クラウドを前提としたシステム連携に大きなフォーカスが当る中、国内でのビジネス展開を加速しているのがWorkato(ワーカート)だ。iPaaS(integration Platform as a Service)の老舗として知られているWorkatoだが、目指すのは業務の自動化だという。Workato オートメーションエバンジェリスト/日本創業者 鈴木浩之氏に話を聞いた。(以下、敬称略 インタビュアー ASCII編集部 大谷イビサ)
Workatoの特徴はフルクラウドとセルフサービス
大谷:iPaaSの老舗というイメージがあるのですが、まずはWorkatoの創業からお願いします。
鈴木:業務システムを連携するツールであるiPaaSという言葉は、日本ではようやく少し知られてきましたが、米国では2000年代後半から存在しているソフトウェアの考え方です。2000年代に第一世代の製品が登場しました。これは、ソフトウェアをデータセンター上のPaaSに実装するミドルウェアでした。
iPaaSはその後、米国で2010年代に大きく成長します。そのなかでWorkatoは、2013年にシリコンバレーのマウンテンビューで創業しました。完全にクラウドネイティブで動く、第二世代のiPaaSを開発しています。
大谷:第二世代の特徴はやはりクラウド前提というところでしょうか?
鈴木:ユーザー企業から見ると、第一世代のiPaaSは、動かす場所が違うだけで昔と変わっていませんでした。Workatoは、それをSaaSとして提供しています。その結果、ユーザー企業はハードウェアのサイジングを考える必要がありません。
Workatoのもう一つの特徴が「セルフサービス」という考え方です。2010年代にシリコンバレーに集まった投資の目的は、ITの民主化でした。ITをもっと簡単にして誰にでも使えるようにしないと、事業はスケールしないと考えられてきました。
大谷:なぜセルフサービスのニーズが生まれたのでしょうか?
鈴木:米国は日本以上にAIやITのエンジニアが不足しており、今も激しい奪い合いの状況です。その一方、現場ではデジタルで実現したいことが増えており、IT部門が現場部門から依頼される案件に対応できない状況が常態化していました。これに現場部門からの不満が募り、企業のCIOにとっては、リソースのボトルネックを解消することが命題となっていました。
もっと分散してITのプロジェクトが進められなければダメだということになり、IT部門だけでなく、現場部門も一緒に入って、いわゆるフュージョンチームを作っていく流れが加速しています。そのため、セルフサービス型のツールに投資が集まりました。
大谷:エンジニアでなくても使えるツールが必要になったんですね。
鈴木:はい。非エンジニアでも使えるツールであるためには、使いやすさがもっとも重要です。たとえば、日本でも人気のTableauはいい例だと思います。昔であればデータキューブを作ってインターフェイスも自ら開発しなければできなかったことが、直感的に視覚化できるようになり、テクノロジーに詳しくないマーケターでも使うことができます。この動きがIT全体の領域について広がりました。
Workatoもこの流れを汲んだツールです。事実、現在発行しているアカウントのうち、エンジニア、非エンジニアの割合はほぼ半々になっております。
子ども向けプログラミング言語をイメージしたUI
大谷:使いやすいとか、簡単って、人によって感覚が違うので、わりと難しい表現だなあと思うのですが、Workatoってどれくらい簡単なんでしょうか?
鈴木:WorkatoのUIは、子ども向けのプログラミング言語である「スクラッチ」を意識して作っており、エンジニアでない人でも扱えることを目指しています。業務の流れをロジックで考えられる人であれば、要素を並べていけばプログラムの知識がなくても使えます。
大谷:なるほど。鈴木さんはWorkatoといつから関わったのでしょうか?
鈴木:私は、2018年にITコンサルティング企業に在籍していたとき、はじめてWorkatoの機能を知りました。クラウドネイティブのiPaaSがもたらす効果は絶大です。
この頃、日本で最初のWorkatoユーザーの1社になる企業が導入を検討していました。この企業はIT人材が不足しており、社長の号令の下、業務アプリケーションのクラウド化を大胆に進めていました。多くのSaaS製品を使うにつれ、それらのデータを連携することが課題となりました。10個近いツールを検討するなかでWorkatoにも問い合わせが入り、私はそのトライアルの際にお手伝いをしました。
大谷:実際にWorkatoを触ってみたんですね。感想はどうでしたか?
鈴木:それまで、アプリケーションのインターフェースの開発には数カ月、あるいは1年かけていたことが、Workatoであればほんの数時間でできてしまう。しかもアジャイルで開発できるので、試しながら修正を繰り返しているうちに完成します。この企業は即座にWorkatoの採用を決定しました。私はこの経験を通じて、クラウド化、民主化の流れは加速すると確信しました。そして、Workatoの日本事業に参加することを決めました。
ただ、当時の日本はまだ、SaaSの利用もやや懐疑的な時代でした。ほとんどのアセットはオンプレミスというなかで、システムをつなぐハブの部分をSaaSに出すというアーキテクチャは時期尚早で、SaaSを複数使い始めるぐらいにならないとWorkatoの出番はないと思っていました。その後、コロナの影響もあり、今は日本でも最近ようやく、複数のSaaSを使う状況になってきたと思います。
企業のシステム連携に不可欠なガバナンス機能を提供
大谷:具体的にWorkatoはどんな機能を提供しているのですか?
鈴木:Workatoが提供する機能は全部で5つあります。まず基本的なシステム間のデータ連携機能であるiPaaS。2つ目は、データを連携して業務プロセスをつなぎ、昔でいうBPM(Business Process Management)を実現するワークフローの自動化です。3つ目が、社内向けのチャットボット実装機能。既存のアプリケーションではなく、ユーザー企業が好きなデザインでカスタムのチャットボットを導入できます。4つ目が、大量のデータを高速連携するELT、これは裏方の機能ですが標準で搭載しています。最後の5つ目が、API連携の機能です。サイロ化されたアプリケーションのデータをつないで、どこからでも使えるようにします。これらを組み合わせて仕事を自動化するのがWorkatoの役割です。
Workatoはこれらの機能を単一プラットフォームで提供しています。Workatoが目指すものは、システム連携ではなく、業務の自動化です。単にシステム間を連携するだけでなく、ワークフロー、チャットボット、データ抽出などの各種マイクロサービスなど、さまざまな機能を備えたプラットフォームを作っています。そのため、機能別に見ると競合も変わる、特殊なベンダーである一面も持っています。
大谷:なるほど。いろいろな機能があるけど、最後は業務の自動化につながるんですね。
鈴木:WorkatoはGoogle Cloud Platform上で動くサービスですが、連携するサービス、アプリケーションはクラウドだけでなく、オンプレミスも対象としています。プロキシとして動作するオンプレミスエージェントを介すことで、境界を分けてデータの安全な連携を可能にしています。
おもな利用状況は、まず基幹システムの連携によって受注から請求書を流すような、当社でレベニューオペレーションと呼んでいる領域の自動化があります。導入企業の2割程度はその用途で使っています。同様に多いのが、人材の採用管理から社員登録の手続きなどの自動化です。またIT部門は社内のヘルプデスク機能を自動応答する仕組みを、AIを加えて作る企業も増えています。
大谷:どのような企業がWorkatoを導入しているのでしょうか?
鈴木:現在のユーザー企業は主に2種類に分かれています。1つは急成長するベンチャー企業で、スピード重視の経営をする企業です。米国ではSlack、日本ではコインチェック、DeNAなどです。もう1つのグループが、VISA、ソニー、LIXIL、リーバイスなど、グローバルに事業を展開する大企業です。
特にシステムの規模が大きい大企業において、企業内のさまざまなアプリケーションがつながることは、現場では便利な半面、IT部門からすると「怖い」と感じると思います。Workatoではそこをきちんと担保する技術でないといけないと考えており、ガバナンスを効かせて管理できる機能を持っています。
大谷:エンタープライズ対応が1つの特徴なんですね。
鈴木:はい。他のiPaaSと呼ばれるソフトウェアとの大きな違いはここにあります。他社製品を使って、アプリケーションからデータを取り出すだけでしたら問題ないと思います。ですが、そのデータを別のシステムに入れてしまうと、収拾が付かなくなります。なぜかというと、誰がいつその操作をしたのかが管理できないからです。企業内のデータを無秩序につないで動かしてしまえば、問題が起きたときに対処できなくなります。
Workatoは、ここをしっかり管理する機能を標準装備しています。監査証跡が残る形で、ガバナンスを効かせた状態でシステム間の連携を図ることができます。それを知り、複数のシステム連携ツールを使いながら、ガバナンスを効かせたい箇所にWorkatoを使用する企業も出てきました。
真につながるAPIを、コミュニティでサポートする
大谷:クラウドサービスの業界では、やはりシステム連携にフォーカスが当っています。ただ、連携という言葉はすごく難しいと感じています。
鈴木:Workatoはすでに、グローバルでは1万1000社で採用され、コネクタの数も1000を超えています。ただ、ほとんどのアプリケーションは、他の製品とつながるんですかという問いには「つながります」と答えるでしょう。しかし、つながるということがどういう状態を指しているのか、まちまちなのが実態です。APIの内容は、製品によってとてつもない差があります。技術は日々進化しており、個々のアプリケーションのベンダーが、全てのシステムとつながるAPIを維持していくのはもはや無理です。
そこで、Workatoは開発当初からオープンエコシステムの思想で作られており、スピーディで高性能なAPIを開発して共有する開発者のコミュニティを運営しています。このコミュニティに対して、Workatoはローコードで開発できるSDKフレームワークを提供し、支援しています。このフレームワークを使うことで、エンジニアは大きな労力をかけずに1日程度という短時間でAPIコネクタを開発することができます。
大谷:自ら作るのではなく、容易に作れる環境を提供しているんですね。
鈴木:はい。このAPI開発エコシステムは、日本独自のSaaSに対しても非常に効果的です。クラウドサインやfreeeなど、国内のSaaSでも、コミュニティによって開発されたAPIが公開されています。当社ではこれを「コミュニティサポート」呼んでいます。kintoneとの連携コネクタも2022年にリリースしました。
大谷:最後、日本での展開について教えてください。
鈴木:Workatoは、2021年11月に日本法人を正式に設立しました。初年度である2022年は、日本市場に向けた取り組みを加速します。
まず、アプリケーションのUIやマニュアルなどの日本語化に着手していていまして、早ければ今年夏にリリースを予定しています。また、パフォーマンス向上のため、従来は米欧2カ所だったデータセンターをアジアにも展開しています。最初にシンガポール、次に世界4番目のデータセンターとして日本を予定しています。大手企業にはデータを国外に持ち出したくないというニーズも多いので、そこに対応していきます。
Workatoは、日本でiPaaSという言葉そのものの認知を広めながら、業務の自動化を進める企業にニーズに応えていきたいと思います。
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