断。

変更した箇所を細かく記録する浅見さん

 浅見さんは、変更した箇所などを細かく記録しながら作業を進めていました。チームスタッフがピットを出たのは夜7時30分ごろ。通常レースウィーク中はホテルで宿泊するそうですが、富士スピードウェイの場合は、自宅に帰る方が多いとのこと。浅見さんも「スタッフに今日は早く帰って、明日に備えるように、と伝えました」と笑顔で言い残し、サーキットを後にしました。ちなみに予選でマシンがクラッシュした場合、徹夜作業になることもあるそうです。

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